【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

教室

俺は少しイラつきを覚えながら真由を見つめるが、哲也はなかなか現れない。

時計を見ると午後の二時過ぎ…
ふと…気付く。
今日は英会話の日じゃないか…

妻の自殺という非常事態だ…

もう、通うことは出来ないとわかってはいたが、まだ、退会手続きなどを進める心の余裕などなかったために、そのままにしていた。
極端な話、今日行くことだってできる…教材は、ないが…

茉優子はいつものように、教室に通っているのだろうか…
真由のことがあってから、俺自身はもう三回ほど欠席している教室…

行けなくなってまだ一月も経たないのに、無性に懐かしい気がした…

茉優子はいつも俺の隣に座り、真剣な眼差しで、先生の話を聞いていた。
茉優子の身体…あるいは髪からは、いつも花のような甘い香りがして、心地よかった。ずっと、隣に…座っていたいような気持ちにさせられる…　

ああ… 茉優子に…会いたい…

今、こんなことを考えること自体、間違っているのはわかっている…
真由がすぐそこに眠っているのもわかっている…わかってはいても…

…無性に、茉優子に会いたい…

あの、奇妙な男…

真由が倒れてからの、あの男とのやりとりにも、すごく疲れた…
今までは…真由がまだ元気な時は、間に真由を挟んでいたから、まだ、耐えられたとしても…

真由のいない、今のこの状況で、あの男と関わるのが辛い…
本当に、辛くなってきた… 
当初から苦手なあの男、哲也との直接的な対面で、俺はいつもいつも、精神が疲弊してしまうのだ…

だが、先ほどの真由の頬の件は絶対に、そのままにしておけない… あの男が戻れば確実に、強い口調で問いただす…

俺はそんなシュミレーションを、頭の中で繰り広げながらもその片隅で

　茉優子を想い、携帯を手にした。

　　連絡くらい、してもいいだろう…

　　その時はつい、
　　　　そう、考えてしまったのだ…