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~杉崎~

思案

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「…じゃあね、細野さん。」

「は~い、杉崎さん、また、お邪魔しますね~」

細野さんはにこやかに笑って、軽やかな足取りで自身の部屋に戻って行った。

「… … ふう … …」

俺は静かにため息をついて、すぐに部屋には戻らず、ゆっくりとした足取りで自動販売機に向かう。

まだ始業時間までは5分ほどある。
普段はあまり飲まないが、缶コーヒーでも買おうかという気になった。

どれにしようかと視線を走らせる。

細野さんは明るくていい子だとは思うが…少し、強引なところがある。
人と人が会話しているところに途中から割って入るのは、なかなかに勇気がいることのように思うが
彼女は毎回そうなのだ。

これまでに何度、俺と、水無月さんとの会話を邪魔されただろう…。

給湯室や、廊下… 残業中… 
これまでに何度も、同様のことがあった。 

俺が水無月さんと話している時に限って、声を掛けてきてはいないか?などと疑いそうになるほどに、何度も…。

正直、そのような形で声を掛けられるのはあまり好きじゃない。
自分だったら、絶対にそのようなことはしないからだ。
だけど、今は水無月さんと話しているから後にしてくれないか、などと言えるはずもなく、今に至る。

細野さんがあの勢いで俺のところに来ると、毎回水無月さんは遠慮がちに、その場から俺を細野さんに譲るかのように立ち去ってしまう。

俺は、話の続きをしたいと、彼女を追いかけることすら出来ない…。

「はあ… … …」自販機の前にいくつか設置されている椅子に座り、缶コーヒーを口にする。

温かな、カフェオレの甘ったるい味が口内に広がる。         

「… … …」

いつも、こんな感じだ…。

あんなにも、彼女と近付けたと思った熱い夜…

お互いに、たどたどしくも…気持ちを確かめ合いながら、身体を重ねた…
少なくとも、俺はそんな気でいた…。

だが……… … … 

           何かが、引っかかる…

俺は彼女を好きだと確実に伝えたつもりだし、彼女も応じてくれていたと思っていたのに。

出張から帰って来て以降の、彼女のよそよそしさはなんだ…

この数日間、彼女が意図的に、俺を避けているように感じるのは気のせいだろうか…。
仕事の際はもちろん必要があって話をするが、昼食時も大半は外で食べているようだし、そもそも最近、まともに雑談すらしていない。

前のように、目が合うことが少なくなったどころか、合っても…緩やかに視線を外されている気すらする…。

ひょっとして、あの男と何かあったのか…?
あの後、やはり別れ話などを口にして、こじれでもしたのだろうか…。
これは単なる推測に過ぎないが、拓海が別れるのは嫌だと、拒否をしたのかもしれない…。

それとも…これは考えたくもないことだが…舞い上がっているのは俺だけなのだろうか… 

彼女が、俺の手の中から…

腕の中から、すり抜けて行ってしまいそうな嫌な感覚が、俺を襲う…。

いや…  駄目だ… 

俺はその感覚を振り切るように、再びカフェオレを口にする。


































































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