【完結】ダメなのはわかってる、それでも。

もえこ

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初めての約束

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同じ係ではあったため、たまに係のメンバー数人で飲み会の機会はあった。

彼はそのような場においても決して出しゃばらず、どちらかというと聞き手。
柔らかな表情で、周りに話を振りつつ、ふわりと微笑む。

彼と共に仕事をしたことがある人間は、必ず彼のことを、争いを嫌う優しい人間と表現する。
私もそう思った。
ただ、柔らかな物腰に反して、彼にはどこか人を受け付けない見えないバリアが存在するように、私には感じられていた。

つまり、私自身と同類なのではないか…と。

係内は仲が良く、女性は私1人だけの4人体制ではあったが、そのうちの男性1人と私で2人で食事に行ったり、3人で行ったり、様々な組み合わせで交流はしていた。

私は女性の友人や先輩と食事に行くこともあったが、年齢を重ねていくうち、むしろ同性へ気を遣うことの方が多くなり、実はあまり発言に気を遣わないでいられる男性と行く方が、気楽になってきていた。

そのような状況下でも、私はなぜか克之とは一度も2人きりで食事をすることがなかった。

だから今回、2人きりでの食事の約束をしたのはとても珍しいことで、恐らく最初で最後になるだろうと私は勝手に予測していた。

約束のきっかけは、克之の部署異動。

4月から克之が別部署へ異動することになったため、
私が思い切って、兼ねてから本当に行ってみたかった克之の行きつけのレストランに、最後に一緒に行きませんか?と申し出たこと。

そこに、何の期待も…当然、下心なども一切なかった。
ある意味、私の「食」に対する欲求がきっかけ…。
それほどに、私は克之のことを男として、意識していなかったのだ。

本当に、それが始まり…だったのに…

この後、
私と克之は驚くほどに、近付くことになる…。

            
              
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