【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

嘘

「真由が、そんなことを…お兄さんに相談していたんですか…驚きました…」

「…そうなんだ…君の帰りが前より遅くなったとか…話しかけても時々上の空だとか… 色々、真由にしてみれば気になることが何度か、あったらしいね… 」

「そうでしたか… でも、あの… 」

「なんだ…？」
哲也の目が俺を真っ直ぐに見る。
眼光が鋭い… 切長の目が、
俺を…容赦なく…     見つめる…

だが、ここでたじろいではいけない…

俺と茉優子が男女の関係にあるという決定的な証拠なんて、ないはずだ…

あるとすれば、もしかしたらの話だが、茉優子との外での食事のシーンを誰かに目撃されている可能性…
それくらいの話だ…

「俺は、不倫なんてしていません。」
俺は哲也の目を見返して、きっぱりと答える。

「 …  … していない…  …？それは本当かい…？」

「信じてもらえるかわかりませんが、本当です… …」

やはり、俺の性格だ…  
神に誓って…とは、言えなかった…

俺は生まれて初めて、
人に…あまりにも大き過ぎる嘘をついた… さっきから胸が… 痛い…   ざわざわとせわしない…   

「…そうか、わかったよ…すまなかったね、変な質問をして。 どうか、忘れて欲しい… まだ意識の戻らない真由に免じて…」

　　　　　　「　…いえ…   」

俺は今にも震え出しそうになる自分の手を落ち着かせるかのように、コーヒーカップにあえて手を伸ばし…

　　生暖かな焦茶色の液体を

　　　　恐る恐る、口に含んだ。