上 下
36 / 101
第一章:独裁の萌芽!?華の国ツバキ市の腐敗

第35話:オウとの逃避行!? 静かに始まるボアへの逆襲

しおりを挟む
「…………。つけてくる車はないようですね」

 俺は沈黙に耐えきれず、とうとう助手席に座るオウにそう話しかけた。

 俺とオウはツバキ市から、合星国総領事館のあるフヨウ市に向かっていた。

 ツバキ市からフヨウ市までは車で三時間程度であり、すでに中間点程度までは来ていた。

 ボアが監視を送り込むのではと警戒していたがどうやらそのようことはなさそうであった。
 
 オウが亡命する覚悟を決めてから、亡命を決行するまではあっという間であった。
 
 オウが公安局長を解任されたニュースは、ツバキ市中を騒然とさせた。武装警官内でも動揺が走ったであろう。
 
 オウは、次の日から淡々と副市長の仕事をこなしていた。もちろん、その裏で、テイを中心に亡命の計画と準備を行っていたのだが。
 
 亡命自体は、簡単な計画だった。オウは今日、教育現場を視察するとして外出する。そして、俺が車でピックアップして、フヨウ市に向かう。それだけだ。
 
 この五日間、最も警戒していたのはオウの暗殺だ。

 勢いでオウを首にしたのはいいが、自分の秘密を多く知るオウが裏切らないか、その不安を解消するためにボアが暗殺を差し向けるのでは。
 
 それが最も懸念するリスクであった。
 
 だか、どうやらそれは杞憂に終わったようであった。
 
 「……そうだな」
 
 オウは静かにそう答えた。亡命する時間が迫ってきて、ナーバスになっているのだろうか。
 
 俺はチラリとオウを横目に見た。
 
 オウは流れる景色を見ていた。
 
 最後にこの華の景色を記憶にとどめようとでもしているかのようであった。
 
 「…… シー様は、どこまでこうなることを想定していたのだろうか」
 
 ポツリとオウは俺に答えられないような疑問を呟いた。
 
 「分かりませんが、シー様の様子は、まるで最初からこうなることがわかっているかのようでした」
 
 俺はあの時のシー様の無表情な顔を思い出しながら正直に自分の思ったことを話した。
 
 「ルー、あの時、君は 言わされたのだろう。この計画を」
 
 「…… おそらくですが、そうです。シー様が私に話を振る直前、シー様は、私に思力を向けてました。シー様は、画面越しでしたが、私にはあの場にシー様もいるように見えていました。そして、気付いた時にはあのように話しておりました」
 
 「そうか。私には、そのようには見えなかったな。圧倒的に思力差があると、画面越しでも思力を向けられるというのは、まー、あるのだ」
 
 「そうなのですか……?」
 
 「ああ。もちろん直接思力を向けるのとは雲泥の差だがな。支配者が放送を使って民衆を扇動するのによく使っているよ」
 
 「そうだったのですか」
 
 「シー様は、最初から私を引き入れようと計画していたのだろう。テイを送り込んで、どうやって私を懐柔するか探っていたのだ。そして、偶然、ターニャ様の事件が起こった。それでテイは、私が現場に戻るよう仕向けたのだろう。あの日のシー様は底知れなかったな」
 
 「そうですね。シー様は思力の強さはオウ様やボアのように感じられないのですが、何か別の強さがあるよに感じます」
 
 「フフッ、ハハハ。ルー、同感だか、お前、テイに同じこと言うなよ。だいぶ失礼なこと言っているぞ」
 
 「す、すみません。もちろん、そんなつまりは……」
 
 「いや、いい、いい。ここには私とルーしかいないのだからな。焦って事故らないようにしてくれよ」
 
 「はい」
 
 先程までの沈黙が嘘であるかのように、オウと俺の会話は弾んだ。
 
 「そうだ。ルー、約束は覚えているか」
 
 「え、約束ですか?」
 
 「ハハハ、欲のないやつだな。稽古をしたとき言っただろう。終わったらご馳走してやると」
 
 「は、はい。思い出しました。しかし……」
 
 「まあ、そう暗くなるな。まだルーがボアに一泡ふかせることが出来るのかわからないが、私はルーを信じるよ。だから、フヨウに着いたらいいものを食おう。私だって、華の国での最後の食事だ。付き合え」
 
 「はい、あ、ありがとうございます。しかし、オウ様、服装が」
 
 そう言って、俺はオウの服を見た。オウは男の清掃員が着るような作業着姿であった。
 
 オウは、市庁舎から出る時に、変装していたのだ。
 オウと落ち合った時、俺は驚いて、変装の理由を聞いてみた。
 オウなら変装なんかしなくてもいくらでもやりようがあるのだから。
 
 「隠密行動と言ったら変装だろう。一度やってみたかったのだ」
 
 オウは、あっけらかんとそう答えた。
 
 「私の場合、現場に駆けつけて、思力でドカーンだろ。隠密の仕事なんてやったことなかったからな。少し憧れていたのだ」
 
 そう言ってオウは豪快に笑った。

 これから亡命するにも関わらず能天気だとその時は思ったが、それは、自分を奮い立たせる誤魔化しであったかもしれない。
 
 いずれにせよ、そういう訳で、俺の服装はともかく、オウの服装では高級なレストランには入れそうにもない。
 
 俺の指摘にオウはしばし考えこんだ。
 
 そして、キラキラした笑顔を俺に向けてこう言った。

 「ルー、私とデートだ」


 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...