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〜四人〜
悪な感情
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「じゃあ、お休みなさい、また機会があったら是非…」そんなようなことを言い合って、それぞれにお辞儀をしてその場を離れた。
もう二度と、そんな機会はない…
私の胸の内はこうだが、もちろんそんな雰囲気や表情は表には出さなかったつもりだ。
単なる想像に過ぎないけど、きっと杉崎さんも同じように考えているのではないかと、私は思った。
お互いに色々なことに気を配り過ぎて…疲れた…そんな感じだ。
「あ~…美味かったなあの店の焼き鳥。でも今度はテイクアウトもありかもしんねえな。」
拓海が酔っ払った顔で、夜空を仰ぎながら呟く。
「…そうだね…」
焼鳥屋での拓海の振る舞いに少し頭に来ていた私は言葉少なに、返事をする。
「…んだよ…、なんか、怒ってんのか…?」
…当たり前だ。
杉崎さんと林さんが付き合っているのがわかっていてわざわざあの場で、拓海はあんなことを口にした。
私と二人でいる時に私に直接聞けばいいようなことさえ、敢えてあの場で話題にした拓海に、私は憤りを覚えた。
「怒ってないわけ、ないよ…
なんであんなこと、あの場で根掘り葉掘り、私に聞いてきたの…?しかも私に対してだけじゃなくて、杉崎さんにまで…。
温泉がどうとかまではいいけど、浴衣で食事がいやらしいとかなんとか…拓海が変なこと言うから、林さんはきっと気分を害したと思うよ…。」
私は思っていることを口にした。
喧嘩は嫌いだから、普段はあまり言い合いにならないように思っても口に出さないことが多いけど…今日はなんだか、私自身、イライラしてしまっていた。
「気づけば質問しちゃってたんだから、仕方ねえじゃん。大体そもそも、なんであの人…杉崎さんは、彼女である林さんにお前と二人で下見に行くこと、話してないんだよ…。」拓海が一旦、言葉を切る。
「俺からしたら、違和感しかねえけど…そんな話をしてないのは、なんか気持ちの中に、やましいことでもあんのかなって、俺ならそう考える…」
内心、拓海の言葉にどきりとした。
私自身、拓海に土日のことを聞かれたから下見の話をしただけで…
聞かれなければ、わざわざ自分から、拓海に報告はしなかったように思う。
「別に…恋人同士だからって週末の予定を逐一事前に相手に報告する義務なんてないでしょう?
そんな報告を毎回求められたら、私なら息が詰まるよ…。私だって今回たまたま拓海に聞かれたから話しただけで、あえて言うほどのことでもないかなって思ってたくらいだし…。
拓海だっていやでしょう?たとえば私が毎週、拓海に誰と、何するのって聞いてきたら…考えただけでうざいじゃん…。」
私は杉崎さんを庇うようなフリをして、同時に同じ立場である自己を守るために、そして今後のために、つい…そう答える。
「ふう…ん、まあ…それもそうだな…ただ、なんか俺は…ちょっと、聞かされてイヤな気持ちがした…だからまあ、意地悪な発言になっちまった…かも…。
でも、今日のは飲み過ぎたってことで、そんなふくれんな…ごめん、考えてみたらおまえの職場の人達だから、気まずくなるよな…すまん」
「ううん、もういいよ、私も気にさせてごめん…
でもさ、もう相席はやめよ?気を遣って楽しくなくなる。せっかく拓海が帰ってきてる短い時間だし、私は拓海と二人がいいよ…」
「おう…それもそうだな…。じゃ、帰って寝るべ…」
拓海は笑って、私の肩を抱く。
本当は…悪いのは拓海じゃない…。
この…杉崎さんに対する…この私のよく分からない感情こそが…悪…なのではないか…。
私は拓海に肩を抱かれたまま、無言で帰路についた。
もう二度と、そんな機会はない…
私の胸の内はこうだが、もちろんそんな雰囲気や表情は表には出さなかったつもりだ。
単なる想像に過ぎないけど、きっと杉崎さんも同じように考えているのではないかと、私は思った。
お互いに色々なことに気を配り過ぎて…疲れた…そんな感じだ。
「あ~…美味かったなあの店の焼き鳥。でも今度はテイクアウトもありかもしんねえな。」
拓海が酔っ払った顔で、夜空を仰ぎながら呟く。
「…そうだね…」
焼鳥屋での拓海の振る舞いに少し頭に来ていた私は言葉少なに、返事をする。
「…んだよ…、なんか、怒ってんのか…?」
…当たり前だ。
杉崎さんと林さんが付き合っているのがわかっていてわざわざあの場で、拓海はあんなことを口にした。
私と二人でいる時に私に直接聞けばいいようなことさえ、敢えてあの場で話題にした拓海に、私は憤りを覚えた。
「怒ってないわけ、ないよ…
なんであんなこと、あの場で根掘り葉掘り、私に聞いてきたの…?しかも私に対してだけじゃなくて、杉崎さんにまで…。
温泉がどうとかまではいいけど、浴衣で食事がいやらしいとかなんとか…拓海が変なこと言うから、林さんはきっと気分を害したと思うよ…。」
私は思っていることを口にした。
喧嘩は嫌いだから、普段はあまり言い合いにならないように思っても口に出さないことが多いけど…今日はなんだか、私自身、イライラしてしまっていた。
「気づけば質問しちゃってたんだから、仕方ねえじゃん。大体そもそも、なんであの人…杉崎さんは、彼女である林さんにお前と二人で下見に行くこと、話してないんだよ…。」拓海が一旦、言葉を切る。
「俺からしたら、違和感しかねえけど…そんな話をしてないのは、なんか気持ちの中に、やましいことでもあんのかなって、俺ならそう考える…」
内心、拓海の言葉にどきりとした。
私自身、拓海に土日のことを聞かれたから下見の話をしただけで…
聞かれなければ、わざわざ自分から、拓海に報告はしなかったように思う。
「別に…恋人同士だからって週末の予定を逐一事前に相手に報告する義務なんてないでしょう?
そんな報告を毎回求められたら、私なら息が詰まるよ…。私だって今回たまたま拓海に聞かれたから話しただけで、あえて言うほどのことでもないかなって思ってたくらいだし…。
拓海だっていやでしょう?たとえば私が毎週、拓海に誰と、何するのって聞いてきたら…考えただけでうざいじゃん…。」
私は杉崎さんを庇うようなフリをして、同時に同じ立場である自己を守るために、そして今後のために、つい…そう答える。
「ふう…ん、まあ…それもそうだな…ただ、なんか俺は…ちょっと、聞かされてイヤな気持ちがした…だからまあ、意地悪な発言になっちまった…かも…。
でも、今日のは飲み過ぎたってことで、そんなふくれんな…ごめん、考えてみたらおまえの職場の人達だから、気まずくなるよな…すまん」
「ううん、もういいよ、私も気にさせてごめん…
でもさ、もう相席はやめよ?気を遣って楽しくなくなる。せっかく拓海が帰ってきてる短い時間だし、私は拓海と二人がいいよ…」
「おう…それもそうだな…。じゃ、帰って寝るべ…」
拓海は笑って、私の肩を抱く。
本当は…悪いのは拓海じゃない…。
この…杉崎さんに対する…この私のよく分からない感情こそが…悪…なのではないか…。
私は拓海に肩を抱かれたまま、無言で帰路についた。
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