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お茶

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「どうぞ… こちらへ… 」

男に促されるままに、椅子に腰掛ける。

コイツ、あの男だ… 名前がまた、思い出せない…なんだっけ…

確かあの日…

俺と夏木が初めて結ばれた夜…あの、忘年会の夜…

酔ってフラフラになった夏木を送ろうとしていたあの男だ …  
えっと、名前は… …  確か… み… み… 

「写真…見ていただけました?」

男がいきなり、本題に入る。

少し待てよ… おまえの名前すら思い出せないのに… 
…えっと… 名前は確か、 み…みや…宮城か、宮崎か… そんな、名前の…

「どうでしたか…?綺麗に撮れていたでしょう…?」
男がニヤリと笑って俺を見下ろす。

綺麗に撮れていたとはなんだ… 
コソコソと盗撮して撮った俺と夏木のツーショット写真を、俺に…あんな形で送り付けておいて…

俺は怒りに震えながらも、まだ立ったままの男を見上げる。

「…あ… あれは、なんだ… 俺を脅すつもりか?」

「まあ…そんなとこ、ですかね… ああ…忘れていた…すみません、お茶も出さずに…」

男が、いそいそと何かを準備している…
やたら、デカい男だ…身長は180…いや、185…位はあるだろう…
肩幅も広い…完全に、体育会系の身体つきだ…
俺もそこそこ身長はあるが、男として、少しの劣等感に襲われる…

「どうぞ…」
男が振り向き、俺の前にある小さなテーブルに、ことりと音を立て、珈琲カップを置く。

「…お茶とか、いいから… 話を… …」
「外、寒かったでしょう?先に飲んで温まってください…話はそれから…」
「ちっ… 」

俺は普段、舌打ちなど絶対にしない。
舌打ちは、周りにいる人間を不快にさせる。
どんなに苛立っている時でも、俺には感情を抑える自信があった。

なのに、この時は自然と出てしまった…俺もまだまだだなと、密かに反省する。

だが、確かに外はかなり冷えていた…俺は今更ながらに寒気をおぼえて、仕方なく珈琲を口にする。 

うまい…  あぁ… 温かくて、身体があったまる… 
いや実のところ珈琲は身体を冷やすらしい…最近テレビの雑学番組で知った話だ…
ああ…そんなことはどうでもいい… なぜ今、そんなことを考えるんだ…

こちらこそ、本題に入ろう…
俺はやたらデカい男を見上げた… 

  名前は… そうだ、… 
        
        営業の宮城だ…!





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