【完結・R18】鉄道の恐怖

もえこ

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清春編

心臓の音

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俺と茉優子は、その場所に入るまで…
それからほとんど言葉を交わすことはなかった。

茉優子は…不思議なほど従順に…
俺の足が向かう方向に何の異論も唱えず、素直に…ついてきた。

本来なら…きっと…
たとえ、どんな事情が…どんな状況があったにせよ、男女が…既婚の男女が足を踏み入れるべきではない場所…
なぜ、茉優子は拒否をしない…?
服が冷た過ぎるのか… いや…本当に温かな珈琲を飲みたいのか…

わからない…
一体、何を考えているのだろう…。
いや逆に…何も、考えていないのか…?
ただ素直に…俺の言葉を…俺のことを、信じているからこそ、
素直に純粋に…俺の後をついて来ている…  …  ?

いやまさか… そこまで、子供ではないはずだ…
男女がそういったホテルに二人きりで入室する… 
状況として、健全ではない…普通ではないはずだ…

でもじゃあ…俺は… 俺自身は、何を考えている…?
真由という妻がいながら…
なぜ、茉優子をそんな場所へ、珈琲などとうそぶきながら、いざなっているのか…

俺から声を掛けたにもかかわらず、
茉優子が従順なことに、俺は心底、戸惑った。

俺が向かったのは…
コンビニを出た場所からすぐに目に入った、そういうホテル…なのに…
茉優子は…途中で足を止めることもなく…ただ、静かに…俺の背中に張り付くように…いや、隠れるようにしながら… 俺に従った。

何故だ…?
そんな場所へ…そんな密室へ…
男の俺と…向かうことに抵抗はないのか…?
俺だって、男だぞ…。

それとも、室内で本当に服を乾かし…熱い珈琲を飲んで…ゆったりとソファに腰掛け…
英会話教室の後の食事の時のように…俺と雑談を楽しむつもりか…?


お互いに結婚している…
こんな場所に…密室に…ホテルに、入る時点で…
仮に、中で何もなかったとどんなに主張したとしても100パーセント疑われるべきこの、状況に… 
この、聡明な…真面目な茉優子が…
俺なんかの口車に乗って…足を踏み入れようとしている…。

俺は…困惑しながらも… 
やはりやめようなどと言うことも出来ずに、
ルームキーのカードを片手に、少し暗めの照明の廊下を進んだ。

その間中…
    バクバクバクバク…と、  


  心臓の音が、鳴りやまなかった…。








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