【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

発話

今、この男は茉優子について、話をすると言った…

やはり…哲也は既に、茉優子のことをつかんでいる…？

茉優子が俺と同じ、既婚者であることも…？

既に、茉優子の名前を知っているくらいだ…やはり、探偵か何かを雇って、茉優子の身辺を探り、全ての情報をつかんでいるのかもしれない…

「んっ… ん、っ… ！」

「おや…目だけではなく、もしかして、口の方も外して欲しいという、アピール…なのかな…？
うーん…特別に取ってやってもいいが、いちいちギャンギャン喚かれると面倒…だしな…」

哲也が顎に手を添えて考えるような素振りをする…男の癖…いつもの、男のパフォーマンスにすぎないとわかってはいたが、俺は必死だった…

やっと闇から解放されて、開けた俺の視界…

さっきまでは…
男の顔から…その凶悪な視線から…恐怖で目を逸らしていたが…

男の口から茉優子の名前が出た以上、このまま…
ただ一方的に男の話を聞くことしかできない今の状況には耐えられない…
あまりに、気がかりなことが多過ぎる…

言葉を、発したい…
これから男が話すことに…このまま、何も反論できない状態は、あまりに… …

俺は、目だけで…必死に男に訴える…

外せ… 
この、邪魔過ぎる布切れを今すぐはずしてくれ…

「おや…  清春君… いつも冷静な態度を崩さない君にしてはかなり、必死だな… 
愛する女の名前を出した途端、その態度か… うーん… そうだな…条件がある。大きな声で喚くのは禁止だ… それを守れるなら取ってやってもいいが、どうする…？」

もう、なんでもいい…
もともと俺は大きな声なんて出せない性質だ…  なんでもいいから、早く…これを…

「ふふ…まあどうせ、君に先の未来はない…これくらいはいいか…恩情だと思えよ… ほら… 」

シュルル… 

男の手によって、布がはだける…
酸素が、先ほどまでとは打って変わって十分に肺の中に入り込み、咳込みそうになる…
 「っ…ふ、は、あっ… はあ、っ… 」

「さあ…これで、話を始めていいか…？」
哲也が前置きをする…

「そのっ…  …」
俺は気付けば、口を開いていた。

だが、それは自分でもほぼ無意識下の、感情の爆発… 
魂の叫びのような、発話…
「その…前にっ…なんでこんなっ…ことを…こんな事が、許されると思っ…  　ぐ…っ！うっ… はっ… 、あっ…  あ…」

「チッ… 」

哲也の舌打ちが…微かに聞こえた…
これで、二度目だ。

「ぅ、げっ…  ゲホ…  っ… う… … 」

俺は堪らず咳込み、
一瞬、吐きそうになる…
　　腹を思い切り、拳で殴られ…た…

こんなことを…
今までに、他人にされたことがなかった俺はあまりに、驚き…
　　　呆然と…男を見上げた…