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〜杉崎〜
ひと時
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「んっ…、あ…」
助手席に座る水無月さんがようやく目を覚ました。
実は帰り、道の途中に、何件か気になるカフェを見つけたが、彼女があまりによく眠っていたため、起こすのを躊躇してしまった。
「あ…起きた?水無月さん…あと30分位で着くよ。すごく、気持ちよさそうに寝てたね」
そう言うと彼女は恥ずかしそうに、「あ…すみません、行きも帰りもぐーぐー寝ちゃってて…昨日あんまり眠れてなくて…あ、いえ…」
眠れていない…
俺と一緒だ。
実は俺も今日の彼女とのドライブのことを考えてなかなか寝付けなかったのだ。
本気で彼女との初デートを控えた学生のような気持ちになっていた。
「あ…そうなんだね、実は俺もイマイチ…」
もちろん彼女とのことを考えて眠れなかったなんて口が裂けても言わないけど…
「いえ…でもまあ、朝方にはやっと眠りにつけました。杉崎さんこそあまり眠れていないのに、運転を全部任せてしまってごめんなさい…」
彼女が申し訳なさそうに俺に小さく頭を下げる。
「私、実は車の免許持っては…いるんです…だけど、完全にペーパードライバーみたいになっちゃってて…少しは運転しろよって…拓海にも言われちゃうんですけど…していない期間が長くてなんだかもう、今はハンドル握るのさえ怖くて…」彼女はそう、続ける。
「いや、全然。俺さ、運転好きなんだ…ずっとしてても苦にならない。
…っていうか、他人にハンドル預ける方が実は少し落ち着かなかったりする。だから気にしないで。」
微笑むと、彼女がふわりと笑う。
「それなら、ほっとしました…拓海は運転中、私が寝たらちょっと不機嫌になるし…今日はだから、なんだか安心して寝ちゃってました…」
寝たら不機嫌…?
なんだそれは、と…思う。
好きな…愛する彼女が助手席ですやすやと眠っている姿…俺ならむしろ嬉しくなる。
無防備に眠ってしまうほど、心地よかったんだな…って、きっとそんな気持ちになる。
「へえ…そうなんだ…俺は助手席の人が寝ても全然気にならないけど…人それぞれ…みたいだね」
「はい…拓海は、おい、自分だけ寝んなよ、こっちは運転で疲れてんのに…荷物かよ…って、寝ちゃった時は時々、そんなふうに言います…ひどいんですよ、本当に。だから私は何が何でも、起きてなきゃいけないんです、」
ひどい…心が狭すぎる…
俺なら…俺なら…絶対にそんなこと…言わない…
と、一瞬口に出しそうになる。
いや、だめだ…彼女の彼氏と、俺を置き換えてどうする… 旅館であんなことがあったからか、俺はどうやら彼女を意識しまくりのようだ。
「そっか…まあ、いろんな考え方があるよね。まあ、とにかく俺はそんなタイプだから、全然寝てくれて構わない…って言っても、そんな機会はもうないか…ははっ…」
言いながら…
なんともいえないような寂しさを覚える。
「…そう、ですね…また何かあったら…その時は横でグーグー寝ますので、よろしくお願いします…」
彼女はそう言って笑った。
話しているうちに気付けば自宅近所まで来ていた。
「じゃ…ここで…水無月さん、今日はお疲れ!ありがとう、こんな時間まで付き合ってくれて…」
そう声をかけ、水無月さんのマンション駐車場を後にする。
ああ…
水無月さんとの楽しい、ささやかな甘いひと時が終わってしまった。
何がそのまま…連れ帰るだ…
そんなこと、俺の立場でできるはずもない…
俺は深いため息をつきながら、
ゆっくりと自宅へ車を走らせた。
助手席に座る水無月さんがようやく目を覚ました。
実は帰り、道の途中に、何件か気になるカフェを見つけたが、彼女があまりによく眠っていたため、起こすのを躊躇してしまった。
「あ…起きた?水無月さん…あと30分位で着くよ。すごく、気持ちよさそうに寝てたね」
そう言うと彼女は恥ずかしそうに、「あ…すみません、行きも帰りもぐーぐー寝ちゃってて…昨日あんまり眠れてなくて…あ、いえ…」
眠れていない…
俺と一緒だ。
実は俺も今日の彼女とのドライブのことを考えてなかなか寝付けなかったのだ。
本気で彼女との初デートを控えた学生のような気持ちになっていた。
「あ…そうなんだね、実は俺もイマイチ…」
もちろん彼女とのことを考えて眠れなかったなんて口が裂けても言わないけど…
「いえ…でもまあ、朝方にはやっと眠りにつけました。杉崎さんこそあまり眠れていないのに、運転を全部任せてしまってごめんなさい…」
彼女が申し訳なさそうに俺に小さく頭を下げる。
「私、実は車の免許持っては…いるんです…だけど、完全にペーパードライバーみたいになっちゃってて…少しは運転しろよって…拓海にも言われちゃうんですけど…していない期間が長くてなんだかもう、今はハンドル握るのさえ怖くて…」彼女はそう、続ける。
「いや、全然。俺さ、運転好きなんだ…ずっとしてても苦にならない。
…っていうか、他人にハンドル預ける方が実は少し落ち着かなかったりする。だから気にしないで。」
微笑むと、彼女がふわりと笑う。
「それなら、ほっとしました…拓海は運転中、私が寝たらちょっと不機嫌になるし…今日はだから、なんだか安心して寝ちゃってました…」
寝たら不機嫌…?
なんだそれは、と…思う。
好きな…愛する彼女が助手席ですやすやと眠っている姿…俺ならむしろ嬉しくなる。
無防備に眠ってしまうほど、心地よかったんだな…って、きっとそんな気持ちになる。
「へえ…そうなんだ…俺は助手席の人が寝ても全然気にならないけど…人それぞれ…みたいだね」
「はい…拓海は、おい、自分だけ寝んなよ、こっちは運転で疲れてんのに…荷物かよ…って、寝ちゃった時は時々、そんなふうに言います…ひどいんですよ、本当に。だから私は何が何でも、起きてなきゃいけないんです、」
ひどい…心が狭すぎる…
俺なら…俺なら…絶対にそんなこと…言わない…
と、一瞬口に出しそうになる。
いや、だめだ…彼女の彼氏と、俺を置き換えてどうする… 旅館であんなことがあったからか、俺はどうやら彼女を意識しまくりのようだ。
「そっか…まあ、いろんな考え方があるよね。まあ、とにかく俺はそんなタイプだから、全然寝てくれて構わない…って言っても、そんな機会はもうないか…ははっ…」
言いながら…
なんともいえないような寂しさを覚える。
「…そう、ですね…また何かあったら…その時は横でグーグー寝ますので、よろしくお願いします…」
彼女はそう言って笑った。
話しているうちに気付けば自宅近所まで来ていた。
「じゃ…ここで…水無月さん、今日はお疲れ!ありがとう、こんな時間まで付き合ってくれて…」
そう声をかけ、水無月さんのマンション駐車場を後にする。
ああ…
水無月さんとの楽しい、ささやかな甘いひと時が終わってしまった。
何がそのまま…連れ帰るだ…
そんなこと、俺の立場でできるはずもない…
俺は深いため息をつきながら、
ゆっくりと自宅へ車を走らせた。
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