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第4話:魔法の素質。

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「ルナ様ーー!ルーナーさーまーー!!……まったく、どこに行かれたのかしら?」

乳母のメーヤが私を探している。

ふふふん。見つからないよーだ。

足音が遠くなったのを見計らってから、私は床に積まれた木箱の陰からそっと頭を覗かせた。薄ピンク色の膝丈のドレスが木箱に引っかからないように注意しながら、そろそろと前に出る。

ルナ・シー王女となった私は、現在3歳。
イタズラの真っ盛りでメーラや他のお世話係りの侍女たちをいつも困らせている。 

女の子は成長が早いというが、私も1歳半頃からすでに意味のある言葉を喋れた。
生後6か月から学び始めた文字のほうは、簡単な内容ならある程度読める。

……まあ、天才児と言うほどではないかな……。
生まれてすぐ魔術書を読む、とかいうのはなかったな……。

ま、まあいいの、ゆっくりやれば!!
3歳児が文字を読めるだけえらい!!
子供には遊びも大事!!

そんな『遊び第一、勉強もほどほどに』という主義を取っている私。
ただ今、絶賛かくれんぼ中である。

メーヤとは逆方向に、とてとてと歩き始める。

ドンッ!!

……思いっきり鼻をぶつけた。

見上げると、明るい黄色のドレスのスカートが目の前に広がっていた。
可愛い鈴の音のような声が降ってくる。

「まあ、ルナ!!こんなところで何してるの?」

「れーらおねいさま。……かくれんぼしてました」

鼻をさすりながら答える。
「レイラお姉さま」ときちんと言っているつもりなのだが、どうもまだろれつが完璧には回らない。

ぶつかった相手は姉である第一王女のレイラだ。今年11歳。
暗いトーンの金髪の髪に、大きな茶色の瞳が可愛い。母親は同じユーミ王妃だ。歳が8つも離れているせいもあり、いつも私を可愛がって気にかけてくれている、面倒見のいい優しい子だ。

「だめじゃない、こんな暗いところで遊んでちゃ。ほら、行きましょう」

「おねいさま、どこにいくんですか?」

「図書室よ。魔法書を探しにね。ルナも行く?」

「はい!」

降って湧いた幸運に、私は興奮した。
実は幼児ライフを満喫し過ぎて、これまで『魔法書』などと言うものに触れる機会が全然なかったのだ。

長い廊下を通って、さらに階段をいくつも昇り降りして図書室に向かう。

ふう、それにしても広いお城だなぁ……。幼児の足にはキツイ。

やっと、ある部屋の前で立ち止まった。
扉を開けると、薄暗い部屋に所狭しと本棚が立ち並んでいた。どの本棚も、ギッチリと分厚い本が詰まっている。

うぁ〜〜すごい。
これ全部魔法関係の本なのかな?

レイラは、スタスタと目的の書棚に向かっていた。

「ええと……。あった、これだわ。『誰でもわかる!初級魔法』。今日、ナギ先生に修行が足りないって怒られてしまったのよ……。基礎から戻って復習しろって。はぁ……、わたくし、魔法の才能がないようだわ……」

レイラがため息をついた。
手に取った本には帯も付いていて、『誰でもわかるシリーズ最新版!四大元素をわかりやすく解説!あなたも風がおこせる!水を操れる!』と書いてある。

……何ともパソコンのマニュアル本のようなフレーズだ。
まあ、実用書には違いない。

んっ!んっ!っと、私も目に付いた本に手を伸ばした。

「なぁに、ルナも魔法のお勉強がしたいの?あなた、もう字も読めるっていうものね。ほら、これなんかどう?『おかあさんといっしょ!3歳から始めるお子さま魔法』ですって」

レイラが本棚から一冊の本を出してくれた。
開いてみると、私と同じくらいの年頃の子供がいろいろなポーズをした絵と、その解説が描かれている。
一つ一つの仕草に意味があるらしい。
いくつかに目を通してみる。

※※※※※
<魔力をためる>
左手の人差し指と中指をおでこに当てる。

魔法を使うときの基本のポーズ。
魔法の才能を伸ばすには、子供の頃からこのポーズを習慣づけましょう!

※※※※※
<トイレ>
両手で股を抑える。

がまんできなくなったら、このしぐさ。
ママはすぐに気が付いてあげましょう。

※※※※※

……多少、ごく普通のジェスチャーも含まれているようだが、どうやらこの本はお母さんが子供と一緒にできる魔法のエクササイズ本みたいだ。

書いてある通りに、<魔力をためる>のポーズをしてみる。

ジャンケンのチョキの形に左手の人差し指と中指をピンと伸ばし、おでこの真ん中に当てる。
しかし、何も起こらない。

レイラがクスクス笑って言う。

「さっそく真似してるのね。ポーズをするだけじゃだめよ、ちゃんと集中して念じなきゃ。心の臓から沸き起こる体内のエネルギーを感じて、指先に集めるの。……なんて、難しすぎるわよね」

ふーん、集中ね。
もう一度、同じポーズを取る。
今度は目を瞑り、身体の中心からエネルギーを絞り出すようなイメージを心に浮かべた。

……と、一瞬にして身体中を不思議なエネルギーが巡り、青白い光が指の先から生まれてくる!!
指が触れているおでこに、光がチリチリと当たっているが、熱くはない。

レイラが興奮して叫ぶ。

「ルナ!あなたすごいわ!魔力をためるといっても、普通こんなふうに光が見えることなんてないのよ。あなた、魔力が有り余ってるんだわ、きっと!」

レイラが手に持っていた本を開いて見せてきた。

「ルナ、これはどう?この火の魔法っていうの!」

いやいや!
それは室内では危ないでしょっ!
本当に発動しちゃったら火事になっちゃうよ!

ふるふると首を振ってみせる。

「そうよね……いくらなんでもまだ3歳なんだものね……」

レイラは肩を落としている。ふと、開きっぱなしになっているページの中で<光球《ラ・ルース》>という項目が目に付いた。そっと読んでみる。

※※※※※
光球ラ・ルース

ダンジョンを攻略したい?
それとも暗いところで本を読みたい?
この魔法さえ唱えれば、明るい光がアナタを照らす!
光の強さと光照時間は調節可能。
暖かみのあるオレンジ色と、物が見やすい白色の2色が選択可能!

※※※※※

これならいけるかな?
なんとなく簡単そうだし。

<魔力をためる>のポーズを取ったまま、本に書いてあるごく短い呪文を詠唱する。

呪文を少し変えるごとに、光の継続時間を変えられるらしい。

1番簡単なのは……明るさ普通……光照時間1時間……で、白色……っと。

ゆっくりと呪文を唱え始める。

3歳でもいまだに時たま赤ちゃん言葉が出てしまうので、呪文が若干「でちゅ」という発音になっている気がする。

しかし、体の中からエネルギーが湧き出ている感じがするのでおそらく成功しているようだ!

「――<光球ラ・ルース>!!」

呪文を詠唱し終えると同時に、おでこにつけた人差し指と中指を離す。そのままの手の形で、前に腕を伸ばすと――。

カッ!!と、指の上に輝く光の球が出現した!
大きさはテニスボールくらいだが、とにかく明るさが半端ない。LEDの1番明るい電球より、もっとずっと明るい。

「ルナ……。あ、あなたって子は……」

3歳児が光の玉を持っている姿を見て、レイラが呆然と立ち尽くしている。
自分でも魔法が案外簡単にできたのにビックリしたが、レイラの驚きは相当のものだった。

「わたくしの作る光の玉は、もっとずっと明るさが劣るわ……。それに何か月も練習して、やっとできたのに……」

ほー、そうなんだ。
ということは、ラッキーなことに、私の魔法の才能はかなりすごいみたい。

得意げな表情を作ろうとしたその時、背後に殺気を感じた。振り向くと、そこに立っていたのは乳母のメーヤだった。

……あ。この人のこと、すっかり忘れてた!
もしかしてまだかくれんぼしてたことになってる???

「ル〜ナ〜さ〜ま〜!こんな所に入り込んで!!かくれんぼしてたんじゃなかったんですか!あちこち探し回りましたよ!」

怒っているからか、メーヤのふくよかな体がさらに膨れて見える。

「ひぇぇ……ごめんなさい」

「メーヤ、待って!私がルナを連れて来てしまったの。ごめんなさい」

レイラが庇ってくれる。

「まあ、レイラ様。そうだったんですか。こちらこそ取り乱して失礼いたしました」

一緒なんだから見てわかるでしょーがっ!
それにしてもレイラには全く態度が違うなぁ、この乳母やさん……。

「さあ、遊びの時間はおしまいですよ、ルナ様。お昼寝の時間ですからね」

「いやーー!ねんねいやー!」

せっかく面白くなってきた所だったのにー!

レイラのドレスのスカートの後ろにさっと隠れる。

と、私の手の上にあった<光球ラ・ルース>が、弾みで転がり落ちてしまった。
拾おうとする私を制し、レイラが落ちた光の玉の前にかがんで、手をかざした。
……と、レイラの手の上に玉がすーっと転がるように移動した。そのまま、玉をポイっと宙に放り投げる。3人の頭の上のある程度の位置まで浮かび上がると、そこで止まる。煌々と輝く玉に、広い室内が明るく照らされた。

「お見事ですね、レイラ様」

メーヤが声をかける。どうやら、レイラの魔法だと思っているようだ。

「違うのよメーヤ。この<光球ラ・ルース>は、ルナが出したの」

「ルナ様が!?まさか……」

「本当よ。この子、すごい魔法の才能があるみたいなの。明日にでもナギ先生にお会いして、ルナにも魔法を習わせた方がいいとお話ししてみるつもりよ」

おー!やったぁ!

唖然としているメーヤを尻目に、ようやく私は得意げな表情を作ることに成功した。

そして、この日を境に、私は魔法のお勉強を始められることになったのである。

※※※※※
《現在のスキル》
いたずら
かくれんぼ
LEDより明るい<光球ラ・ルース
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