【新作(番外編)】ほかに相手がいるのに

もえこ

文字の大きさ
上 下
9 / 26
~日常~

幸福

しおりを挟む
杉崎さんが言葉を続ける。
 
「… 職場ではさ…その…人が多すぎて… 」

「はい…」

私が思っていることと、同じだろうか…
ふと、そう思った…。

「職場では全然…思うように、君と話せないからね…だから今日は、すごく楽しみにしてた…はは…なんだか週末に遊園地を楽しみにしてる子供…みたいだけど、ね…。」

真っ直ぐに、私の目を見てそんな風に話してくれる杉崎さんに、より一層、気持ちを持って行かれそうになる。

「…私もです…すごく、楽しみで…でも、今もすごく、ドキドキしてて…変ですね、なんだか…」

「…君もそうなら、良かった…」

その後、無言で杉崎さんが私を見つめ返す…

普段の杉崎さんがあまり見せないような強い視線…。 

駄目だ… 

なぜだか、今すぐに、彼に触れたい… 

もっと近くで… すぐそばで…話をしたい… この目の前にあるテーブルが邪魔なくらいに…
目の前に杉崎さんがいるのにもかかわらず、それでは足りないくらいに…杉崎さんに、直接触れたい…

本当に、私はどうしてしまったんだろう…

まるで、飢えた獣のようだ… 

「お待たせしました、梅酒をお持ちしました。お料理もじきに…」

一瞬にして、張りつめたような空気が和むのを、肌で感じた。
梅酒を二つテーブルに置いたのちに、静かに去っていく女性を無意識に、なぜだか目で追ってしまう…。

「ありがとうございます。ここ、俺の好きな店なんだけど…気に入ってくれるといいけど」

「はい…お豆腐、大好きなんです、すごく楽しみ…。」

「良かった、コースにしてるから…とりあえず乾杯しよっか…なんに乾杯かな…んーまあ…今週も、お疲れ様、乾杯。」

チンと、互いのガラスが触れる音で、ほんの少し心が軽くなる。

それから2時間ほど…
なんともいえない優しい…そして幸せな空気の中で、
私は杉崎さんとの食事を楽しんだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身

青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。 レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。 13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。 その理由は奇妙なものだった。 幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥ レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。 せめて、旦那様に人間としてみてほしい! レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。 ☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...