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幕間 新人メイド見習いから見た公爵家
しおりを挟むヴァーミリオン家に保護されたルルは、その日のうちにメイド見習いとして奉公することが決まった。孤児の身では世話になれないと、そう申し出たが受け入れられなかった。リリアンの望みであることだからと、そう押し切られた。挙句リリアンがやってきて同じ事を言うから、ルルはもう恐縮しっぱなしだった。
翌朝目が覚め、食事を終えた後、改めて待遇について話があった。なんと給金が出るという。住居は住み込み、服は支給。食事は提供されるというので引っくり返るほど驚いた。それではますます厄介になるわけにはいかない。だが話をしてくれた侍女長という女性が言うには、これは決定事項ということだった。
「お嬢様が望まれた事でご当主様の決定です。あなたに覆すことはできません」
「そ、そんな。でもわたし、孤児で、公爵様にお仕えする身分じゃありません」
きりっとした侍女長は、わかっていますよ、と首肯する。
「それも織り込み済みでの決定です。ご当主様もお嬢様も、それで良い、とおっしゃって下さっているのです」
ルルは再度、そんな、と声をあげた。
「どうして……」
「信じられないと?」
眉をぴくりと跳ね上げた侍女長に、ルルは慌てて首を振る。
「そ、そういうわけじゃ……ただどうして、そこまでしてくれるのかと思っただけで」
「そうですね……」
侍女長は、「これだけは覚えておくように」とルルの目をじっと見る。
「ヴァーミリオン家に仕える者は、ただの一人の例外もなく、一つのことを遵守するよう、ご当主様に仰せつかることがあります」
「は、はい」
「ご当主様からの命はひとつ。『リリアン様のお望み通りにすること』。それだけです」
「……はい?」
ルルはぱちくりと瞬きを繰り返す。
「あなたも本日よりヴァーミリオンに仕える身。『リリアン様のお望み通りにすること』、これだけを守りなさい。いいですね」
いいですね、と言われても?
ルルはそんな言葉を飲み込んで、わからないなりに「はい」と頷いた。すぐに侍女長は「よろしい」と言って、ルルをメイド長に引き合わせてくれた。
侍女とメイドとでは役割が異なるそうで、ルルの直属の上司はメイド長となるそうだ。今後はこのメイド長から話を聞くことになる。メイド長は「マリーベルと呼んでね」と言った。気さくな人物のようでルルはほっとする。
ルルはその後、これから生活をすることになる部屋に案内された。メイドは二人で一部屋を使うそうで、相部屋となる。相部屋の相手は十六歳、ルルの四つ上だ。今は仕事中なのでその子は出払っている。公爵家なだけあって下働きの使用人の部屋にしてはゆったりした広さがある。簡素だけどしっかりしたベッドと、机と椅子の一組を与えられた。自分だけの机と椅子なんて持ったことがないルルはおっかなびっくり椅子に座ってマリーベルに笑われた。
それからトイレと風呂にも案内される。ルルは一度屋敷に来た時に風呂へ通されている。その時から思っていたが、手入れが行き届いていて清潔で、気持ちがいい。使用人の使うものなのにぴかぴかしていて、ルルは気後れしたくらいだ。マリーベルは、「ここの掃除もあたし達の仕事よ」と言って笑ったから、ルルの考えなんてお見通しのようだ。何もかもぴかぴかしていて触れるだけでも恐ろしい。これは慣れるのに時間が掛かりそうだと、ルルは気が遠くなる。
それから厨房に案内されることになったのだが、いくつもの角を曲がり更に別の角を曲がるので、ルルは今居るところが部屋からどのくらい離れているのか完全に分からなくなった。これではマリーベルとはぐれたら部屋に戻ることができない。そうルルが思っていると、マリーベルは前を向いたまま
「もし屋敷で迷ったなら、壁の装飾を確認して」
と、壁の一部を指差した。壁の上の方は壁紙で、下は木の板になっている。マリーベルが指したのは下の方だ。重厚な色合いのそれはぐるっと一周蔦の彫刻が施されており、その蔦の中には百合の花が咲いている。
「百合は公爵家の皆様の生活圏に使われているから、ここではお会いする機会があるの。だから注意して。もしもお会いしたらきちんとご挨拶をね」
「はい」
「使用人の生活圏にはこの花が無いの。だから戻りたければ蔦だけのところを探せばいいわ。それでもお屋敷は広いから、誰か他の使用人を見つける方が早いけれどね」
マリーベルがそう言って肩を竦めるので、ルルはちょっと笑ってしまった。
厨房に着くと、付随したスペースで幾人かの料理人が休憩していた。椅子が十五脚、それと机がある。ここを食堂としていて、使用人はみんなこのスペースで食事を取るそうだ。食事の時間はさながら戦場のようになるので、近付くときは気を付けるように、とマリーベルが耳打ちする。
ここは料理人達が管理しているそうで、メイドは厨房の掃除はしないそうだ。ただ給仕はメイドの役目なので、そのうちルルも出入りすることになるだろう。休憩中だった料理人の中から一人手招きして呼び寄せると、マリーベルはその間に説明してくれた。ルルは覚えておこう、と胸に留めた。
呼びされた料理人は恰幅のいい中年の女性で、シェリルと言うそうだ。
「あら、見慣れない顔だね」
「シェリルさん、この子が新入りの子よ。ルルって言うの」
「は、初めまして。よろしくお願いします」
そうなの、よろしくね、と言うシェリルは人のいいおかみさん、といった風貌だ。街の食堂のおかみさんはだいたいこういう感じだったのを思い出す。彼女の作るスープはとっても美味しいのだとマリーベルが教えてくれた。
休憩中の彼女をあまり長い時間拘束しては休めない。だから今は軽く挨拶だけね、とマリーベルが言うと、シェリルはルルに、食堂の利用について簡単に説明してくれた。食事の時間は役職でローテーションになっているのはマリーベルから聞いているが、シェリルが教えてくれたのはここの料理人のことだ。
「困ったことがあったら、あたしかあそこの若い男の子に言いな。他のは強面だったり口下手だったりで、あんただと話しかけるのに難儀するだろうから」
「は、はい」
「それ以外は追々ね」
何度も頷くルルにシェリルは笑って、「最後に仕事をする上で一番大事なことだよ」と前置きをして、人差し指をぴんと立てた。
「あたしらは料理人だからね。リリアン様に満足して頂くのが最優先なんだよ。あんたもリリアン様のお望みが最優先っていうのは聞いたろ?」
「あ、はい。確かに」
だろう、とシェリルは満足そうに頷いて、
「だからリリアン様に最高の料理をお出しするのがあたし達の役目なんだよ。あんたもメイドの役目をしっかりこなすんだよ」
「はあ……」
ルルはなんだかちょっとわからなくなって、でもシェリルの言わんとすることはなんとなくわかるので、とりあえずではあるが頷いたのだった。
それから軽く挨拶を交わし、厨房を後にする。まだ時間があるから、マリーベルは一通り敷地を案内すると言い出した。もうどこになにがあるかさっぱり分からなくなっていたルルだが、とりあえず付いていくしかないので、お願いすることにした。
途中、廊下を歩く侍女の一人に出くわした。彼女は「リリアン様のご希望が第一です」と侍女の心得を教えてくれた。
案内された庭では、庭師が植木の手入れをしていた。彼は「私はリリアン様に最高のお庭を見て頂くためにいます」と嬉しそうに教えてくれた。
部屋へ戻り側、がっしりした執事がマリーベルを呼び止めた。なにか粗相をしたのかとびくりとしたが、彼は案内が順調かどうか声を掛けてくれただけだった。そして「旦那様からはリリアン様のご用命を優先するよう賜っています」と、仕事の上で肝要となることを教えてくれた。
みんながみんな、あの『リリアン様の望み通りにすること』を守って仕事をしているのだとルルは思い知ったが、聞けば聞くほど、『ルルに求められていること』は分からなくなってしまった。なんだかもやもやした気持ちのまま、ルルはマリーベルの後をついていった。
その後もう一度、厨房と風呂とトイレの位置を確認した後、部屋に戻ってきた。そしてそこで質問はないかと言われた。ルルは、少し悩んだ挙句、訪ねる事にした。
「侍女長には、リリアン様の望み通りにすること、と言われましたけど、具体的にどういうことをすればいいんですか?」
「え?」
ルルの問いは予想外だったようで、マリーベルはぱちぱちと瞬く。
ルルは、あの御令嬢、リリアンが、自分が公爵家で働けるようにしてくれたのだと知っている。だからリリアンが望むならなんだってするつもりだ。だけど、それを『どうやってやればいいか』は分からない。さっき屋敷を案内された時だって、公爵家の家族の生活範囲にはルルは入れて貰えなかった。だから、リリアンに直接なにかをしてあげる、なんてことは無いと思う。そもそもそういうのは侍女の役割だと、簡単にだが侍女長から教えられたから、メイドで、しかも見習いの自分に出来る事なんて無いのではないか。そう考えていた。
それをしどろもどろに伝えると、マリーベルは「ぷっ」と吹き出したあと、盛大に笑い声を上げた。
「あっはっは! あんた、真面目だねえ!」
ぽかんとするルル。貴族の家に居る人はみんな、身分が高くてお淑やかなお嬢様だと思っていたから、マリーベルが大きな口を開けて大声で笑うのにびっくりした。
マリーベルはうっすら浮かぶ涙を指で拭った。
「リリアン様に恩義を感じてるんだね。分かるよ、あの方はお優しいから。あんたがそう思うのも無理ないよ」
だって公爵家のお嬢様だもんね、とマリーベルはウインクする。そう、公爵家の御令嬢なんて雲の上の方だから、ルルはどう恩返しをしたらいいのか。それが分からなかった。
マリーベルは開けていたドアを閉めて、椅子を引っ張ってきて座った。ルルのことも別の椅子に座らせて、それで話し始める。
「いい? メイドの仕事って言うのは、簡単に言えばお屋敷のお手入れなの」
「お手入れ……」
「そう。公爵家の皆様が、快適に過ごせるよう、お屋敷を整える。御自室はもちろん、廊下や階段、ダイニングとかのお部屋。お使いになる寝具、衣類。各部屋の絨毯とかカーテンとかの手入れ。美術品と宝飾品のお手入れは……専門のお店に任せるけど、日常の埃除けはやることになるよ。あとはそれに使う掃除用具の管理。他にもあるんだけど、ざっくり言うとこんな感じ」
「たくさんある……」
しかも全部色々細かい決まり事があるのよ、とマリーベルは遠い目をした。
「でも、肝心なのは、快適な環境を維持するということよ。その為の作業がたくさんある、というだけなの」
ルルは頷いた。マリーベルの言わんとすることはなんとなく分かったからだ。
「だから、あんたがメイドとして心掛けることは『リリアン様の為にお屋敷のお手入れを頑張る』ということだと、あたしは思うわ」
現にマリーベルはそういうつもりで日々を過ごしているのだと言われれば、ルルもそのようにするしか無いと思う。だけどルルは、それだけでいいのか、とも思ってしまう。
「でもこれだけのことをして貰って、それだけっていうのは……」
「あんたも真面目だねぇ」
ふふ、と笑ったマリーベルは、椅子から立ち上がった。
「まあ、そのうちにどうしたらいいかわかるんじゃないかな。今はそれよりもここの環境に慣れることだね。いい、無理しちゃだめだからね。頑張りすぎると倒れちゃうんだから」
ルルは、はい、と言って頷いたその時、ドアノブががちゃりと回って女の子が一人入ってきた。
「あら、モニカ」
その子を振り返ったマリーベルが声を掛けると、モニカと呼ばれた女の子はルルとマリーベルを交互に見た。
「マリーベルさん、ひょっとしてその子が?」
「そうよ、あなたの同室の相手になる子」
モニカは「わあ」と目をまん丸にするとニィッと笑って
「そうなのね! 今まで一人だったから話し相手が欲しかったのよ、よろしくね!」
と、ルルめがけて駆け寄ってきた。ルルの両手を掴むとぶんぶん上下に振るから世界が揺れて見える。ルルは必死になって「よろしく」と伝えた。同室の子はは十六だと聞いていたのでもっと大人だと思っていたのだが、それほどでもなかったようだ。
そんな二人の様子に、マリーベルは安心したようでモニカにルルを託して出ていった。モニカいわく「マリーベルさんもなかなか忙しいから」とのことだったが、今日一日付き合ってくれていたのは良かったのだろうか。
「改めて、あたしはモニカよ。ルルで良かったのよね」
「は、はい」
「ふふ、そんなに緊張しなくていいのよ。同じメイド仲間なのだもの」
モニカはそう言ってくすくす笑うが、笑顔はとっても綺麗だしふわふわした髪は艶がある。どことなく気品のようなものがあって、モニカはどこかの貴族の御令嬢なのではないかと思った。でも、モニカの言う通り『仲間』なのであるし、そこまで気負わなくていいのかもしれない。なのでルルは、普通に年上の先輩として、モニカに対して接すればいいのかと思うようにした。
「今朝、マリーベルさんに聞いてるの。改めてよろしくね。生まれは王都の商家なんだけど、ここには行儀見習いの一環でお勤めしているの。なかなか新しい子が決まらなくて、それでずっと一人部屋で話し相手がいなくって。だから嬉しくって」
モニカの頬は少し紅潮している。嬉しい、というのは本当なのだろう。歓迎はされているようで、それは良かったとルルは思った。ルルが話す前に話し出すのでちょっと困ったが、よほどおしゃべりが好きなんだろう。もしかしたらこれまでの鬱憤が溜まっているのかもしれない。とにかくこれなら仲良くできそうで、ルルはかなりほっとした。
使用人の生活範囲には、時刻になると鐘が鳴る。仕事中、時計が間近に無くても時刻が分かるようにと設置されたもので、低く響きにくいので他のフロアには聞こえない設計になっている。どこの部屋に居ても、ぼーん、と聞こえるのは便利だ。夜就寝の頃は鳴らないようになっているそうで、ますますすごいと感心してしまう。鐘の音が聞こえて、モニカは時計を取り出した。
「あとちょっとでご飯の時間ね。時間になったら行きましょ、使い方教えてあげるわ」
「わかった。ありがとう」
ルルがお礼を言うとモニカははにかむ。それからそうだ、と手を打った。
「ねえ、色々あると思うけど、今聞いておきたいことってある?」
「今聞いておきたいこと……」
「そうよ。今日はお屋敷を見て回ったんでしょう? わからないことだらけだと思うけど、一番不安なこと。それだけ解消できれば、きっと気持ちが楽になるわ」
ふふん、とどこかモニカが得意げなので、ルルはちょっぴり笑ってしまう。でも確かにモニカの言う通りだ。今朝からずっと胸の辺りがもやもやして苦しい。もしかしたらこれが消えるかもしれないと、言葉に甘えることにして、ルルは思い切って聞いてみることにした。
「リリアン様の望み通りにすること、それが大事って言われた。でもそれだけじゃなくて恩返しもしたいと思っているんだけど、どうしたらいいかわからなくて。マリーベルさんには、メイドの仕事をするのが一番だって言われたの。でも、それだけでいいのかなぁって……」
そうねえ、とモニカは腕を組む。
「マリーベルさんの言う通りだと思うけど……リリアン様のためになにが出来るかって、あたし達の出来ることは限られてるわ。それに、求められてることもね。だからそれを一生懸命やればいいって、そう思うけど」
モニカはそこで言葉を区切ると、ルルの目をひたりと見る。
「うまく言えないけど。あのね、リリアン様のために、ルルが頑張ってなにかをする。それが一番大事だと思うよ」
「え?」
なんて言ったらいいかなあ、と言うと、モニカは「うーん」と唸りながら天井を見上げた。
「リリアン様のご命令を遵守すること。これが旦那様から与えられるたった一つのご用命よ。あたし達は、リリアン様の望む通りのことが遂行出来るように、常に備えておかなくてはならないの」
ルルはその言葉をぽかんと聞いていた。
「これはメイドだけじゃなくて、全ての使用人がそうやって働いてるの。侍女も執事も御者も庭師も、みんなね。あたしももちろんそうよ。それが、ヴァーミリオン家の使用人に求められる唯一のものなの」
だから難しく考えることはない、とモニカは続けたのだが、それはルルの耳には入っていなかった。
「ああ、もうこんな時間ね。ご飯の時間よ、行こう」
そう言ってモニカはルルの手を引き食堂へ向かった。モニカはなにかしらの話を聞かせてくれているし、他のメイド仲間とも挨拶することができたのだが、その間も食事の間も、ルルはぼーっとしっぱなしだった。モニカの言葉が頭から離れなかった。生返事をするルルを不審がりながらも、考え事をしているとか慣れない環境で戸惑っているのだとか、疲れたのだと判断してくれたようで、時折話を振る以外は放ってくれた。それでルルは食事を無心で平らげることになったのだが、風呂に入らせて貰っている間もずっと、モニカの言葉がこだまする。
『リリアン様の望む通りのことが完遂出来るように、常に備えておかなくてはならないの』
『それが、ヴァーミリオン家の使用人に求められる唯一のものなの』
『リリアン様のために、ルルが頑張ってなにかをする。それが一番大事だと思うよ』
布団に入って、明かりが消されても、ルルは寝付くことができなかった。
(メイドの仕事は『快適な環境を維持すること』。わたしなんかじゃリリアン様の為にできることなんてないと思ってた。でも……みんな、自分の役目を果たしてる。それぞれが出来ることを、一生懸命に)
今日会った侍女も、庭師も、執事もみんな言っていた。「リリアン様のご希望が第一」だと。
(なら……わたしがやらなきゃいけないのは、『リリアン様のご希望通りにヴァーミリオン家にお仕えすること』。そして精一杯役目を果たすこと。それが『リリアン様のご希望』)
そうだ。それがリリアンが望んだこと。そして、ルルにできること。
(なんだ……わたしにできること、あるんだ)
どうしてかはわからないけど、そう思ったら、ふっと胸の辺りの重苦しさが消えた。
自分が納得できる答えを出せて、それに喜んでいるうちに、瞼がゆっくり降りてきた。ルルはしばらく微睡んでいたが、安心したせいもあってあっという間に眠りに落ちていく。
(明日から頑張らなくちゃ……)
それを最後に、ルルの意識は夢の中に消えていった。
ルルは知らない。当主アルベルトからの命令が、「いいか、リリアンがこの世の全てだ。だからリリアンのことが最優先になる」「リリアンの望む通りにするように。その為にこの家はある」という理性のぶっ飛んだ謎理論からくるものであることを。
そしてヴァーミリオンの使用人達が、「リリアン様可愛い! 天使!」と心の中で叫びながらリリアンに仕えていることを。その熱量がアルベルトといい勝負なのを。当主からの命令を遵守するのは、それが当主からの命令であるという以上に、それそのものが彼らの願望と一致するからだ。使用人達は、リリアンがリリアンの望む通りに生活するためにいる。彼らはその為の努力を惜しまない。なぜなら、そうすることが最も彼らの使命を果たすのに役立つからだ。
つまるところ、当主から使用人に至るまで、この屋敷にいるのはリリアン命の狂信者なのである。
侍女長は年齢を理由に引退を勧めるシルヴィアを押し退けてその位置に君臨し、リリアンが心穏やかに過ごせるようスケジュールを調整している。
メイド長のマリーベルは、いついかなる時にどこへでも外出出来るよう、リリアンの身に付けるものは欠かさず毎日手入れをしている。リリアンの行動範囲の掃除は完璧だし、侍女からいつ指示を貰っても良いように、各方面に連絡が出せる位置に必ず控えている。
庭師はそれこそリリアンが鑑賞するためだけに庭を整えているし、料理人も御者も、みんなリリアンがいつ何を必要としても良いように、常に準備を怠らない。
その全てが彼らの心の底からの本心によるもの。
まさに狂信者と呼んで差し支えない。だが、これがヴァーミリオン家の日常である。
本当の意味でルルがそこに加わる日は、そう遠くない。
応援ありがとうございます!
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