上 下
138 / 363

諦め

しおりを挟む
木曜日

俺は遅番のバイトを終え、他のメンバーに挨拶し裏口を出た。

あと一日…あと一日で、待ちに待った圭一との旅行だ。一泊二日の旅行だし、浴衣とかそういうものは旅館に揃っているから、実質着替えと、ちょっとした荷物くらいでほとんど準備は済んでいた。

あとは圭一の好きなスナック類やらお菓子を明日買っておけば、準備は万全だ。

うん…あとは、待ち合わせ時間を圭一と…

   … 俺は…、一瞬声を失った。

寺崎が目の前に、突然…、立っていたからだ…

いや…俺が考え事をしながら歩いていたから、突然ではなく、気付かなかっただけ、かもしれない…

「て…寺崎…ひ、久しぶり…」
俺はかなり不自然な態度で、声を発した…ような気がする。

「僚介…あのさ…今から…ちょっとでいいからさ…話せないかな…?今週会った時にでも、なんとかおまえと話できたら…って思ってたけど、おまえ、気付けば姿、消してるし、バイトも時間、変更したんだな…ひょっとしてやっぱり…俺のこと避けてたり…するのか…?」

「… …」 

どうしよう…今週は寺崎と話したく…なかったのに…

だからわざわざ全ての時間で避けていたのに…まさかバイト先で…待ち伏せ…されるとは、思っていなかった…  

なんて言おう、なんて言って、この場を乗り切ろう…
ぐるぐる考えながら、俺は言葉を発する。

「あの…さ…ごめん、寺崎、本当にわざわざきてもらったみたいで悪いんだけどさ…、来週…にしてくんないかな…絶対、時間作るしさ。今週ちょっと都合が、悪くて…」

「週末…奥村との旅行…が、あるからか…?だから、忙しくて俺との、ちょっと話をする時間さえも…取れない…って…こと…か…」

寺崎の低い声が、暗い夜道に響く。

「俺はここ最近のお前の態度に…悩まされて…もう、わけわかんなくなってる…苦しいんだ。頼むからもう、全て話してくれないか…シュウってやつのしたこと… できれば、今…すぐに…」

俺は目を閉じた…

シュウが寺崎の内心をどう言おうと、コイツは俺の…大事な友達だ…  もう、コイツを意味なく苦しませることはできない、…引き延ばせない…

「わかった…」

 俺は気付けば、そう、答えていた。


        

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

絵の中に棲む夢

音羽夏生
BL
教授のおつかいで、重厚な洋館の古書肆・虎穴堂を訪れた大学生の上嶋景は、店番の少年・御園文也と出会う。 高校生とは思えないほど大人びた、そしてどこかあやういほど純粋な文也との交流は、兄の失踪で露呈した、歪な家族との関係に傷ついていた景の心を癒し、先を照らす灯となった。 気づいた時には恋に落ちていた景だったが、相手は年下の高校生で、しかも男同士──恋が生まれた瞬間に成就を諦め、兄の立場で文也を見守ろうと自分の心に蓋をする。 しかし、文也が時折垣間見せる、人間らしさがごっそりと抜け落ちた感情の不在、失踪した兄との類似点に、景は掴みどころのない不安を募らせていく。 古書肆の壁に架けられた、二枚の絵。 その中に描かれた、成長していく子供。 謎めいた洋館に棲む少年の秘密とは──。 家族の崩壊で居場所を失った青年と、過去の喪失に魂を傷つけられた少年──二人の再生の物語。

絆の序曲

Guidepost
BL
これからもっと、君の音楽を聴かせて―― 片倉 灯(かたくら あかり)には夢があった。 それは音楽に携わる仕事に就くこと。 だが母子家庭であり小さな妹もいる。 だから夢は諦め安定した仕事につきたいと思っていた。 そんな灯の友人である永尾 柊(ながお ひいらぎ)とその兄である永尾 梓(ながお あずさ)の存在によって灯の人生は大きく変わることになる。

居酒屋“おがた”はムテキのお城

月那
BL
大学生 芳賀朋樹のバイト先は“居酒屋おがた”。 美人女将と寡黙な料理人大将が経営している小さな店だけれど、いつも賑わっている素敵な空間。 そんなお店で、朋樹は何故か看板息子 緒方櫂斗に口説かれているわけで。 いつか“俺のトモさん”にするために頑張る櫂斗と、そんな彼を邪魔する者の戦いの日々は、まったりとこのお城の中で繰り広げられている。

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

大東亜架空戦記

ソータ
歴史・時代
太平洋戦争中、日本に妻を残し、愛する人のために戦う1人の日本軍パイロットとその仲間たちの物語 ⚠️あくまで自己満です⚠️

処理中です...