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…フレンド?
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その後しばらくは何事もなく、日々が過ぎた。俺と由良さんにはなんの変化もなく、ただ前と少し違うのは、ラインのやり取りが増えたこと…。
職場では相変わらず接点があまりなく、一日、おはよう、お疲れ様の挨拶だけという日も少なくなかった。
俺にとっては、すごく物足りないが、たとえば昼休みに、彼女の席にわざわざ話しかけにいくとか、ランチに誘うとか、そんなことができるはずもなく、相変わらず距離があるままだった。
それでも時々一緒に食事に行くようになってからは、彼女がラインで俺に些細な世間話をしてくるようにはなってきていた。
もちろん俺からは、夫がいる人妻にそうそう連絡できるものではなく、いつも由良さんからの発信を待つのみだったが、だからこそ連絡がきたときは、ものすごく嬉しかった。
ある時、また夕飯に誘われた。聞けば、旦那が飲み会とかでフリーだから仕事帰りにご飯でもどうかと。
今日は、カウンターで天ぷらが楽しめる、ワインバーに来ていた。
最近、由良さんは、俺に家庭の話を結構するようになってきていた。俺も時々、興味本位で尋ねることもあったが、どうやら、旦那が…まあまあ、今時の言葉で言うと、軽い、モラハラ夫…のようだ。そのせいで、由良さんには結構、日々のストレスがたまっているように思えた。
まあ、由良さんはそういうときでも、旦那の悪口を直接的に言うわけではないけど…先入観なく普通に話を聞いていても、俺にはちょっと冷たい夫だなと思えるようなエピソードが多かった気がする。
だからか…だから彼女は寂しくなって、俺に…セッ…フレンド…なんて持ち出してきたのかな…
アツアツの天ぷらを頬張りながら、彼女がニコニコして言う。
「すっごく、美味しい、このエビ!ホタテも…!!すごく、素敵なお店ですね、リピート確実ですね、ここ!」と、興奮気味。
実は俺、食べ物を幸せそうに食べる女性が、もともと、ものすごく好きで、由良さんのこの反応は、かなり俺的に嬉しいものだった。
今まで付き合ってきた彼女にもいたんだけど、
「私、小食で…あんまり食べられなくって…」とか、「結構、好き嫌いがあってこれも、あれも駄目…」と言われると、せっかくご飯に一緒にきているのにって…なんだか悲しくなる。
美味しいと言いながら、おかわりするくらいにもりもり食べてくれると、うわーー!食べっぷりがいい、この人といつも食事したいって気持ちになれるのに…。つまり、小食ですアピールは、今時多分あんまり流行らない気がする。少なくとも俺はそう思う。
お酒の力でよい感じに酔ってきて、二次会でカフェに行ってからのこと。
「木下さん…この前は変なこと言って、ほんとにごめんなさい…あれから私、考えてみたんですけど…あのあの…」
今度は、なんだ!?…もう、大概のことには、俺は驚かないぞ…っとある程度、身構えた俺。
彼女が白い頬を紅く染めながら
「あの…ハグ…フレンドって、ご存じですか…?」
は…はい・・・?
ハグ…フレンドとは、何ぞや…?
恥ずかしい話、俺は遅れているのか…
その言葉は知らなかった… ただもちろん、想像はできた。
セックスフレンドからの流れで言うと、つまり…ハグ…抱擁…のみの…フレンド…か…。
「…俺はその言葉、初めて聞きましたけど…でもつまり、ハグのフレンドってこと…ですか…?」
「そうです…あ、キスフレンド…っていうのも、あるみたいなんですけど、つまり、そういう、フレンドなんですけど…」
はい…んで…それが…なんなんですか…俺はドキドキして彼女を見る。
見ると、彼女は手にしているコーヒーカップを見つめるように下を向いたまま、つぶやく。
「木下さん、良かったら、ですけど、私の…ハグフレンドに、なっていただけませんか…?この前は、いきなり…なんてことを言ったんだろうと、すごく、反省しました…でも、ハグだけなら…ハグ、フレンドなら…もしかして、引き受けて貰えるかなって…」
由良さんが俺をまっすぐに見つめる。冗談で言っているようには、とても見えない。
…由良さんの家庭が、今、どんな状況にあるのか、人妻である彼女が何を考え、そんな不謹慎なお願いを独身男の俺にしてくるのか、俺には皆目、見当もつかない…
ただ…ただ… 俺の本心は…本心は…
当然、ずっと好きだった女性を…大好きな女性、由良さんを、ハグ…俺が抱き締めることができるなら…
答えは…俺の答えは…
イエス… はい、喜んで!…に決まっている。
…ただ…心配なのは、俺の理性が…保てるのか…ただ、それだけだ。
由良さんは、揺らめく瞳で、こちらの様子をうかがいながら、返事を待っている…
うーーん… どういう返事が正解なのかな…
つづく。
職場では相変わらず接点があまりなく、一日、おはよう、お疲れ様の挨拶だけという日も少なくなかった。
俺にとっては、すごく物足りないが、たとえば昼休みに、彼女の席にわざわざ話しかけにいくとか、ランチに誘うとか、そんなことができるはずもなく、相変わらず距離があるままだった。
それでも時々一緒に食事に行くようになってからは、彼女がラインで俺に些細な世間話をしてくるようにはなってきていた。
もちろん俺からは、夫がいる人妻にそうそう連絡できるものではなく、いつも由良さんからの発信を待つのみだったが、だからこそ連絡がきたときは、ものすごく嬉しかった。
ある時、また夕飯に誘われた。聞けば、旦那が飲み会とかでフリーだから仕事帰りにご飯でもどうかと。
今日は、カウンターで天ぷらが楽しめる、ワインバーに来ていた。
最近、由良さんは、俺に家庭の話を結構するようになってきていた。俺も時々、興味本位で尋ねることもあったが、どうやら、旦那が…まあまあ、今時の言葉で言うと、軽い、モラハラ夫…のようだ。そのせいで、由良さんには結構、日々のストレスがたまっているように思えた。
まあ、由良さんはそういうときでも、旦那の悪口を直接的に言うわけではないけど…先入観なく普通に話を聞いていても、俺にはちょっと冷たい夫だなと思えるようなエピソードが多かった気がする。
だからか…だから彼女は寂しくなって、俺に…セッ…フレンド…なんて持ち出してきたのかな…
アツアツの天ぷらを頬張りながら、彼女がニコニコして言う。
「すっごく、美味しい、このエビ!ホタテも…!!すごく、素敵なお店ですね、リピート確実ですね、ここ!」と、興奮気味。
実は俺、食べ物を幸せそうに食べる女性が、もともと、ものすごく好きで、由良さんのこの反応は、かなり俺的に嬉しいものだった。
今まで付き合ってきた彼女にもいたんだけど、
「私、小食で…あんまり食べられなくって…」とか、「結構、好き嫌いがあってこれも、あれも駄目…」と言われると、せっかくご飯に一緒にきているのにって…なんだか悲しくなる。
美味しいと言いながら、おかわりするくらいにもりもり食べてくれると、うわーー!食べっぷりがいい、この人といつも食事したいって気持ちになれるのに…。つまり、小食ですアピールは、今時多分あんまり流行らない気がする。少なくとも俺はそう思う。
お酒の力でよい感じに酔ってきて、二次会でカフェに行ってからのこと。
「木下さん…この前は変なこと言って、ほんとにごめんなさい…あれから私、考えてみたんですけど…あのあの…」
今度は、なんだ!?…もう、大概のことには、俺は驚かないぞ…っとある程度、身構えた俺。
彼女が白い頬を紅く染めながら
「あの…ハグ…フレンドって、ご存じですか…?」
は…はい・・・?
ハグ…フレンドとは、何ぞや…?
恥ずかしい話、俺は遅れているのか…
その言葉は知らなかった… ただもちろん、想像はできた。
セックスフレンドからの流れで言うと、つまり…ハグ…抱擁…のみの…フレンド…か…。
「…俺はその言葉、初めて聞きましたけど…でもつまり、ハグのフレンドってこと…ですか…?」
「そうです…あ、キスフレンド…っていうのも、あるみたいなんですけど、つまり、そういう、フレンドなんですけど…」
はい…んで…それが…なんなんですか…俺はドキドキして彼女を見る。
見ると、彼女は手にしているコーヒーカップを見つめるように下を向いたまま、つぶやく。
「木下さん、良かったら、ですけど、私の…ハグフレンドに、なっていただけませんか…?この前は、いきなり…なんてことを言ったんだろうと、すごく、反省しました…でも、ハグだけなら…ハグ、フレンドなら…もしかして、引き受けて貰えるかなって…」
由良さんが俺をまっすぐに見つめる。冗談で言っているようには、とても見えない。
…由良さんの家庭が、今、どんな状況にあるのか、人妻である彼女が何を考え、そんな不謹慎なお願いを独身男の俺にしてくるのか、俺には皆目、見当もつかない…
ただ…ただ… 俺の本心は…本心は…
当然、ずっと好きだった女性を…大好きな女性、由良さんを、ハグ…俺が抱き締めることができるなら…
答えは…俺の答えは…
イエス… はい、喜んで!…に決まっている。
…ただ…心配なのは、俺の理性が…保てるのか…ただ、それだけだ。
由良さんは、揺らめく瞳で、こちらの様子をうかがいながら、返事を待っている…
うーーん… どういう返事が正解なのかな…
つづく。
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