【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

掌

「なんだ、そのうんざりした態度は…」

少しの時間を置いて…
哲也が頭上からそんな風に声をかけてくる。

バレたか…

　　…心から、うんざりしている…

本当なら、お前の声など、聞きたくない…
お前の口から飛び出してくる陰鬱な…全ての言葉を…
右から左に流してしまいたい…

だが、下手に無視をすると、
またいきなり、殴られるかもしれない…
荒々しく、蹴られるかもしれない…
哲也を怒らせると、余計に面倒だ。

やはり、なんらかの返事をした方が無難だ…
とにかく、目標は真由の残したであろう手紙を読むこと…それに尽きる。

男をこれ以上怒らせずに…
真由が最後に書いたというあの手紙を…俺は必ず、手にしなければならない…

「いえ…そんな、ことは… 」

一応の、否定…下手したてに出るより他はない。

心中は真逆だ…
辟易へきえきしている… 
貴様の顔など…声など…見るのも聞くのもうんざりだ…と、頭の中でだけ密かに囁く…

「まあ…君の気持ちも少しはわかるがね…もうすぐこの世からいなくなるんだ…そりゃ、うんざりもするだろう… 」

また、この男は…
俺の気持ちがわかると簡単に…口にする。

わかるものか…
完璧に拘束されて身動きも取れず、奇妙な…蛇のような男…義理の兄から、消すと宣告されている人間の…俺の気持ちが…

わかるはずもない…。

しかも、うんざりしている理由はもはやそこでない…
貴様の面倒臭い…その、ねちっこい性格に、心の底からうんざりしているのだ…。

そんな風に…
男に、はっきりと言いたいことが言えたら、どんなに気持ちがいいだろう…

だが、もはや… 俺は…
そんなことを言える立場ではない…
男の言う通りだ。
俺にはもう、逃げ場という逃げ場がない…
全ての、選択肢がない。 

もはや俺は、俺の運命は…
男の…哲也の…掌の上で、ころころと転がされているようなものだ…  

　　　　　きっと、終わりなのだ… 

そんなことはもうとっくに…
　　　　　悲しいほどに、わかっていた。