【完結・R18】鉄道の恐怖

もえこ

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清春編

幻想

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俺はこのホテルに入った瞬間から
  茉優子をこの腕に抱いた瞬間から…

哲也を、忘れていた…
そしてあろうことか…  いや…
あってはならないことだが、真由を…忘れていた…

だが… 当然のことかもしれない…

行為の最中…
もし仮に頭の中に…家で自分を待つ妻の顔がよぎれば…たとえば可愛らしい子供たちの顔がよぎれば…
男は途端に我に返り…自分がしていることの罪深さを感じるかもしれない…

そうなれば、終わりだ…

ひとたび、
現実世界に戻れば…
冷静に、自分のしている行為と、その状況を考えれば… 伴侶に対する…家族に対する裏切り行為に他ならないのだ…

決して正しい関係ではない…非難されるべき行為を…冷静な頭で、継続することはできないだろう…

だから、その瞬間…その空間…だけは頭の中から家族という存在を排除する… 
だがきっと、無意識ではないのだ…

どこまでもずる賢く…
意識的に、現実を忘れたふりをして…
その瞬間だけ、伴侶ではない相手との幻想の世界にどっぷりと、酔いしれる…

だが、その幻想に過ぎない関係性を…

当事者である二人が…
現実のものに変えるパワーがあるか否か…  

その力が、なければ…
やはり不倫は…どんなに二人がその限られた狭い空間で、愛を語ろうとも… どんなにお互いに運命を感じていようとも…
正当化されない。

いや、もしかすると…

家族とは違い、一緒に生活を共にしていない相手だからこそ、
相手の悪い部分が見えずに…

つまり、ホテルの一室という限られた時間…空間での関係だからこそ、相手の良い部分しか目に映らず、

結果として、お互いにその時間を心地よく感じてしまうだけ…   なのだろうか…   

不倫とは、 一体…  

いや…   
そんなことを今、つらつら考えている時間はない…

   とにかく出来うる限り、
     早く、戻らねば… 

俺はすぐに体を起こし、
時間を確認すべく、

 携帯を鞄の中から取り出した。



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