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学園都市編1
その8:へんしーん!
しおりを挟むジョイノくんは、楽しいことや面白いことが大好きだ。それを見つけてしまうと、もう止まらない。
例え、相手が満身創痍の空スライムであろうとも。スライム虐待はんたいー!
「なあなあ、ソラコ。お前、ね、猫になって、まぼ、ぶふっ、魔妨、接種、逃げようと、したんだって?」
ぷくくと、肩を震わせるジョイノくん。笑いを堪えようと顔の表情筋が大変なことになってる。
わたしは今、教室のジョイノくんの机に座らせられて、この様な辱しめを受けておる。なんなんだよー。
セラくんは、委員会に行っちゃってるおー。むうう。
どうやら、お菓子様達によるジョイノくんへのお風呂が黒スライムの儀式は失敗に終わったらしい。だって、お肌ツヤツヤしてるもんよー! よく眠れちゃった証拠でしょー! わたしの方がツヤツヤだよー! スライムだからね! なんだよー! むきー!
「いやいやいや、怒んな怒んな。俺はな、お前の事すげえと思ってんだから」
おめめがめっちゃ笑ってるよー。
「しっかし、お前、よくそんな形になれたよなー。猫って結構複雑な形してるだろ?」
興味津々と言った感じに、ジョイノくんがわたしをつつく。やめて、おさわり禁止だお! わたしはぴにゃりと触手でジョイノくんの指を払……えてないけども、力足りなくて払えてないけども、気持ち的には払ったのである。
うぬー、ジョイノくんめ。
ジョイノくんの言う通り、にゃんこの真似をするには、色々細かいところまで作り込まないと、にゃんこには見えなくなる。あの時のわたし、頑張った。でも逃亡は失敗した。ぬー。
「ソラコってさ、色んなもの、よく見てるんだよなー」
お? おお? 誉めてる? わたし今誉められてるの? もっと言っても良いお! どんとこい!
何だかんだで、ジョイノくんもなかなかわたしと言うスライムを分かってるね。良いけいこーだよ。
ぷにぷにされつつ、わたしもジョイノくんの指に触手を巻き付けてみる。冷たくてツヤツヤの触手の虜になるがいいよ。
しばらくジョイノくんと遊んでいると、ジョイノくんが「あ」と声を上げた。なにー?
「ソラコ、お前、人型になれたり出来ないか?」
面白がるような顔でジョイノくんは、わたしをつついた。
なにそれー。人型? 出来るに決まってるお。わたしは形の決まらないスライム様だよ。
「勿論、色は空色なのは分かってるけどさ、出来るか?」
だから、出来ますとも! サイズは人間のおにゃのこでいいー? わたしの限界値だからね! 形もおにゃのこで!
我がスライム属に伝わる変形奥義をとく見よ! へんしーーーん!
ジョイノくんがむくむくと形を変えるわたしを驚愕の眼差しで見ている。ふふん! どうだいジョイノくん!
「お、おおおおお、お、………………お?」
最初食い入る様に見えていたジョイノくんは、わたしの横に移動した途端、その声音を変えた。わー、ダメだお! そっちは舞台裏ー! 正面の観客席からごーらーんーくーだーさーいー!
「……お前、横はペラッペラじゃねーか」
なんだよー! そのガッカリした顔は! しょうがないでしょー! 身体の容量は変わらないんだから、縦にうすく伸ばすしかないのー。スライムに夢見すぎだお。わたしの容量じゃあ、おにゃのこサイズまでが限界なんだお! やってあげただけでも感謝しろですよ!
「……頼んでおいてなんだけど、気持ち悪いから、戻ってくれねえ?」
しっっっつれいにも程があるよジョイノコノヤローーーッ!
わたしは怒りの余り、そのままジョイノくんに覆い被さって悲鳴を上げさせるのだった。
ざまあみろだお!
魔妨接種後の魔物は、どんな魔物でも弱体化する。
魔素の過剰摂取を妨害するとは言え、細かく調整出来る訳じゃないから、必要量以下になるのは良くある話。
黒スライムなら問題ないけど、わたしみたいな最弱空スライムには死活問題。
「いーい? 空ちゃんは今とっても弱々さんなんだよ? セラ先輩と別行動なんて、自滅行為なんだよ?」
滔々とおにゃのこの愛らしい声に叱られて、わたしはおにゃのこの掌に乗せられた状態でしょんぼりした。
わたしを叱るおにゃのこはちゅーとーぶの、セラくんの後輩ちゃんである。おねえさんである。
セラくんがいつまでも戻って来ないから暇で暇で、ジョイノくんとのじゃれあいを切り上げて、教室から自由への脱出を図った。勢いってこわーい。
最弱なのに、更に弱体化してたせいで途中でぺたりとへばっていたわたしを見つけたのが、おねえさんである。ちなみに、わたしが行き倒れていた場所は教室からだいぶ離れた高等部の教育棟近くの小道だよ。わたし頑張った。むふん。
「セラ先輩もきっと、すごーーーーーーーーく! 心配するよー?」
力強い断言ー。怒られる? わたし、怒られる?
おねえさんは、ちゅーとーぶからお使いで高等部に来たんだって。背中に背負ったひよこさんリュックに書類が入ってて、それをちゅーとーぶに持って帰るんだって。わたし、ちゅーとーぶには行った事ないからどんなところか、分かんないお。
セラくんとわたしは一年と半分くらい前にここに来たからね。ちゅーとーぶに行く前に生活基盤を整えるとかで、ちゅーとーぶには行ってない。セラくんはすごーいからね。高等部から通っても問題ないんだよー。
おねえさんとは、生活基盤を整えてる最中に出会ったんだお。だから、同じまなびやには通ってないから、げんみつには、後輩じゃないのかなあ。よく分かんないね。
「空ちゃん、多分先輩は中庭にいると思うし、そこまで……」
「シュヴァレタさーーん!」
不意に教育棟の三階から声がかかった。
シュヴァレタは、おねえさんのお家の名前だよ。前にジョイノくんが言ってた。でも、おねえさんの名前はまだ分かんないお。
おねえさんがびっくりして教育棟を見上げるから、わたしも見上げた。そこには大きな丸眼鏡に三つ編みの、なかなか可愛らしい女の人がいた。灰色のローブを着ていると言うことは、教員の一人かも。ツィオーネ教授は普段から私服のワンピースやドレスを着てるけど、本来は教員は灰色のローブを着なくちゃいけないんだってー。なんでたろ? 目印?
しかし、なんだろう。この高揚感。眼鏡と三つ編み女子に、あるはずのない胸がきゅんきゅんする。罪作りだね三つ編み女子!
「あれ、ルミアス先生だ……。なんですか、せんせーーい!」
おねえさんが、三つ編み女子ーールミアス先生に大声で応えた。ほほう、ルミアス先生。眼鏡三つ編み女子は、ルミアス先生とな。なかなか綺麗なお名前。覚えておこう。すぐに呼び名は三つ編み女子になっちゃうけど。忘れたんじゃなくて、呼びやすく呼んでるだけだからね。わたし、スライムだけど、バカちんではないからね。
若いおにゃのこよりも低めの声がまた、大人のおねえさんっぽい。見た目おにゃのこだけどね。ギャップですよ。もしかしたら、ツィオーネ教授属性かもしれない。若作りって言うと背後からぐわしっされるんだよ。ぐわしっ。
「ごめんね~! あの、書類一枚渡し忘れてたよ~!」
「あらら……」
なんと、三つ編み女子先生にはドジッ子属性まであったらしい。わたしの中の何かが「完璧じゃないですかやだー」とか言ってる。わたしの中の何かははしたないお! わたしも全力で同意するけどね。
半泣きの三つ編み女子先生に、おねえさんは苦笑して、わたしの方を向いた。
「私、ルミアス先生の所に行くから、ここからセラ先輩の所に、ひとりで行ける?」
心配そうなおねえさんに、「合点でい!」と、触手をびっと伸ばす。
ここからなら、すぐに昇降口があるお。そこから中庭に通じてる一階の渡り廊下に行けば良い。カンタン、カンタン!
だからおねえさんはひよこさんのぽんぽんを満たしておいでー。
おねえさんはしゃがむとわたしを地面にそっと下ろした。おにゃのこ的優しさー。
「本当にごめんね~!」
また三階から三つ編み女子先生の声がした。いいよ、いいよ。お仕事大事だもんね、三つ編みじょ……
「いやー……、アレで成人した男の人なんだから、世の中広いよねー」
おにゃのこの爆弾発言に、わたしの頭の中がポンッした。盛大に爆発した。
目があったら、ぽーんと飛び出てたよー!
ぐりゅんっと、精一杯身体を伸ばして視覚センサーの精度を最大限引き上げて、三つ編みじょーー三つ編み男子!? あれで三つ編み男子先生!? どんなにためつすがめつしても三つ編み男子!? おのこ!? おのこなの!? 三つ編み女子にしか見えないのに……のどぼとけあったああああああああああっっっ!!
ずしゃあああっ! と、わたしはあまりの衝撃に地べたに這いつくばった。
「空ちゃん!? やだ、空ちゃん、しっかりして!」
おねえさんがわたしの身体をさすってくれるけど復活出来ないお。
あれ、わたし、おちゅうしゃされてないのに身体がブルブルしてるよ? ブルブル止まらないよ? あ、おねえさん、わたし、だいじょうぶだから、ささ、あの三つ編みじょ……男子の元へ行ってください。
「え、え? だ、大丈夫? 大丈夫なの? ぜんっぜん大丈夫そうに見えないけど、大丈夫なの!?」
ずるずると昇降口に向かうわたしをオロオロして見送るおねえさんに、なけなしの気力を振り絞って触手をぐっと伸ばして、振った。人間が手を振るのと同じ感じで。わたし頑張ったー。
そう言えば、ずうっと昔にセラくんが、「なんとかアス」と名前に付いていたら、それはえらいひとの嫡男の名前だって、言ってたー。えらいひとって、きぞく? きぞくなの? 三つ編み男子先生はきぞくなの?
あわわわわ、なんにしても、人間こわいー!
セラくんは見た目天使で、のどぼとけも目立たないし、その上あまり話さないから、初対面の人間はセラくんをおにゃのこだと思うことがよくあった。
それ見ていつも「ぷぷー! ざんねんでしたー」と笑って見てた罰があたったのかなー。まさかわたしも騙されるなんてー。ごめんねー、あの時のジョイノくんー。笑って本当にごめんねー。しょうがないよねー。セラくん天使だったもんねー。見間違えちゃうよねー。ぷぷー!
ブルブルしながら、学園内の長い廊下を這いずって行くと、わたしは途中で立ち止まる。
わたしには、常々思っていたことがある。
ーー面倒臭い。面倒臭い。面倒臭い。
人間は、面倒臭い。
長い廊下に人影はない。一見すれば。
わたしは再び這いずって、廊下の突き当たりに向かった。そこは曲がったら死角になる。
突き当たりを曲がってしばらく進んだら、ぽんっと身体が蹴りあげられてわたしはころころと二階に上がる階段の方に転がった。階段の下にある倉庫の扉があったけど、そこにぶつかる前に内開きの扉が開かれて、再び蹴られて中に転がり込んだ。
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