【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

現実

人が一人、死ぬということ…

ましてや、自身の家族が、大事な人間が、他人に命を奪われること…
その対象が大人であろうが、子どもであろうが、残された家族に、絶望以外の、何が残るだろう…

相手を、死に至らしめる行為…
そしてその取り巻く家族を、行き場のない不幸に陥れる罪… 殺人の、罪…

今…そのことが少しだけ身近に感じられるこの状況に、俺はおかしな感覚を覚える。

ありえない、だろう…　　　　

不幸な事件に巻き込まれた被害者は皆、
死の直前に…こんな感覚を味わったのだろうか…

もう少し、色々なことに警戒しておくべきだった…　　
他人事とは思わずに、気を付けておくべきだった…　　
あんなことをしなければ良かった…　こうしておけば良かったと…
会いたい…　死にたくない…
誰かに助けて欲しいと…願っただろうか… 

その瞬間、
色々な後悔が、頭の中を駆け巡ったかもしれない…

それほどに、
ありえない…
自分がこの世から消される…
いなくなるなんてこと、は…

まだ、食べてみたい物がある。
まだ、行ってみたい場所がある。
仕事ばかりでまともに旅行すらしていない…
親とあった時間もごく短時間で、まともに話すらしていない…


まだ、40才、そこら…

会いたい人も…　伝えたいことも…
まだ、たくさん…俺には、やらなければならないことが…

　　　　　　　　茉優子…

茉優子とも結局、あれ以降連絡を取れていない…
話したいことが…  彼女の顔を見たい…

なのに、俺はこのまま…
こんなわけのわからない場所で、人知れず、殺されてしまうのか…？


ドラマや、映画ではない…　

　　　この、現実の世界で…　

　　　　そんな、馬鹿な…ことが…　

　
人として生まれた以上は、犯してはならない境界線…最大の罪である、殺人…

あの男が平気で俺の前で口にした、殺人予告…　　

到底、ありえない予告だ…
よほどのことでない限り…追い詰められていない限り…普通は、その選択にはならない、はずだ…
だからありえない…　　
きっと、一時の気の迷いだ…

そんな風に、
あの男の一連の行動を片付けたいと思う反面、頭の隅にうっすら、あの男ならやりかねない…
俺はひょっとしたら、このまま　…　　

そんな表現のしようがないほどの不安が、俺の胸に…じわじわと、

　　　　　押し寄せてきていた…