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第一章:独裁の萌芽!?華の国ツバキ市の腐敗
第7話:絶対絶命!? 現れたのは次期総書記様
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古戦場を思わせる荒野の中で、無数の炎の虎が空間を泳ぐように、踊っている。
その中心にはひときわ大きい炎虎。
オウはこの空間全体を炎で蹂躙し、なぎ払うつもりだ。
(ヤ、ヤバい……)
俺は自分の置かれた状況を理解した。
テイはともかく、巻き込まれた俺には完全に致命的だ。
何か方法はないか。
昼間の時のように空気の壁は今回のオウの規模では到底太刀打ちできなそうだ。
水で消火するというのも、男の俺の弱い思力では、文字通り焼け石に水であろう。
俺は、転生前の世界の知識を思い出しながら、何か手はないかと考えた。
走馬灯のように、転生前の人生とこの世界での人生の記憶が流れる中、俺は転生前の人生で、娘とやった実験を思い出した。
(一か八かというより、藁をもすがる方法だけど……。やるしかない!!)
この方法なら理屈上オウの炎を消火出来る。
この出来るというイメージは思力を使うにおいて非常に重要だ。
そして、俺は 理屈が通ることに対しては、自信が持てる。
俺は、オウの炎を消す物理現象を数式レベルでイメージして思力として解放した。
ブオーン ブオーン
辺りには場違いな重低音がこだました。
一瞬オウの炎はさらに燃え盛ったがほどなくして消えた。
――気柱の共鳴。
この現象を利用することで、炎は、音波によって消せるのだ。
娘が小学生の時、夏休みの自由研究で一緒にやった。そのときは小さい筒を使ってロウソクの炎を消しただけであったが。
思力であれば現実では用意できない実験環境を用意出来る!
俺は思力で、オウの炎を消せるような音波をイメージして具現化したのだ。
「!?」
オウの思力が消えたためか思界も消え、辺りは元の景色に戻った。
オウは突然自分の思力が、消えたことで固まっているようだ。
それはおそらく俺と同じ死の覚悟をしていたであろうテイもだ。
この瞬間、三者の間に沈黙の間が入った。
そして、一番早く動けたのはテイであった。
すでに思力で蔓を出していたのだ。それで、無防備なオウを拘束した。
オウは、体中緊縛された状態で宙に持ち上げられた。
無防備な状態で、ボロボロとはいえテイの全力の思力を受けたのだ。
これはテイの勝ちであろう。
俺にとっては、オウよりはテイが勝った方がなんとか生き延びれるような気がする。
この後どうなるかまったく確証はないが、根拠のない安心感を俺は持った。
オウを拘束したテイは、呼吸を整えながら、俺とオウを見比べ言った。
「何が起こったのか分かりませんが、私の勝ちですね」
戦闘前の余裕のこもったしゃべり方だ。
オウは、そのセリフに反応するかのようにテイを、睨み付けながら拘束解くためもがいている。
しかし、まったく無防備な状態でテイの思力を受けたのだ。そう簡単に拘束は解けそうにない。
「そんなに暴れないで下さい。オウ様には、協力いただきたいだけなのです。党のために……」
「やはり中央のものか!!」
「そう邪険にせず、少し落ち着いてお話しを聞いていただければ」
「腐敗まみれの中央の言葉など誰が聞くものか!!」
オウは、そう言ってさらに抵抗しようともがいた。
生身の人間が金属のワイヤーで拘束されているようなものだ。まったく無駄だろう。
どうなるものか。俺は事態の推移を見守った。
もちろん、逃げる機会を伺うためだ。
「それは、あなたが仕えているボア様も同じでなくて」
テイはこの市のナンバーワンである、ボア・シー・ライの名前を出した。
犯罪組織や汚職撲滅など、ボアが市の書記長になってからの功績は高く、オウと並んで、いや、オウ以上に市民からは人気があった。
一方で汚職の噂は絶えたことはない。
「中央のものに何がわかるものか」
オウは、ますます怒った。
気のせいか、オウを拘束するテイの金属の蔓が少し赤みを帯びてきたように見える。
(いや、気のせいでない!?)
明らかに金属の蔓は赤く輝きだした。
金属の蔓は赤く輝き 、周りに蒸気が漂い出した。
そして、ついには柔らかくなり、溶け出した。
凄まじい熱量だ。これまでのオウの思力は紅い炎であったが、今はその炎が白く輝きだしている。
これが歴戦の猛者、オウの底力!!
無防備で受けた思力をただ跳ね返すのでなく、圧倒的な力で無力化してしまった。
金属の蔓が溶けたのは、テイがオウの力に敗北感を植え付けられたからだ。
テイは抵抗する気がなくなったのか思力を出そうともしない。
先程の余裕な表情は、呆然自失に変わっている。
白く輝く思力装を纏ったオウは、さながら愚かなものに罰を下す女神のようだ。
「私はこの市に華の国の理想を実現させる。腐敗した中央に邪魔などさせん」
今日何度目かの致命的状況であるが、流石にもう何も手がない。この思力は、俺だけでなく、エリートのテイでも致死的であろう。
テイに止めの一撃を放とうとオウが動いた瞬間、オウを漆黒の霧が覆い出した。
「!?」
オウもそれに気付いたのか、慌てて辺りを見渡している。
漆黒の霧がオウを覆い、それに合わして、その霧が熱を吸い取るかのようにオウが放つ輝きが紅い炎へと変化し、さらにはその炎が弱くなっていった。
慌てたオウが思力の炎を放ったが、それは、霧が炎のまま凍らしてしまった。
「今だ、テイ」
その声は無機質で冷ややかであるが、この世の声とは思えないくらい美しくもあった。
その呼び掛けに応えるようにテイは、再度金属の蔓を使ってオウを拘束した。今度のオウは抵抗もなく呆然としていた。
「お待ちしておりました。シー様」
「……ああ。オウ相手によく耐えたな」
「正直申し上げますと、オウの思力は予想以上でした。一人で対応するというのは思い上がりでした」
「そうだな。戦闘だけで言ったら私でも手に負えなかっただろう。テイがオウの思力を削ってくれたおかげだ」
現れた女は労いの言葉をテイにかけた。
声はあくまで無機質であったが。
突如現れたシーと呼ばれた女。
(まさか、あのシーなのか!?)
確かに見覚えはあるが、シーが俺の考えているシーだとすると、大変なことどころの話ではない。
(なんて日だ!!)
この状況を現実として受け止め切れない俺は、日本でで人気だったお笑い芸人のネタ如く心の中で叫んだ。
目の前にいるシーと呼ばれた女は、華の国を支配する党の最高意思決定機関、
――九人しかいない中央政治局常務委員会の一人。
その序列六位で、党副書記長であるシー・ムセツであった。
その中心にはひときわ大きい炎虎。
オウはこの空間全体を炎で蹂躙し、なぎ払うつもりだ。
(ヤ、ヤバい……)
俺は自分の置かれた状況を理解した。
テイはともかく、巻き込まれた俺には完全に致命的だ。
何か方法はないか。
昼間の時のように空気の壁は今回のオウの規模では到底太刀打ちできなそうだ。
水で消火するというのも、男の俺の弱い思力では、文字通り焼け石に水であろう。
俺は、転生前の世界の知識を思い出しながら、何か手はないかと考えた。
走馬灯のように、転生前の人生とこの世界での人生の記憶が流れる中、俺は転生前の人生で、娘とやった実験を思い出した。
(一か八かというより、藁をもすがる方法だけど……。やるしかない!!)
この方法なら理屈上オウの炎を消火出来る。
この出来るというイメージは思力を使うにおいて非常に重要だ。
そして、俺は 理屈が通ることに対しては、自信が持てる。
俺は、オウの炎を消す物理現象を数式レベルでイメージして思力として解放した。
ブオーン ブオーン
辺りには場違いな重低音がこだました。
一瞬オウの炎はさらに燃え盛ったがほどなくして消えた。
――気柱の共鳴。
この現象を利用することで、炎は、音波によって消せるのだ。
娘が小学生の時、夏休みの自由研究で一緒にやった。そのときは小さい筒を使ってロウソクの炎を消しただけであったが。
思力であれば現実では用意できない実験環境を用意出来る!
俺は思力で、オウの炎を消せるような音波をイメージして具現化したのだ。
「!?」
オウの思力が消えたためか思界も消え、辺りは元の景色に戻った。
オウは突然自分の思力が、消えたことで固まっているようだ。
それはおそらく俺と同じ死の覚悟をしていたであろうテイもだ。
この瞬間、三者の間に沈黙の間が入った。
そして、一番早く動けたのはテイであった。
すでに思力で蔓を出していたのだ。それで、無防備なオウを拘束した。
オウは、体中緊縛された状態で宙に持ち上げられた。
無防備な状態で、ボロボロとはいえテイの全力の思力を受けたのだ。
これはテイの勝ちであろう。
俺にとっては、オウよりはテイが勝った方がなんとか生き延びれるような気がする。
この後どうなるかまったく確証はないが、根拠のない安心感を俺は持った。
オウを拘束したテイは、呼吸を整えながら、俺とオウを見比べ言った。
「何が起こったのか分かりませんが、私の勝ちですね」
戦闘前の余裕のこもったしゃべり方だ。
オウは、そのセリフに反応するかのようにテイを、睨み付けながら拘束解くためもがいている。
しかし、まったく無防備な状態でテイの思力を受けたのだ。そう簡単に拘束は解けそうにない。
「そんなに暴れないで下さい。オウ様には、協力いただきたいだけなのです。党のために……」
「やはり中央のものか!!」
「そう邪険にせず、少し落ち着いてお話しを聞いていただければ」
「腐敗まみれの中央の言葉など誰が聞くものか!!」
オウは、そう言ってさらに抵抗しようともがいた。
生身の人間が金属のワイヤーで拘束されているようなものだ。まったく無駄だろう。
どうなるものか。俺は事態の推移を見守った。
もちろん、逃げる機会を伺うためだ。
「それは、あなたが仕えているボア様も同じでなくて」
テイはこの市のナンバーワンである、ボア・シー・ライの名前を出した。
犯罪組織や汚職撲滅など、ボアが市の書記長になってからの功績は高く、オウと並んで、いや、オウ以上に市民からは人気があった。
一方で汚職の噂は絶えたことはない。
「中央のものに何がわかるものか」
オウは、ますます怒った。
気のせいか、オウを拘束するテイの金属の蔓が少し赤みを帯びてきたように見える。
(いや、気のせいでない!?)
明らかに金属の蔓は赤く輝きだした。
金属の蔓は赤く輝き 、周りに蒸気が漂い出した。
そして、ついには柔らかくなり、溶け出した。
凄まじい熱量だ。これまでのオウの思力は紅い炎であったが、今はその炎が白く輝きだしている。
これが歴戦の猛者、オウの底力!!
無防備で受けた思力をただ跳ね返すのでなく、圧倒的な力で無力化してしまった。
金属の蔓が溶けたのは、テイがオウの力に敗北感を植え付けられたからだ。
テイは抵抗する気がなくなったのか思力を出そうともしない。
先程の余裕な表情は、呆然自失に変わっている。
白く輝く思力装を纏ったオウは、さながら愚かなものに罰を下す女神のようだ。
「私はこの市に華の国の理想を実現させる。腐敗した中央に邪魔などさせん」
今日何度目かの致命的状況であるが、流石にもう何も手がない。この思力は、俺だけでなく、エリートのテイでも致死的であろう。
テイに止めの一撃を放とうとオウが動いた瞬間、オウを漆黒の霧が覆い出した。
「!?」
オウもそれに気付いたのか、慌てて辺りを見渡している。
漆黒の霧がオウを覆い、それに合わして、その霧が熱を吸い取るかのようにオウが放つ輝きが紅い炎へと変化し、さらにはその炎が弱くなっていった。
慌てたオウが思力の炎を放ったが、それは、霧が炎のまま凍らしてしまった。
「今だ、テイ」
その声は無機質で冷ややかであるが、この世の声とは思えないくらい美しくもあった。
その呼び掛けに応えるようにテイは、再度金属の蔓を使ってオウを拘束した。今度のオウは抵抗もなく呆然としていた。
「お待ちしておりました。シー様」
「……ああ。オウ相手によく耐えたな」
「正直申し上げますと、オウの思力は予想以上でした。一人で対応するというのは思い上がりでした」
「そうだな。戦闘だけで言ったら私でも手に負えなかっただろう。テイがオウの思力を削ってくれたおかげだ」
現れた女は労いの言葉をテイにかけた。
声はあくまで無機質であったが。
突如現れたシーと呼ばれた女。
(まさか、あのシーなのか!?)
確かに見覚えはあるが、シーが俺の考えているシーだとすると、大変なことどころの話ではない。
(なんて日だ!!)
この状況を現実として受け止め切れない俺は、日本でで人気だったお笑い芸人のネタ如く心の中で叫んだ。
目の前にいるシーと呼ばれた女は、華の国を支配する党の最高意思決定機関、
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