【完結・R18】鉄道の恐怖

翌朝

翌朝

私は意を決して、家を出る。

今日はもう、変な小細工はせずに、いつもの身なりで、いつもの時間、いつもの車両に乗るつもりで家を出た。

今日はいっそのこと…むしろ男に、近くまで来て欲しい。

そうすれば私は躊躇なく、今夜全ての現象を家族に相談し、何らかの手立てを講じることができる。

この、落ち着かない毎日の通勤…恐怖の時間も、今日で終わりだ。

私はそう考えて、颯爽と歩いていく。

男は見当たらなかった。

でも、どこから乗ったとしても、きっと移動しながら私を探し、いつものように私の傍に座るだろう。


電車が動き出した…

もうすぐ…男が近寄ってくる時間だ…。


いつしか、私はその奇妙な男を、待っていることに気付く。

あんな、いやらしい笑みを浮かべた薄気味悪い男を、　
なぜ、私が待たなければならないのか…

不意に、おかしな気持ちがしてくる…ほんの少しだけど…笑えてくる。

ザッ…ザッ…　

あの、足音が…いつもの足音が徐々に近づいてくる…　　来た…あの男だ…

背後からいつものあの…引きずるような足音がして、ピタリと…
その足音が、私が座る横の通路あたりで止まる。

いつものように、男は通路を挟んで横に、座るつもりなのだろう…

いつもそこから、真横に顔を向けて私を眺めるのが、常となっていたから…


ドサリ…　　え…？　　


私は一瞬、息が止まるかと思った。

男が…私の真横の席に、すぐ横に…座ってきたからだ…　　

それは…本当に初めてのことだった…。

しまった…　最初から窓際の席ではなく…　通路側に座っておくべきだった…

男が長い脚を、大仰に組む…　

男の足が邪魔をして…私の方から、通路側に逃げ出すこともできない…


この…小さな空間に、閉じ込められた…　　　

ああ…油断した…　

男とのあまりに近すぎる距離に、さすがに恐怖を感じ、私は目を閉じた。