【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

限界

それから一月ほどが過ぎた。

俺は毎日の仕事に忙殺され、精神的な部分で限界に達しかけていた。

なんとか週に２回の英会話教室だけは死守するべく、仕事を早々に切り上げたが…そのほかの日は終日、自分以外の同僚、後輩…下手をしたら上司の仕事の残務処理に追われ…身体も精神もくたくたに疲弊していた…。

「…坂下さん…　なんだか今日は顔色が悪いように見えますよ…大丈夫ですか…？」
個室居酒屋の一室で、茉優子が心配そうに俺の顔を覗き込む。

「…はい…まあ…なんとか…ちょっと…仕事で疲れてまして…」
　　
疲れるというか、仕事のことで…段々、周りの奴にムカついてきていて…

などと、本当は茉優子に愚痴ってみたい…話を聞いて欲しい…

だが、普段は自分自身を抑圧していて、冷静にふるまっている俺が…
他人の悪口など一度も口に出していない俺が…
突然そんなことを話し出すと、茉優子は驚くに違いない…。

俺がそんなことを吐き出せば、こんな人とは思わなかった…などと、茉優子に失望されるだろうか…
今の俺にとって、それが一番避けたいことだった。

「…そうなんですか…でも、本当に辛そうです…今日は早めに帰って寝た方が良いと思いますよ…ね？…」

「…　…　…　」

茉優子の優しさが、渇き切った俺の心に、じんわりと染みてくる…。
決して表面的ではない…心から俺のことを心配し、本当に家に早めに帰れと思って言っているのが手に取るようにわかる…。