崖っぷち動物園

海星

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ダメ元

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    あらゆるツテを使ってタスマニアデビルをあと一歩で輸入出来る事になった。

    だがあと一歩のところで「アンタのことろ、タスマニアデビル飼えるだけの設備あんの?」と相手に聞かれた。

    「今はお金はないけど、タスマニアデビルの輸入が決まったら、銀行が融資してくれるだろうから・・・」と最期まで言う前に電話を切られた。

    丁寧に色々と言っていたが、要約すると「おとといきやがれ」という意味だ。

    ある意味、タスマニアデビルなんて輸入しなくて良かった。

    よく考えたらタスマニアデビルなんて客は呼べない。

ちょっと可愛いと思ってたけどよく見ると怖い。





    今日の来園者数、1名。

    しかもその1名も園長である俺の身内で実質0名だ。

    もう万策尽きた。

    金を使ってテコ入れしようにもその金がない。

    借金なら山ほどあるが。

    しかも今いる動物もウサギ、モルモット、ヤギ、豚などで子供向けのふれ合い牧場よりも動物の品揃えが悪い。

    ふれ合い牧場を名乗るのであれば、あと牛と馬と羊くらいは必要だ。

    ここは島根県にある『崖っぷち動物園』
    皆さんご存じの通り「どこにあるかわからない。もしかしたら空想上にしかないかも知れない」と言われている、あの島根県だ。

    日本で異世界に繋がっている県は2つしかない。

    群馬県と島根県だ。

    島根県は天空に浮いている。

    10月になると神が島根県にある出雲大社に集まるというのだから最も天国に近い天空にあるのは当たり前だが。

    ちなみに神が出雲大社に行ってしまっていない10月を他の県では「神無月」というが、神だらけになる島根県では「神有月」と言うという嘘のような本当の話。

    「嫁入りするくらいなら舌を噛んで自害したい県」を群馬県とナンバーワンを争っているほど人間には不人気極まりないけど、両県とも神様には人気があるようだ。

    神は群馬県と島根県を異世界と繋いだ。

    だからどうした、という話だ。

    天空にある島根県も、地底にある群馬県もどちらも異世界と同じであるかないか誰も知らない。

    そこに行けばどんな夢も叶うと言われているガンダーラのような場所だ。

    実際ガンダーラはインドにあり、夢が叶う場所ではなかった。

    島根県も同じだ。

    「島根県に行くといぼ痔が治る」と言われているが、行くのに利用した乗り物によっては、いぼ痔は悪化する。




    もうどこもお金を貸してくれない。

    もう破産するしかないか。

    そう覚悟を決めた時、唯一の来園者である妹が言った。

    「諦める前に異世界の動物展示すれば?捕まえてくればタダでしょ?異世界なら環境保護団体も動物保護団体もうるさくないから捕まえ放題だし。それに私・・・モンスターテイマーの称号持ってるみたいだし」

うそーん、初耳・・・





    妹と俺は血が繋がっていない。

    妹は宍道湖のほとりに捨てられていたらしい。

    覚えていないが、宍道湖のほとりで出会った、という事で俺が「しじみ」と命名したらしい。

    見事に覚えていないほど昔の話だ。

    俺が名付けたとしてもそれを止めなかった両親が悪いと思うんだ。

    俺が妹に恨まれる筋合いはあんまりないと思うんだ。

    妹は異世界出身なんだろうか?モンスターテイマーの称号持ってるくらいだし・・・ん?称号?

    「称号って何だ?」俺は妹に聞いた。

    「フィールドワークで異世界に行ったのよ。

    そうしたら空中にステータスウィンドウが見えて『モンスターテイマー』って書いてあったの」

    「ふーん、俺にも何かステータスあんのかなあ?」俺がもし勇者ならどうしよう、異世界の王様が肩代わりしてくれて借金が帳消しになるかも・・・なんて事を考えていると、

    「ステータスは誰でもあるみたいだけど、称号はだいたい『村人』みたいだよ?」妹が言う。

    さいですか。

    もう少し夢見たって良いじゃない。

    妹の意見を取り入れたく無い訳じゃない。

    モンスターテイマーの称号を持っているのが妹で、妹は動物園のスタッフじゃないしスタッフを雇う金もない。

    それに妹に危険なモンスター集めをさせたくない。

    シスコンで悪いか。

    「無給で良いからモンスターを異世界に捕まえに行こう?

    もう今晩の晩御飯代もないの。

    連れていってくれないなら一人でモンスター退治して今晩の晩御飯代を稼ぐしかないんだけど」妹に言われてしかたなく俺は異世界に行く事にした。
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