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第一章:独裁の萌芽!?華の国ツバキ市の腐敗

第26話:武装警官隊の仕事!?巨大な思獣を制圧する者達

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 金融城に近づくにつれ、その上層に絡みついている思獣の巨体がより鮮明に見えてきた。
 
 その思獣はあまりにも巨体過ぎて、近づけば近づくほど非現実感が増していった。
 
 ビル上層四階分ほどを覆っている。

 あまりにも非現実的で、逆に恐怖心が少し落ち着いてきた。
 
 ……コンコン
 
ふいに助手席の窓からノック音が聞こえた。
 
 気付くと、武装警官の先輩が窓開けてとジェスチャーしながら、車を併走していた。
 
 (こんなスピード出しているのに!?)
 
 俺は、あわてて窓を開けて、少しスピードを、緩めた。
 
 「あ、いいよ、スピードはそのままで、ヨイショっと」
 
 その先輩は猛スピードで走る車になんなく窓から乗り込んできた。
 
 「助かったー、ルーくん、装備車両持ってきてくれたんだね。ふふふ」
 
 息ひとつ切れていない。
 
 乗り込んできたのは、テイを除けば最年少の武装警官のメンバーだ。
 
 武装警官の中ではマスコット的な扱いをされている少し天然な感じの人だ。
 
 淡い栗色のショートが良く似合うアイドルみたいな美少女だ。
 
 よく先輩風を吹かせてテイに絡みにくるが、テイからはいいようにあしらわれている。
 
「わたしさー、今日、オウ様にしごかれたじゃん?だから、おうちに早く帰ってシャワー浴びてたのよー。そしたら、呼び出しでさ。怖い先輩達よりも遅れられないじゃん?だから、こんな、格好でさ。こんな、格好じゃ、任務できないよー、ってとこでルー君が装備車両持ってきてくれてラッキーってね」
 
 先輩は状況の緊迫さとは不釣り合いに能天気にペラペラとしゃべりだした。
 
 チラリと先輩の格好をみると、確かに薄手のパジャマみたいな格好だ。
 
 「あー、ルー君、ルー君も男の子だから私のセクシーな姿見たい気持ち解るけど、ちゃんと前向いて運転してよー、ふふ」
 
 「い、いやそんなにつもりでは。す、すみません」
 
 「まー、まー、憧れの先輩がこんな格好なんだもんね。そりゃ、しょうがない。うん、うん。自分責めなくていいよ。責められるのは私のこの完璧なプロポーション、きゃー、恥ずかしいー!!」
 
 (なんて、能天気なんだ……)
 
 だが、この先輩は武装警官のなかでも実力はトップクラスで、メンバーからも一目置かれる存在でもあるのだ。
 
 その能天気な天然さでだいぶ損をしているのであるが。
 
 「いやー、しかし、あれだいぶ大きいね。あんな大きいの初めて見たよー。大丈夫かなー、ビル壊れたりしないかなー」
 
 縁起でもないことをあっけらかんと言うのである。
 
 「あ、そこ右だよ。ルー君、集合場所分かる??」
 
 「いや、実は無我夢中で、装備車両をだしてきたので、近くに行けばと」
 
 「そっかー、誰もルー君が現場に来るなんて想定してないもんねー。金融城の近くは避難する人でごった返すから、近くの広場にしたの」
 
 「そうなのですか。確かに。一般人はパニックになっているでしょうし」
 
 「そうだよー、少なくとも1つのビルに五千人くらいは働いているでしょ。避難させるだけでも大変だよ」
 
 そう、もし高層ビルが倒壊でもしようものなら被害は甚大だ。しかも、あの規模の思獣なら、本当にビルを倒壊させかねない。
 
「今は、オウ様が、思獣を抑えているけど、早く私たちが行って、オウ様は思獣をやっつけることに専念してもらわなくちゃ」
 
 確かに、思獣は、ずっとビルの高層に絡みついたまま動いてなかったのだ。
 不思議に思っていたが、動かないのではなく、動けなかったということか。
 
 「装備があれば私達前線部隊が思獣を抑えに行けるからさ、お手柄だよ、ルー君。ふふ」
 
 先輩はそう言って俺の頭を撫でてきた。

 テイに先輩風吹かせているのを体よくかわされているので、最近はこんな感じで、俺にからんでくるのだ。
 
 (悪い人ではないんだけどなー)
 
 ただ、圧倒的な力を持つものに撫でられるのは、嬉しさよりも圧迫感でいっぱいだ。
 ライオンが戯れにハツカネズミを足で転がしているようなものなのだ。
 

 ビルを見渡せる広場に到着すると、武装警官のメンバーが集まっていた。人数は十数人だ。
 
 「ルー、でかしたぞ。これで我らも前線に出られる」
 
 リーダー格の先輩にも同じように誉められた。
 
 メンバーは装備車両から対思獣用の装備を取り出し、おのおの準備をしている。
 
 装備とは、駆動力の付いた金属製のワイヤーやネットである。
 
 思獣を制圧するには、 まずその動きを止めなくてはいけない。
 
 しかし、テイのように相手を縛れるような思力様式スタイルばかりではないのだ。
 
 しかし、思獣は物理的な拘束力が通じる。
 
 そのため、初動でまず、思獣の動きを止めるため、ワイヤーや ネットで拘束する。
 
 ただ、災害クラスの思獣を拘束するのだ。
 装備のワイヤーやネットは相応の太さと重さを持つ。
 
 そのため、武装警官の中でも、身体強化に秀でた格闘家コマンダータイプしか扱えない。
 
 武装警官は、その思力の使い方によっては三つのタイプがいる。

 身体強化が圧倒的で、前線で体張って戦う格闘家コマンダー
 
 広範囲に思力の影響を及ぼして、相手を牽制したり、見方を援護する支援者サポーター
 
 そして、思力での戦闘に長ける支配者クエスタだ。

 対思獣戦では、まず格闘家コマンダーが思獣を拘束し、支配者クエスタが思力を撃ち込み、思獣化を解く。
 多くの場合思獣化が解かれた者は死んでいる。
 
 格闘家コマンダーのメンバーの準備は完了したようだ。

 集まっているメンバーのほとんどは格闘家コマンダーで、支配者クエスタは、リーダー格の先輩と天然な先輩だけだ。
 
 支配者クエスタはレアなのだ。
 なので、天然先輩は若いが一目置かれている。
 
 一方、支援者サポーターのメンバーは見あたらなかった。
 
支援者サポーターの先輩達は、一般人の避難を先導しにいったんだよ」
 
 辺りをキョロキョロしていたのが気になったのか、天然な先輩が教えてくれた。
 この先輩は、ワイヤーの装備はしていないが、戦闘服に着替えていた。
 
 三棟合わせて一万人以上がいるのだ。
 
 それを効率よく、避難させるには、思力で統制を取るのが一番だ。
 支援者サポーターのメンバーは避難の誘導が最適な仕事だ。
 
 「準備は完了出来たか。これから我々は前線に出て、あの思獣を拘束する。目標はかつてないでかさだ。現在は、オウ隊長が、頭と四肢、テイが尻尾を抑えている。我々はオウ隊長に代わって対象を拘束する。その後は、オウ隊長の一撃が思獣化を解くであろう。多くの人命を守るため、臆するなよ。行くぞ!!」
 
 リーダー格の先輩の合図で、メンバーは高層ビルを登っていった。まるで、空でも飛ぶように。各々が鉄の塊を装備しているにも関わらず、軽やかに壁を駆け上がっている。
 
 (これが武装警官………)
 
 圧倒的な思力差を前に何度も何度も感じる無力感だ。
 
 特にこのニヶ月の訓練で、少しは自分が出来るようになったと思っていただけに。まったく、レベルが違うのをまた痛感した。
 
「男が危険を省みず、この最前線まで装備を運んで役にたったのだ。誇りに思うがいいぞ」
 
 支配者クエスタであるリーダー格の先輩がそう声をかけてきた。まるで、俺の心を読んだように。
 
 「あ、ありがとうございます。他に俺ができ…」
 
 「もうルーに出来ることはない。むしろ上出来だ。一般人の避難はサポーターに、思獣は、我々に任せろ。あとは、君はこの現場から無事に離れることだけに集中しなさい」
 
  「………はい。ありがとうございます。先輩もお気をつけて」
 
 「ああ、思獣はかつて見たことがないほど巨大だがな。我々はこのような時のために訓練しているし、何よりオウ隊長がいるからな。安心しろ」
 
 そう言って先輩もビル上層に向かって駆けていった。
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