【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ

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~帰路~

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おまえを食いたい

「… … … 」
拓海の口から飛び出た言葉に…思わず、言葉を失う。

でも、確かにそう言った…。
肝心な部分が聞こえず、もう一度拓海を見た直後に、拓海はハッキリとそう、口にした。

「… … あの、 …拓海… … 」

… なんと続けるのが正解か…。
すぐには何も、浮かばない…。

いつもの冗談だろうか…

でも、就職して初めて拓海がこちらに遊びに来た時…
同じようなことを私に言ってきたことが、確かにあった…。

あの時は…拓海が、かなりの空腹状態だと言っていたにも関わらず…
食事よりも先に…かなり強引にそういうホテルへ連れ込まれて…激しく、抱かれた…。

「… 何… ?おまえさ…今…何考えてる… ?」

ハッとする…。

拓海が私を正面から見下ろす視線に、心臓がドキリと音を立てた。
拓海の目が…私を探るかのようにうろうろしているように見えるのは、気のせいだろうか…。

私の本心…。

したくない…  
今、…拓海とそういう行為を…

セックスを、したくない…。

拓海には、きちんと話さなければならないことがある…。

私の今の正直な気持ちを、伝えなければならない…
いまだ、大事なことを伝えることが出来ていないこんな時に… 
中途半端に…
そんな行為に、とても応じる気になれない…。

「あ… の、…別に、何も… 」
こんな場所で…いきなり、別れを切り出すことはできない…
どうしよう… とにかく、断りの言葉を… 

ただただ、そう思った…。

「… ふーん… じゃあ… 行こっか… 」

「え…? … あの…」

「…何…?そのすっとぼけた顔… …行くぞ…その辺適当に歩いてりゃ、そういうホテルあんだろ…」

いきなりぐいと手首をつかまれ、私のキャリーケースに手を掛ける拓海…。
その顔に…その表情に… 間違いなく…欲情の色が、見えた…。

「…っ …たく …み… 」

まただ…

これでは、あの時と全く同じだ…。
でも、あの時とは全然、違う…。

もう…私の気持ちは全て…杉崎さんに向かっている…
拓海とは別れる… 
こんな中途半端な状態で…卑怯だとはわかっていても…
既に、そんな風に心に決めている自分がいる…

絶対に、このまま、流されては駄目だ。
このまま、拓海の強引さにもしも、流されたら… また、きっと、何も言えなくなる…
拓海と…別れの話すら、できなくなる…

駄目だ… 絶対に、駄目…

私は意を決して、拓海に声を掛ける。
嫌だと断らねば…

「… 待って、拓…拓海…っ…あの…  」

「… ほら、… 早く… あ… あそこにあった…!今、ちょうど飯時めしどきだから空いてんだろ…行くぞ、葉月…」

拓海が私のキャリーケースをゴロゴロと音を立てて引きながら、もう片方の手で、私の手首をさらに力を込めて握る…。

「… い、たっ… 拓海、ちょっと待っ… や、だ…あの、今日疲れてて…先に…ご飯、食べに行こうっ…」

「… なんも、聞こえませーん… 待てませーん… 」

私の言葉を右から左に受け流し… おどけるような表情で笑いながら、ズンズンと進む拓海の強引な態度に、少しの憤りを覚えた。

「… い、… 嫌っ… だってば、拓海っ…! やめて…」

力を込めて、握られた手を、ぶんと、振りほどく…

「… … … … 」

私を見る拓海の目に、思わず息を飲む…。
拓海の驚いたような…少し、傷付いたような表情が、私の気持ちを、突如、ぐらぐらとぐらつかせる。

「…なん、だよ…おまえの、その態度… は~~… テンション、下がるわ…せっかく、会えたのに…」

「… 拓海 … 私、…拓海に話が…話したいことが、あるの…だから…とにかく食事しよう…?お腹、すいたし」

「… わかった… 」
項垂れるようにしながらも、拓海が怒らずに私の提案に応じてくれたことに、ホッと胸を撫でおろす。

もう少ししてから、私が福岡に赴き、話をしようと思っていた別れの話…。

いずれ、話すしかないのだ…
話すなら、きっと、早い方がいい…
もういっそ、今夜、終わらせてしまおう…  

その後の沈黙に耐えられず、「じゃあ、どこにする…?」と、拓海に尋ねる。

「別に…どこでも…おまえのいいとこで…いい…」拓海があからさまに目を伏せる…。

「…えっと…じゃあ…例の、ハンバーグにしよ…?」
私の方からそう提案し…

拓海と私は無言のまま、店へ向かった。







 


















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