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~彼氏~

着陸

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「… よし… じゃあ 行こうか… 」

彼の、優しい声がする…。
杉崎さんが、いつものように優しい瞳で、隣にいる私を見つめていた…。

「… はい… 」

飛行機の窓際の席から、私はゆっくり立ち上がる。
 
離陸時も着陸時も、怖がる私を案じてか、杉崎さんがしっかり私の手を握ってくれていた…。

温かで、大きな手…
指が長くて…男性だというのに、綺麗だという表現が一番しっくりくるほどに、繊細な指が…手が、私の手を柔らかに包み込んでくれていた…。

その手が、私が立ち上がってもなお、私の手を握ったままで…私は堪らなくなり、声をかける…。

「あの…杉崎さん…もう、大丈夫なので…手を…その… あの…」

発した言葉は、自分の気持ちとは正反対の、言葉…

「…もう、大丈夫です…」

「あっと…そうだ、ごめんね… つい…そのまま手を繋いで歩くところ、だったね…」

杉崎さんの手が、まるで熱いものにでも触れたかのように、瞬時に私の手から離れていく…。

「いえ… すみません、… 」なぜか、謝罪の言葉が口を突いて、出る…。

ふっと、思い出した光景…

まるで、あの時みたいだ…

歓迎会のあの夜… 
主任のおかしな質問に耐えられなくなって、動揺する私を、守ってくれたあの日…。
杉崎さんが私の手を取って、無理矢理に座らせてくれたあの夜…

でも、あの時とは違う…
あの時とは明らかに違う、今の、私と杉崎さんの関係性…
この状況に、信じられない気持ちがしてくる…。

手が離れた途端に、寒々しい気がするのは、なぜだろう… 

寂しい…   

杉崎さんがゆっくりと、通路を歩き出す… 
私はその後を静かについて行く…。
広い背中… 紺色のスーツがとてつもなく似合っていて、クラクラしそうだ…

たまらなくなる…

もう一度、座りたい… 
窓側の席に…もう一度座って、杉崎さんの横に、並んで座って…いたい…
ずっと、この小さな空間に閉じ込められていたい… 
もっともっと、長い時間、杉崎さんと一緒にいたい…

そんな、感情が…

あまりにも欲張りすぎる、馬鹿な感情が、私の心の中にゆっくりと渦巻き始め…
はっと気づいたかのように、自分自身の気持ちを無理矢理に、戒める…。

違う…

今は、そんな状況に100パーセント、ない…
手荷物を受け取った先には、きっと…拓海がいる…

空港まで、迎えに来るかもしれないし、来ないかもしれない…
そんな風に曖昧に、拓海が言ってはいたが、どうしても… 地上で、待っている気がする… 

きっと、拓海は空港に来ているに違いない…。

「… 水無月さん… 大丈夫…?」
杉崎さんが通路の途中で振り返って私を見下ろす…

「… はい、大丈夫、です… 」

本当は、大丈夫なんかじゃない…

本音を言えば、拓海に会うのがものすごく怖い…
杉崎さんと一緒にいるところを見られるのも、怖い…   

本当は今すぐ、どこかに逃げ出したい…

でも、今は何も言えない…  
私のしたことは、私自身で、きちんとしなきゃ…

私はこくんと頷き、
杉崎さんの少し後ろに続いた…。







・・・・・・・・・・・

ご挨拶

ご愛読いただき、ありがとうございます。
更新は不定期となりますが、読んでいただけると嬉しいです。



こちらの作品は、既に完結済の、【完結・R18 ほかに相手がいるのに】の続編となっております。
本編をご覧になったうえで読んでいただく方が良いかと思いますので、よろしければ先にそちらの小説をご覧ください。




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