【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

主婦の話

「ああ…なかなか美味しかった…だが、俺の行きつけの店にはやはり劣る…まあ、でもアリはアリ、だな…」

哲也が紙ナプキンで口元を拭って、まるで独り言のように呟く。

「そうですか…俺も次回、食べてみますね」エッグなんとかの味なんてどうでもいい…とにかく今のこの…哲也と二人きりだけの空間に耐えられない…

電話は鳴らないままだが、いよいよ腰を上げようと立ち上がりかけた時、

「そういえば、清春君…さっき話題に出ていた、主婦の話…もう少し聞いてもいいかな…」

「主婦…？」

主婦といえば、三人だ…
元気な男の子が二人いる奥さん…
それと、夫が単身赴任中で暇をもてあましている奥さん…それと…茉優子だ。

「えっと…主婦と言いますと…どの人…ですかね…？」

哲也が聞いている対象が茉優子とは限らない…

だが、俺は焦った…
何がどうと言うことはないが、なんとなく嫌な予感がした。

茉優子のことを極力話したくない…
そう思う俺の心をまるで読み取ったかのように、哲也は口を開く。

「夫婦二人で生活している、30ちょっと位の女性の話だ…子供もいないなら真由と清春君と同じような形態の夫婦なのかなと、思ってね…真由も習い事に興味を持っていたし…

なのになぜ、こんなことになったのか… 」

「… … … …」

「その、３０代の女性は何か、悩みを抱えていたりしなかっただろうか…真由と同じように…夫と二人で暮らす外からは幸せに見える家庭の中に…
何か見えない苦悩などなかったのだろうか… 清春君は教室のメンバーと食事に行くことがあると言っていたね…？たとえばその人と、行ったこともあるのかい…？」

「… … …」

それはたとえば、茉優子と二人きりで食事にいったことがあるかという…そんな質問だろうか…？

もしくはそうではなく、茉優子が俺が話している食事のメンバーに入っていたかどうか…なのか…

そもそもこの質問は、いったい何なんだ…真由と年齢が近いとは言っても、茉優子のことをピンポイントで聞いてくるのはなんとなく不可解だ…

もしかして、二人きりの食事のシーンを目撃されてしまったのだろうか…

俺は真っ直ぐに、哲也を見つめた…