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一、サバの缶詰め落下事件
悪魔の所業
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いよいよか、と背すじを伸ばした。推理が当たっていようがいまいが、探偵ごっこはきっとここで終わりを迎えることだろう。自らを探偵だと豪語するメフィストは、事の真相を見せると言った。その翡翠の瞳にはいったいなにが見えているというのか。そして俺は、どうやって魂とやらを見せれば良いのだろう。
ゴクリと息を呑み、
「じゃあ、聞かせてくれ。いったいどんな推理をしたんだ。事の真相とはなんだ」
訊くと、メフィストは手を差し出した。
「その前にね、Kさん。電話を一本かけたいんだよね。きみのスマホを貸してくれないかな」
だれに電話するのだろう。俺にはわからないが推理に必要なのかと思い、手渡した。受け取ったスマホに電話番号を入力しながら、メフィストは笑う。
「Kさんは優しいね」
そうつぶやき、眉根を寄せて困ったように笑うその姿は、あのときに見た姉の姿と重なる。いったいなんだというのだろう。
ほどなくして電話はつながったらしく、メフィストは浅く息をつく。とくにふざけた様子もみせずに、真面目な鋭い声で俺の思いもよらぬことを話しはじめた。
「もしもし、一度しか言わないからよく聞くんだ。○○町の△△にある大型スーパー『トーエー』に時限爆弾を仕掛けた。タイムリミットは一時間だ。さあ、きみたちに爆弾を止めることができるかな。ああ、要求は特にない。交渉もしない。それでは、きみたちの健闘を祈っているよ」
通話を切り、ポンとスマホが返される。呆然としていたので思わず落としそうになったが、無事キャッチすることができた。しかし突然のことに開いた口が塞がらない。
いま、少年はなんと言っていた。爆弾だと? 塞がらないままの口で問う。
「メフィスト、いまのはどこに電話をかけたんだ?」
カクリと首をかしげ、さも不思議そうな顔でほっぺたに手を添える。
「うん? おかしなことを聞いてくるじゃないか、Kさん。ボクは爆弾を止める技術を持ってる機関をさ。警察のほかには知らないんだけど、きみは知っているのかい?」
「俺だってほかには知らないぞ。つまり、なんだ。いまの電話は」
「うん、警察に電話したんだよ。そろそろ慌て出した頃かもしれないね」
のん気に言ってのける声を聞き、俺の声はつい荒くなる。
「メフィスト! イタズラにも限度が──」
その時、店内にアナウンスが流れた。
「皆様。ご来店、誠にありがとうございます。先ほど警察から店内に不審物が持ち込まれた可能性がある、との連絡を受けました。安全確認のため、店内の点検を致しますので、係の指示に従い、店外へとご移動願います。くり返します──」
大変だ、話がおおごとになってしまった。どうするべきだ、これは謝って済むことなのかと逡巡する。
「ほら、Kさん。なにやってるんだい。ぼくらも外に避難するよ」
ぐいぐいと袖を引っ張られる。まだ反省していないのかと憤りを感じながら、メフィストの顔を捉えた。その翡翠の瞳はやましいことなど一切ないといった風に、ただ真っすぐと俺の目を射抜く。
「ほら、避難するよ」
との声に俺は抗えなかった。
店の外に出てしばらく経つと、こんなにいたのかと驚くほど、次々にひとが飛び出てくる。店内のひとに加えて、野次馬もあつまりはじめたので人だかりとなっていた。
日本の警察は優秀だ。ものの数分で最初のパトカーが到着し、あれよあれよという間に次から次へとあつまってくる。警察官が増える度に、現場の空気がピンと張りつめたものに変わっていくような気がする。
警察は無線で連絡を取り合いながら複数人の隊列を組んで店内の調査へと繰り出していったが、爆弾などはあろうはずもない。すべては俺の隣で得意気に腕を組み、ことの成り行きを物見遊山している少年の口から出たでまかせなのだから。
俺はひたいに手をやり、
「はあ」
と深い、深いため息をついた。
「それで、どういうつもりなんだ?」
ゴクリと息を呑み、
「じゃあ、聞かせてくれ。いったいどんな推理をしたんだ。事の真相とはなんだ」
訊くと、メフィストは手を差し出した。
「その前にね、Kさん。電話を一本かけたいんだよね。きみのスマホを貸してくれないかな」
だれに電話するのだろう。俺にはわからないが推理に必要なのかと思い、手渡した。受け取ったスマホに電話番号を入力しながら、メフィストは笑う。
「Kさんは優しいね」
そうつぶやき、眉根を寄せて困ったように笑うその姿は、あのときに見た姉の姿と重なる。いったいなんだというのだろう。
ほどなくして電話はつながったらしく、メフィストは浅く息をつく。とくにふざけた様子もみせずに、真面目な鋭い声で俺の思いもよらぬことを話しはじめた。
「もしもし、一度しか言わないからよく聞くんだ。○○町の△△にある大型スーパー『トーエー』に時限爆弾を仕掛けた。タイムリミットは一時間だ。さあ、きみたちに爆弾を止めることができるかな。ああ、要求は特にない。交渉もしない。それでは、きみたちの健闘を祈っているよ」
通話を切り、ポンとスマホが返される。呆然としていたので思わず落としそうになったが、無事キャッチすることができた。しかし突然のことに開いた口が塞がらない。
いま、少年はなんと言っていた。爆弾だと? 塞がらないままの口で問う。
「メフィスト、いまのはどこに電話をかけたんだ?」
カクリと首をかしげ、さも不思議そうな顔でほっぺたに手を添える。
「うん? おかしなことを聞いてくるじゃないか、Kさん。ボクは爆弾を止める技術を持ってる機関をさ。警察のほかには知らないんだけど、きみは知っているのかい?」
「俺だってほかには知らないぞ。つまり、なんだ。いまの電話は」
「うん、警察に電話したんだよ。そろそろ慌て出した頃かもしれないね」
のん気に言ってのける声を聞き、俺の声はつい荒くなる。
「メフィスト! イタズラにも限度が──」
その時、店内にアナウンスが流れた。
「皆様。ご来店、誠にありがとうございます。先ほど警察から店内に不審物が持ち込まれた可能性がある、との連絡を受けました。安全確認のため、店内の点検を致しますので、係の指示に従い、店外へとご移動願います。くり返します──」
大変だ、話がおおごとになってしまった。どうするべきだ、これは謝って済むことなのかと逡巡する。
「ほら、Kさん。なにやってるんだい。ぼくらも外に避難するよ」
ぐいぐいと袖を引っ張られる。まだ反省していないのかと憤りを感じながら、メフィストの顔を捉えた。その翡翠の瞳はやましいことなど一切ないといった風に、ただ真っすぐと俺の目を射抜く。
「ほら、避難するよ」
との声に俺は抗えなかった。
店の外に出てしばらく経つと、こんなにいたのかと驚くほど、次々にひとが飛び出てくる。店内のひとに加えて、野次馬もあつまりはじめたので人だかりとなっていた。
日本の警察は優秀だ。ものの数分で最初のパトカーが到着し、あれよあれよという間に次から次へとあつまってくる。警察官が増える度に、現場の空気がピンと張りつめたものに変わっていくような気がする。
警察は無線で連絡を取り合いながら複数人の隊列を組んで店内の調査へと繰り出していったが、爆弾などはあろうはずもない。すべては俺の隣で得意気に腕を組み、ことの成り行きを物見遊山している少年の口から出たでまかせなのだから。
俺はひたいに手をやり、
「はあ」
と深い、深いため息をついた。
「それで、どういうつもりなんだ?」
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