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~彼氏~

食事

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さっきの…
空港での、杉崎さんの前での拓海の態度には…たとえ、嫌な感情を持っていたとしても…
不意打ちのように、拓海にこんな風に屈託のない笑顔を見せられると、私の心の奥底にじわじわと罪悪感の波が押し寄せてくる…

「はあ…さすがに腹減ったな…あれからネカフェの4時間パックで時間、潰してたんだけどさ…時間的に中途半端っていうか…葉月とがっつり美味い夕飯食いたいって思ったからさ…結局昼に軽めのチャーハンしか食ってなくて…」

拓海が話を続ける。

「…そっか…ごめんね…じゃあ、拓海の食べたいものっていうか、食べたいお店で食べよう。何がいい…?」

ごめん、ごめん…

私はさっきから…拓海に、条件反射のように、謝ってばかりだ…
なんで、こんな風になってしまったんだろう…
そんなことを頭の隅で思いながら、私は拓海を見上げる。

「んーー …何がいいかな…やっぱ、肉…!!焼肉かな…や、でもなんか…天ぷらも捨てがたい…いや、普通に居酒屋で酒飲んで、色んなの食うのも楽しいな… うーーー…悩むな…」

拓海が腕を組んで、ああでもない、こうでもないと…真剣に夕飯について悩み始め、その、子供のような姿に少しだけ安堵する…。

「… 次は … 次は、… 」車内のアナウンスが入る。

「あ… 拓海、次だよ、降りなきゃ…」

「あ… ああ、そうだな、…俺、やっぱ… 」

キキ…   プシュー― …   

バスがゆっくりと停車して、ドアが開く。
私は慌てて、拓海を促す。

「着いたよ、ひとまずバス、降りよう…拓海」

「あ… おおっ…  降りよ降りよ… 」

「ありがとうございました」
運転手に小さく声をかけ、私と拓海は大きな荷物を手にして、慌ただしくバスを降りる。

降りたバス停付近は繁華街の真ん中で、食べるお店には事欠かない。

「さ…どうしよう拓海…行きたいお店、決まった…?…そうだ!前に拓海が行きたいって言ってたハンバーグのお店が、すぐそこに…」

「よし、決まった…!」

拓海がポンと、片方の手のひらを片方の拳でたたく…
何か思いついた時によく目にする、わかりやすいジェスチャーの一つ…

「え… うん … ?何… どこ…?」

「俺、… … … 食いたい…」

拓海の小さすぎる声が、耳に届くが… 
周りには車も数台走っている喧騒の中…ちょうど、音が途切れてしまい、私は拓海を見る。

「え… ?何 … 聞こえなか…」

「俺、…おまえ…葉月を、食いたい…今すぐ…」

「… え … … 」

おまえを、食いたい… 私を…  …  

拓海は今、そう、言ったのか…  

そう言えば…前にもこんなことがあったような、気がする…

でも… 前とは…状況が違う…  
あまりに、違い過ぎる…    

私は軽い眩暈を覚えつつ、無言のまま…拓海の方をゆっくりと、見返した…。






 
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