鬼斬忍法帖

海星

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三上忍

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 薄化粧やスキンケアを毎日するようになった。

 それが忍術獲得のためといわれてしまったらやるしかない。

 俺は学校ではかなり会計監査の仕事を覚えた。

 悠子さんの役に立ててるかはまだわからないが大分足を引っ張らなくなったのではないかと思う。

    お茶の入れ方も覚えた。

    料理も大分出来るようになったが、何故か聡子さんが俺に教えてくれる料理はどれも悠子さんの好物ばかりだった。

 『双忍術』の修行は一旦ストップしている。

 変装以前に俺が化粧すら覚えていないからだ。

    忍術はまだ教わっていないが毎晩「忍の心得」などの座学を聡子さんから学んでいる。

    「くのいちとは何だ?

    早、答えてみろ」

    「女の忍者・・・だと思います」 

    「間違っている。

    『くのいち』とは本来『女』を指す隠語だ。

    古くは文献の中で清少納言の事を指している。

    女性の忍者というのは文献にも登場しないし、近年の研究では『いなかったのではないか』と言われている。

    でも近年女性の忍者の後継者が多く生まれているのだ。

    そこには後継者不足、女性の社会参加、男女雇用機会均等法など色々な物事が複雑に絡んでいるのだ。

    そんな女性後継者の一人が悠子様だ。

    悠子様はその有能さで他の者を黙らせ後継者の地位に登り詰めた。

    もちろん女だてらに党首をしている悠子様をよく思わない輩は多い。

    そんな輩を利用して悠子様を追い落とそうとする者もいる。

    かつて『伊賀の三上忍』と呼ばれた名家が存在する。

    『百地』の後継者は知っての通り悠子様だ。

    『藤林』の後継者は焼蛤高校の新任女性教師だ。

    今のところ目立った対立はない。

    藤林とは藤林長門守を開祖とした「三上忍」のうちの一つだ。

    藤林の娘、『藤林伊吹ふじばやしいぶき』は後継者の座までのしあがった悠子様とは違い、蝶よ花よと甘やかされて育ったお嬢様で野心は一切ない。

    注意するとすれば伊吹を利用しようとしている側近だが、藤林は忍者の表向きの顔を一般人に伝えている。

    下手なイメージが落ちるような事はしないだろう」

    「藤林が忍者の広告塔?」と俺 。

    「うむ、忍ぶ事が常の忍者はあまり表には出ないし、書物にも登場しない。

    なので憶測から忍者は怪物のように想像されがちなのだ。

    早は見た事ないか?

    巨大なガマガエルの上で巻き物を咥えて忍者が印を切っている姿を。

    闇に隠れる者は必要以上に怖れられがちで、西洋の『魔女狩り』のように迫害されがちなのだ。

    なので藤林は忍者のイメージアップを担ってきた。

    長門守の子孫、藤林佐武次保武は一般人向けに『忍者とは忍術とは何か』を記した『万川集海』の作者だ。

    伊吹の側近、高山晶たかやまあきらの先祖『高山太郎次郎』の住んでいた屋敷は現存する忍者屋敷として一般に公開されている。

    脱線したが、このような事情で藤林は敵になりにくい。

    しかし問題は『服部』だ」

    「服部の血縁者は焼蛤高校にいるとは悠子さんも言っていました。

    でも彼女は後継者ではないとも言ってました。

    何が問題なんですか?」と俺は言う。

    「さっき話したな。

    『悠子様を追い落とそうとする者がいる』と。

    その一人が『服部有紀はっとりゆき』焼蛤高校の風紀委員長だ。

    彼女は野心家だ。

    その上学校生徒の約半数を籠絡している。

    彼女が悠子様に抱いている感情はわからない。

    憎悪や嫉妬かも知れない。

    悠子様は全てを持っているし、何でも出来る。

    妬み、やっかみの対象になる事は珍しくない。

    特に彼女は勉学でもスポーツでも忍術でも悠子様に次ぐ二位の座にある。

    悠子様を目の上のこぶ扱いしているのだろう。

    まあ、悠子様が服部の小娘に遅れをとる事はないだろうがな。

    だが悠子様はとんでもない泣き所を抱えてしまったのだ。

    早、おまえだよ」と聡子さん。

    「・・・・・・」自分がお荷物な事くらいわかっていた。

    悠子さんの側近は聡子さんをはじめ優秀な人材揃いで『人罪』と言えるのは俺だけだ。

    どれだけ頑丈な防波堤でも小さな穴から決壊するものだ。

    俺でも悠子さんを攻めるなら『近くにいる小娘から』だろう。

    「早、お前が未熟なのは仕方のない事だ。

    早が未熟だからこそ私は今、ここにいる。

    早や悠子様をお守りするのは私の役目だ。

    だがな、いくら私がお前を守ろうとしても自殺志願者や自分を守ろうという意志がない者を守ろうとする事は並大抵ではない・・・というか不可能だ。

    早は一切隙を見せないつもりでいろ。」と聡子さん。

    「具体的に何をすれば良いのですか?」と俺。

    「悠子様を見ろ。

    頭の天辺から爪先に至るまで一切の隙がない。

    『悠子様を目指すなどおこがましい』と思うかも知れない。

    だが高い山を目標にしないと低い山にも登れない。

    早、お前は仕草、話し方、洋服の選び方、歩き方、化粧の仕方・・・などなど、悠子様を目指せ。

    少しでも悠子様に近付けたら、それが『隙が少なくなった』という事だ」

    「わかりました!頑張ります!」俺・・・いや心の中で俺なんて言ってるから、いつまでたっても隙が消えないんだ。

    以前悠子さんも言っていた。

    「『私』と男でも言う社会人は多い」と。

    一人称で『俺』と言うのは学生として甘ったれている証なんだ。

    私はハッキリと答えた。



    早がいなくなった後、虚空に向かって聡子さんが言った。

    「悠子様・・・コレで良かったですか?」

    するとどこからともなく悠子さんがあらわれ言った。「ありがとう。

    完璧よ。

    早ちゃんは素直だけどイマイチ仕草が女らしくないのよね。

    そこが惜しかったのよ!

    可愛さが足りなかったのよ!

    これから早ちゃんはどんどん可愛くなるわよ~」    
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