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~杉崎~

リミット

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「さて…と…」

俺は独り言のように呟いて室内を見渡す。

荷物は鞄の中に全てしまった。
ゴミも袋にまとめて部屋の隅に寄せた。

ベッドのシーツが目に入ったが、簡単に整えられている。
いつの間にか彼女がやってくれていたらしい。

彼女も俺と同様、数メートル先で、部屋を見渡している。
…ふと、彼女と視線が合う… 
途端に…彼女は俺から目を逸らしてしまった。

肌を合わせたにもかかわらず…どこか、他人行儀な俺達… 

だが、彼女の気持ちはわかる…
俺も、ずっとは… 合わせていられない心境だったから…。

昨日の、今日だ。

昨夜、俺は遂にこらえ切れなくなって、彼女に触れた…
激しいキスをして…恥ずかしがる彼女を押さえつけ、裸にし…
自分の欲望に任せ、間違いなく彼女を抱いたのだ…

夢でも何でもなく… これは、現実…

「…えっと私…最後に忘れ物がないか、洗面所、見てきますね?」
彼女はそう言って、まるで俺の視線から逃げるかのように、洗面所へ小走りで行ってしまった。

「あ、うん…ごめんね… 」俺は反射的に答える。
これは何の謝罪だろうか…

居たたまれない…  
そんな空気が俺と水無月さんの間に…ホテルの室内全体に、立ち込めていた…

だが、当然だ… 

お互いに恋人がいる身なのだ。 
自身の欲望のままに、こんな場所に彼女を連れて来て… そして、彼女も俺の申し出を断ることもなく…
激しく抱き合った…  
互いをむさぼり尽くすように…いや、それは俺だけだが…
彼女の…細く…白い手足…彼女の柔らかな肢体を目の前にして…欲望を制御できなかった。

自分はどんな状況においても理性的で、ある意味、性的なことに関しては冷めた男だと思っていたのに…
どこがだよと、笑いたくなる…。

しかも、調子に乗っておかしな申し出をしてしまい… 
彼女に引かれている、今のこの状況…

ああ…  あと20分程でタイムリミットだ… 

どうしたってもうすぐ、俺と彼女は日常に戻る…
この部屋を一歩、出れば…再び、今までと同じ、職場の同僚に戻るのだ… 
月曜日から再び、隣の席で彼女と仕事をしていく立場なのだ…俺は。

これから同じように彼女と接することが出来るだろうか…
何事もなかったかのように職場の同僚…先輩を演じて、
彼女をあの男のもとへ、笑って返すことが… 出来る…だろうか…

いや…   無理だ…

… 当然、今までと同じではいられない…  

俺は即座に、彼女の後を追った。









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