【完結・R18】鉄道の恐怖

絶望

私は、用意周到な女だ。


間違いなく、夫にはバレていないはずだ…
職場の人間にも…絶対に、知られていないはずだ…

なのになぜ、この…見たこともない、知らない男が…　それを…知っている…？

私の罪を…私の不倫の事実を知っているとして…それで…？

だから…なんだと…いうのだ…

この男は誰だ…

私は…無言のまま、
その、氷のような表情を浮かべるその男から…　目が離せないでいた…

「不倫…ですか…いや、もう知ってますけどね…まずは貴女の口から、きちんと聞きたかったんです…。
おとなしそうな…そんな質素な服を着て派手さの欠片もないのに…真面目な既婚の男を手のひらで転がしながらたぶらかすなんて…見かけによらず…貴女…いやらしくて…悪い、女…なんですね…ふふ…」

男が珈琲を一口飲んで、カップをテーブルにゴトリと置く。

「それで今、貴女は…私が一体誰で、何が目的なのか…必死に分析しようとしてます…ね…？」

…はははっ…男が渇いた声で、大げさに笑う。

「それについては、今から時間をかけて、ゆっくりお話ししますよ…まあ、貴女は今すぐにでもこの場所から…この状況からなんとかして逃げ出したいと…そう、お思いでしょうが…俺は逃げも隠れもしませんから…焦らないでください…」

「あ…君…すみません、珈琲をもう一杯…」

脚をもう一度、大仰に組み直し、笑いながら、珈琲のおかわりをする男…

ああ…　私の最大の秘密を…弱みを…握られた…

私の目の前は真っ暗になった。