[私の彼はビジネスおねぇ]

柚木さくら

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[私の彼はビジネスおねぇ]――エピソード0――

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「はぁ……ムカつく! 何が『お前は俺が居なくても生きていけるよな』よ。なんで私が悪いみたいな雰囲気にされなきゃならないのよ」

  私はつい数分前に恋人にフラれた。自分にも悪いところはあったのかもしれない。だからフラれたのは仕方ないと思うことにしたけど……別れを言うこの場所に、新しい彼女かなんだか知らないけど連れて来るってありえないと思うのよ。
  このまま帰るのもなんか嫌だし……飲みにでも行こうかな。

 ** BAR **

「BAR Ariesアリーズ ?初めてのところだけど入ってみようかな」
「いらっしゃい」

  どうせ帰ってもさっきの事思い出しちゃうし、飲みにでも行こうと歩いていた私はBARを見つけたので入ってみた。
 初め入るお店だったけど雰囲気は悪くない。
  オーナーさんかな? いらっしゃいと声をかけられたので、軽く会釈をしカウンター席へと座った

「何にしましょうか」
「お任せで」
「少しお待ちくださいね」

  居酒屋などは行った事はあるけどBARなんて来たのは初めてだし、なにか決まったルールなどあるのかも分からないから、とりあえずお任せで作ってもらうことにした。

「はいお待たせ」
「これは?」
「アンシャンテって言うカクテルよ」
「初めて聞くカクテル」
「フランス語で『はじめまして』って言う意味なの」

  『おまかせで』と頼んだ乳白色のカクテルが目の前に置かれた。アンシャンテというらしく、フランス語で『はじめまして』と言う意味のカクテル言葉があるらしい。
  私は『ありがとう』と返し、そのカクテルに口を付けた。

「美味しい!」
「そうでしょ、そうでしょ! 私が作ったのだからね」

  優しいオーナーさんのおかげか、さっきの事は思い出さずに済んでいた。深いことは聞かずとも私の出す雰囲気で察してはいるようだけどね。
  その都度私の気持ちに沿ったカクテルがスっと出てくるの。

 ********

「今日はこれでおしまいにしときましょ」

  席に座ってからどのくらい経っただろう。時間を確認してないからわからないけど、飲みやすいカクテルばかりだったからつい飲みすぎてしまった。次で最後にして帰ろうと思ってたら、まるで私が考えていた事が分かっていたかのように最後の一杯が来た。

「このカクテルはメリーウィドウよ」
「カクテル言葉は?」
「カクテル言葉は『もう一度素敵な恋を』よ」

  何回かボックス席にお酒を持っていったりはしていたが、カウンター内に戻ってくれば、私と話してくれていたオーナーさん。
  フラれた話とかも何故か話しちゃってたからか、カクテル言葉を聞いてビックリしちゃった。

「出来たらいいんですけどね」
「大丈夫。必ず新しい恋できるわよ」
「ここに通ってれば出会えますかね」
「それは分からないけれど、私とはもう友達よ」

  ビジネストークと言うやつだろうけど、もう友達と言われて嬉しい気持ちになった。
  そろそろ閉店すると言うので、残りを一気に飲み干した……それがまずかったのか、度数が強かったのか一気に酔いが回ってしまった。

「あれ、急に来た」
「あらあら、結構飲んだものね……店を閉めたら送って行ってあげる」

  ふわふわとしたまま、オーナーさんのその言葉を聞きながら、睡魔も襲ってきた私はそのまま意識を手放した。
  
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