【ミステリー】質問の答え

話

「はい、美優」

「ありがとう、いただきます」

私はおじさんから珈琲カップを受け取る。
どんなタイミングで話そうか。
ちらりとおじさんの方を見る。

作業机のパソコンはもう閉じている。
平日の夜、パソコンを触っていることは珍しいことだ…。
きっと、私が帰るまで眠らずに、仕事をしながら待ってくれていたに違いない。
明日は土曜日…　
話すのならこの勢いのまま…話してしまいたい。

「美味しい…　そうだ、おじさん…あのね…」

「…ん…なんだい？」

真っ黒な瞳が、私を真っ直ぐに見つめてくる…

おじさんはいつもこうだ…視線をそらさない…。
おじさんに見つめられると、こちらも目を逸らすことができなくなる…。
決して鋭い目つきでない…優しい眼ではあるけれど…なぜか、逸らせなくなる…。

「あのね…　私…」

「ん…　？」おじさんの瞳は揺らがない…。

私は緊張のあまり、いったん珈琲を口に含む…。

甘くて、ほんの少しの苦み…
少しだけ酸味のある珈琲だ…私が前に飲んで美味しいと言った豆だ。

「どうしたの…？何か、仕事で悩みでも…？話してくれていいよ、なんでも。」

にこりと微笑むおじさんの顔が眩しい…。

この提案をした数年前と同じ対応をされたらどうしよう…。
そんな気持ちがよぎったが、私は遂に口を開いた。

「おじさん…私ね…あの、ずっと前にも言ったけど…そろそろ本当に、一人暮らししてみたいなって…」

「…　…　…」

「就職してもう何年も経つし、家事だってもう、…大体何でも、出来るし…」

「…　…　…」

おじさんは無言のまま…今度は私の口元あたりに視線を落としたまま、話を聞いている…。

「その…もう２５だし！さすがに子供じゃないし…自立しないと…その…色々と…」

「…　…　…」

無言が怖い…。
私は慌てたように、言葉を積み重ねていく…。

「…あのね、物件も一緒に探してくれる人もいて…その、大丈夫だから…そろそろ…」

「…美優…色々とって、…何…？」いきなり、おじさんが口を開いた。

「…えっ…？」

「…一緒に、探してくれる人って、誰…？」おじさんの声が低くなる…。

「…あ…」

コトリと、珈琲カップをテーブルに置くおじさんの長い指が、視界に入る。

「答えて。美優…」

おじさんが怒っている…不機嫌なのは明白だ…。

「…おじさん…あの…ね…」

でも…このままでは私は一歩も前に進めない…。

私はゆっくりと、おじさんを見つめ返した…。