【完結・R18】鉄道の恐怖

もえこ

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清春編

あの日

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「おい…清春君…本当に、大丈夫なのか… ほら、水を飲め… 」

哲也が、その顔にいまだ微笑みを張りつけたまま、俺にペットボトルの水を差し出す。

「…  …  …  」

血の気がなくなるとは、こういうことか…

くらくらする…  軽い、吐き気…
そして、立ちくらみ…
いや…実際には座らされているのだが、目の前が…天井が回るような… 眩暈も…

そういえば…

 ふと…

随分前の…真由とのやり取りを思い出す…

あれはまだ、結婚前…そして、そもそも俺たちが付き合う前…
仕事中、真由の具合が悪そうで、俺から声をかけた。

「栗原さん、今日はなんだか朝から顔色が悪いよ…?無理せず、帰ったらどうかな…」
そんな風に声を掛けたら、真由はひどく青白い顔で…それでも、ぱあっと、花が咲くように、嬉しそうに笑った。

「坂下さん、さっすが…やっさしいですね…正解です…今日はアノ日なんです…一番ひどい日っ…ていうかそもそも、もともと貧血気味で…あーーだめだ…なんだかお腹も痛くなってきたし…主任に伝えて帰ろっと…坂下さん、気付いていただいて、ありがとうございます」

あの日…
そうか、生理…だったのか…

その後、努めて普通にはしていたが…
俺は真由の体調の話を聞いている最中、体温が上がりそうになるのを必死で堪えた…
男が踏み込んではいけない、女性の領域の話に思えて…なんとなく気恥ずかしい…そんな、思いがして…

外から見てわからないだけで…女性はその時期、色々大変なんだな… 漠然と、そう思った記憶がある。

結婚後に、真由は、俺のそういうところが好きだと…
苦しんでいる人を放っておけずに気遣うところ…そんな性格を好きになったと…そう、話していたっけ… 

真由は生理が割とひどい方らしく…その期間は必ずと言っていいほど貧血になり…眩暈と立ちくらみに苦しんでいた…だから、どうしても休めない仕事の日には、苦労していた…

だが、俺が何度言ってもよほどのことがない限り、真由はその休暇を利用して休むようなことはしなかった…周りにばれると恥ずかしくて無理と…そう、話していた…。

退職後は…辛いときにはソファで自由に休める~それが一番収穫だと、しみじみ嬉しそうに語っていたな…

今…こんな場面で…真由とのそんな日常のことを思い出す…  

   やはり、現実逃避が甚だしい… 

俺はゆっくりと、息を吐く… 
それにしても…

     やはり、気分が悪い…  

  



  
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