【完結・R18】鉄道の恐怖

約束の日

重たいドアを開ける…

広い店内を見渡す。


いた…あの男がいた。

窓際の端の席に、長い脚を優雅に組んだサングラスの男が一人、座っている。

こちらに気付き、微笑む。

私が近付くと、

「時間より１０分前…さすがですね…相変わらず生活はきちんとした人だ‥。」

生活は…と強調されたことに、憤りを覚えるが、そこには触れずに、男の目の前の席に座る。

「おはようございます…お待たせしました…」そう言うと、

「どうぞ、おかけください…貴女を待っていました。今日こそは一緒に朝食を摂りましょう…私は前と同じＣセットを…貴女はどうします…？」男が優雅な手つきで私にメニューを渡す。

「私も同じものをお願いします…」小さな声で答えると男が店員を呼び、

「Ｃセットを二つ、ホットコーヒーとアイスコーヒーを…」と、注文する。

店員が去った後、男が私を見て口を開く。

「先日はどうも…身体は大丈夫でしたか…？あと、ご主人と…仕事は…？」

身体…
抜け抜けとそんなことを聞かれたが、何も気にしないふりをしながら普通を装って答える。

「ええ…大丈夫です。特にあの後、問題もありません…」

本当は…身体が二日間ほど…筋肉痛のような痛みに襲われた…激しく抱かれ…身体が悲鳴を上げたのだ…
でも、この男を前にして、そんなことは口が裂けても言いたくなかった…。

「そうですか…ならば良かった…で…結論は出ましたか…？
最初にお話したように、私は金など、一切求めていません。２日間考えた結果を教えてください…」
その男の言葉に、私はゴクリとのどを鳴らした。

「お待たせしました…エッグベネディクトとお飲み物をお持ちしました…アイスコーヒーはどちらで…？」
突然降ってきた店員の声に、「ああ…それはこちらの方へ」そう言って男が私のテーブルを指し示す。

「ごゆっくりお過ごしください…」店員が一言、言って去り、男が微笑む。

「今日こそは熱々のベネディクトを食べてみてください…本当に美味しいですから…返事は食べ終わってからでも、食べている途中でもいいですよ…」
ふわりと私に微笑みかける男に…突如、違和感を覚える。

本当にこの男が…あの日、倒れた私をホテルへ連れ込み…激しくせめたてた…あの男と同一人物なのか…
そう、疑ってしまうほどに、目の前で柔らかに微笑む男と、あの日私をいやらしい言葉で嬲りながら犯した男が…同じ人物だということが不思議に思えて仕方がない。
人間には誰しも…表の顔と裏の顔…本人さえも気付かないような二面性が、あるのかもしれない…

「…　…」無言で、フォークとナイフを手にする。

「まあ、答えは後でいいですよ…とにかく熱いうちに食べましょう…いただきます…」

男と私は、その後無言で、朝食を摂った…。

この前は、緊張と恐怖の連続で、一口も口に入れることはなかったが…　
エッグベネディクトは確かに美味しかった…

男の正体と目的がわかっている今…
そして既に、この男を選ぶと決断している私には、もはや怖いものはなかった…