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~拓海~

酒の肴

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午後、それから先はとにかく笠村課長の方は一切見ずに仕事をした。


   俺は、どうやら君のことが好きらしい…?だと…??

はあ・・・? 

これまでに一度も、課長からそんな雰囲気を感じたことはない。

マジで、頭のネジが一本緩んでる…どこか、バグってるに違いない…。 
きっと、一時の気の迷いだろう…。

そう思いつつも、俺がベンチを去った後のあの、男の項垂れ方ときたら…

まるで、雨の中…びしょ濡れ状態で捨てられた子犬…いや、大型犬のようだ…。

自慢でないが俺は結構、男としてデカい方だ…
筋肉だってある。普段から鍛えているから当然だ…。

ハッキリ言って、男男しているといって、過言ではない…。

体格でいえば、あの、杉崎という男にも全く負けてなどいない。

身長も、筋肉もそうだ。
あの男のように、生白くもねえし、王子様のような顔でもない…。
浅黒く、目つきも多分、良い方とはいえない…。

なのに、なぜ… 男は俺に、好きだと言ったのか…?

俺の偏見かも知れないが、これまで俺は、男が男を好きになるっていう場合、
その片方の男は、女みたいな顔で、女みたいに細い身体で、女みたいに白くて…
つまり、女のような…中世的なイメージを持つ男が、そういう男…ゲイに狙われるんだと思っていた。
 
俺は見た目も性格も完全に男…。
ナヨナヨしたところもないし、あの男に特段、そんな隙を見せた記憶もない…。

「はあぁっ … 」

時計を見ると、もうすぐ終業時間…。

そして笠村は今離席中のようだ。そういえば昨日、会議とか言ってたかも…。

よし、チャイムと同時にそっこー帰ろう…。

そう思ってPCを閉じようとした矢先だった。

「… お~い!長谷川さん~ ため息ついてどうしたの…?」

「… えっ…?あ…いや… 」

見ると、想像した通りの人が、目の前に…。

原田さんだ… なんとなく、嫌な気持ちになってしまうのを止められない…。

この女はきっと、課長と俺のことを面白がって見ている…
そんな気がした。

「… あ~~!まさか!!… もしかして、今日!?… 言われちゃった!?…とか…?」

「… は… ?」

「笠村課長に、何か言われた…?その、愛の… 」
にやにや笑いながらこちらを見下ろす原田。

「ストップ…」

俺の想像は確信に変わる。

「…すみません、周りいるんで、今はやめてください、俺ちょっと今日、急ぐんで…また今度」

「え~~聞きたかったな~ でも、了解。明日以降、まったね~」

言うだけ言って、ひらりと身体をひるがえし自分のデスクへ向かう。

「…お先に、失礼します。」

素直に話して、酒の肴にされてたまるか…俺の中には多分、そんな気持ちがあった。

終業のチャイム後すぐに部屋を出る。

アイツならきっと、俺の話をちゃんと聞いて、的確に分析してくれるだろう…。
なにしろ、恋愛の達人…いや、セフレとかなんとか…瑠衣はきっと、そういうことに詳しいに違いない…。
俺の勘違い、思い違い…かも、しれない… 

瑠衣なら、俺の解釈が違うと、言ってくれるかもしれない…。

俺はそんな小さな期待を胸に…足早に、マンションへ急いだ。
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