【完結】あの可愛い人妻を、誰か俺に譲ってください。

もえこ

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許容範囲

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それから俺は、由良さんの方から食事に誘ってくれる時に限って、仕事帰りに一緒に食事をしたり、カフェに行ったりして、その日の別れに彼女を儀式のように、抱き締めるようになった。

そう、まるで儀式。

人目につかない場所に行く。
例えば公園、建物と建物の間の、死角のような場所。

そこに行き、無言で向かい合い、由良さんの荷物を俺が引き受け小さく手を広げる。
恥ずかしそうにしながらも、俺の胸の中に滑り込み、彼女も俺の背中に腕を回す。

          …密着… 

俺の身体にまとわりつく柔らかな感触。俺の首筋に彼女のサラサラの髪が触れる。
抱擁の長さは俺には決められないのでいつも彼女に委ねているけど、最近少し変化が出始めている。

最初の頃は、お互いの恥ずかしさもあってか、抱き締めて数秒でパッと離れるだけ…だったんだけど…
最近やたら…長い。彼女が…なかなか俺から離れようとしない…んだ…。
最初、ぎゅっとしがみつかれたと思ったら、顔を反対方向の首筋に変えて、またギュッと…しがみつく。

しかも、時々、彼女はつぶやく。「落ち着きます」とか、「ホッとします。」とか…

この前は、俺の腕の中で「木下さんってこうやってくっつくと、いつもすごく良い香りがします…柔軟剤、とかですか…?私、この香り、すごく好きです…」とか言いながら、恍惚とした表情を浮かべて俺の肩口の服の部分にくっついてクンクンと香りをかぐような素振りを…する。 

由良さん… 君のそのしぐさ…ヤバいんですけど…俺的に。
…っていうか、本当に汗臭くはないですか…?とか気になりつつ、ちょっと、いい加減に俺の理性が…崩壊…しそうだ…。

3年も好きだった彼女、由良さんと、今は…本当に夢みたいだけど、こうやってハグができる距離感…
軽くて短い一瞬のハグならまだしも、由良さんから小動物のように可愛らしく俺にくっついてきて、それが長くて濃厚で…そんな幸せそうな、反応までされたら…俺…このまま本当にずっと、ハグだけで我慢できる自信がない…

これまで何度、彼女の顎に手をかけ、その柔らかそうな唇を無理矢理にでも塞ぎたい…と思ったことか…。

でも本当は俺の中に、一種の自負があった。

仮にも既婚者である女性が、全く好きでもない男に普通、ハグを求めるだろうか…
しかも1回だけではなく、ずっとで…その長さも、どんどん長くなってきている…
俺は彼女に、少なくとも、嫌われてはいない…
いや、むしろ、他の同僚たちよりは、ちょっとだけ好かれていると思ってもよいのかもしれない。

前に気になって、由良さんに尋ねたことがある。俺以外にハグをしている人がいるのか…と…。もし、彼女の答えがイエスであれば、俺は即座に、彼女の申し出を断るつもりだった。ずっと好きだった人に、俺だけではなく誰でもいいといったような…そんな形で、利用されたくないと思ったからだ。
だけど彼女の答えはノーだった。だから俺はOKして今に至る。

彼女だって、既に結婚しているくらいだから…男の理性や本能…危険な部分…多少はわかっているはずだ。
なのに、部外者である俺に、ハグを求めてくる… 

それ以上は求めてこないと、俺を心から信用しきっている…?
もしくは、俺がもし仮に理性に負けて、由良さんにそれ以上のことを求めることがあったとしても、やぶさかではない…と思っているとか…?
最近の俺の思考は、そういった自分に都合のよい解釈の方向に支配されて、流されつつあった。

その、答えが… 割とすぐに、彼女とのやり取りの中で、判明することになり、俺は呆然とした…


 …え…? 彼女にとって、俺とのキスは…「許容範囲」…なんだって…


そんなこと、聞かされたら…もう俺の我慢…効かなくなるじゃん… 
一体彼女、由良さんは…何、考えてんだろう…本当にマジで、そのうち、襲ってしまいそうだ…

 浮気願望? 不倫願望? それとも一時的な、火遊び…希望…? 

いつも清楚で控えめ、可憐だけど、話すと明るくて、誰から見ても多分、本当に魅力的な彼女。こんな女性を前にして、ハグだけで、キスまでで…我慢できる男なんて、この世に存在するんだろうか…

俺は悶々とする思考をなんとか抑えながら、その日、自分を慰めて、目を閉じた。


                               つづく 








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