【ミステリー】質問の答え

回想

「俺は…俺は、ね…」おじさんが言葉を切る…。

「…何…おじさん…」

おじさんの視線が痛いほどにまっすぐに私に注がれている…。

「美優、…いつもその質問をしてくるよね…数年に一度…もうこの際、言っておくけど…」

「…うん…」その前置きに、ドキリとした。

「俺に、彼女なんてものはいない。というか…作る気もない。今後…いや、一生」

「えっ…　…　」
その、断言とも言える話し方に、私は少しの動揺を覚えた。

しかも、一生とは…どういうことだろう…。

なぜ、そこまで言い切れるのか…。
おじさんは私よりかなり年上とはいえ…まだ、働き盛りともいえる3０代の男性だ。
仕事だってバリバリこなしている印象を受ける。

これは単なる私の想像…ひいき目なのかもしれないが、おじさんの気が進まないにしても…きっと、綺麗な女性がおじさんを狙っているに違いない。

「な…んで、そんなこと、言い切れるの…？今はその…そういう人がいなくても…好きな人…できるかもしれないじゃない…そういう時に、この家に私がいると」

「　美優　」
また、おじさんの声が少し大きくなったことに、私は背筋を伸ばした。

まだ、話している最中なのに、さっきから私はこんな風に話を中断されてばかりいるような気がする…。

「…　何…　」

「今、俺が話したことが全てだ。美優は俺が誰かと付き合うときに自分が邪魔になると心配しているようだが、そんな事態はあり得ない。この先も一切、そんなことは考えなくていい…。もう、この話は終わりにしよう。」

「そ、そんなこと…じゃあ…私の気持ちはどうなるの…」

おじさんの一方的な物言いがショックで、声が震えてしまうのを止めることが出来ない…。

「　…　美優　…　」

「わ…私の一人暮らし…したいっていう気持ちは…どうなるの？おじさんに負担にならないように…これでも…」

駄目だ…　泣きそうだ…　
なんでもう少し、話を聞いてくれないんだろう…。

そうだ、おじさんのことを理由にしているのがダメなのだ…私が卑怯だった…。
私はすぐに、話を自分本位に転換した…。

「おじさんのためじゃない…私がしてみたいの…一人暮らし…新しい環境で、自分一人で頑張ってみたい…」

「美優、駄目だ。お願いだから、考え直してくれ。」また、拒否された…。

「…　…　…」
それでも…おじさんにお願いだなどと…初めて言われた気がする。

「俺が…美優に、我儘を言ったことがあった…？これまで、美優のために最大限、やってきたつもりだが…」

「…　…　…　」

身寄りのない、完全に他人である私を…しかも、あんなことがあった後の、私を…
温かいまなざしで…笑って引き取ってくれたのはおじさんだ…頼りになるのはおじさんだけだった…。

何不自由なく育ててくれたおかげで…
そのおかげで、今の私がある…
こんな私がこれ以上強く主張するのは…やはり、駄目なことなのかもしれない…。

「…わかった…でも…その…仕事に慣れたら…本当に色々なことが大丈夫になったら…その時は、認めて欲しい…」

「…　ん…　そうだね、その時はその時でまた、考えよう…その時の状況を見てね…。」

そんなやり取りがあったのは…もう、5年ほど前のことだ…

そのまま私はいまだに、あの家に…



「…美優ちゃん…　おーい…　み…、美優…　」

「あっ…　…」

ハッとした…そうだ、今はデート…食事中…。

彼氏が、私の目の前で手をひらひらとかざしていることに気付いた…。