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開店準備です
一
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ここはとある住宅街。繁華街からは、道を一本外れています。そのせいか人通りも少なく、ゆったりと落ち着いた空気が流れています。
少し耳を澄ませば、遠くの方で誰かの笑い声が聞こえる、そんな場所。私はこの雰囲気が好きです。
そんな中に、ひっそりと佇んでいる。少しこじんまりとした居酒屋『酔っといで』。私はこのお店で働いています。
こんばんは、咲良です。私は小説家のたまごであり、酔っといでの給仕であり、助手もやっています。
調理助手?いえいえ。そうではありません。説明しにくいですね。んー。もう少し後で、お話しますね。
お店は店舗兼住宅って、言うのでしょうか。大将のお家の一階が店舗になっていて、中にはカウンター席とテーブル席が2つ。
あまり広くはないですが、お客さんとの距離も近く、いつも和気あいあいと営業しています。
メニューの品数は、元々そんなになかったはずなんです。が、困ったことに大将は断れない人だったのです。常連さん達の要望に応える度に、メニューがどんどん増えていきます。
中でも一風変わった裏メニューが、一つありまして。その名も、解明料理。変わってますよね。何料理かまるで分かりません。
それもそのはず、この料理。何が出てくるのか、決まっていないのです。名前も、私が勝手につけちゃいました。
飲みニケーションなんて言葉があります。お酒の力を借りてとか、お酒は人間関係の潤滑油だ、とも言われます。
良い悪いは置いといて、お酒が入ると口が軽くなっちゃいますよね。
私もです。普段は吐かない愚痴をこぼしたり、悩み事を打ち明けたり。
その中に小さな疑問。不思議な事が、転がっていたりしませんか?あれって何だったんだろう、とか。あの人どういう気持ちだったんだろう、などなど。
あはは、そうなんです。近いから、お話聞こえちゃうんですよね。大将のが地獄耳ですよ。調理しながら聞いてるんだから。
そういう時に注文して欲しいのが、この解明料理。うちの大将って実は、厳つい顔して名探偵なんですよ。おっと、厳ついは余計でしたね。ナイショですよ。
あと、探偵でもないか。
間違っても探偵にはなれないんです、大将は。探偵には助手が付き物と言いますけど、普通の探偵は、助手がいなくても事件解決できますよね。
大将はダメなんです。絶望的に口ベタなんです。それはもう悲しいくらいに……。謎は解明できても、うまく相手に伝えられない。もう話す事を、あきらめているくらいです。頑張って!大将!
探偵になる為には、誰をも納得させる話術が必要だったんですね。探偵の条件は、お喋りである事。知ってました?
そこで、助手である私と、解明料理の出番です。大将が謎を解き、ヒントとなる料理を作り、助手である私が読み取る。
遠回しですよねー。
でも私、結構楽しんでいます。物語を想像するのは、作家活動の足しにもなる気がするんです。
それにね。良いんですよ、遠回しでも。だってここは、酒の席なんですから。
みんなも酒の肴に。あーでもない、こーでもない。悩むのも楽しいものです。皆さん楽しい時間を過ごしに来ているのだから。
おっと、もうこんな時間。
大将、準備はいいですか?暖簾出してきちゃいますね。
──あら。いらっしゃい。
どうぞお好きな席へ。
少し耳を澄ませば、遠くの方で誰かの笑い声が聞こえる、そんな場所。私はこの雰囲気が好きです。
そんな中に、ひっそりと佇んでいる。少しこじんまりとした居酒屋『酔っといで』。私はこのお店で働いています。
こんばんは、咲良です。私は小説家のたまごであり、酔っといでの給仕であり、助手もやっています。
調理助手?いえいえ。そうではありません。説明しにくいですね。んー。もう少し後で、お話しますね。
お店は店舗兼住宅って、言うのでしょうか。大将のお家の一階が店舗になっていて、中にはカウンター席とテーブル席が2つ。
あまり広くはないですが、お客さんとの距離も近く、いつも和気あいあいと営業しています。
メニューの品数は、元々そんなになかったはずなんです。が、困ったことに大将は断れない人だったのです。常連さん達の要望に応える度に、メニューがどんどん増えていきます。
中でも一風変わった裏メニューが、一つありまして。その名も、解明料理。変わってますよね。何料理かまるで分かりません。
それもそのはず、この料理。何が出てくるのか、決まっていないのです。名前も、私が勝手につけちゃいました。
飲みニケーションなんて言葉があります。お酒の力を借りてとか、お酒は人間関係の潤滑油だ、とも言われます。
良い悪いは置いといて、お酒が入ると口が軽くなっちゃいますよね。
私もです。普段は吐かない愚痴をこぼしたり、悩み事を打ち明けたり。
その中に小さな疑問。不思議な事が、転がっていたりしませんか?あれって何だったんだろう、とか。あの人どういう気持ちだったんだろう、などなど。
あはは、そうなんです。近いから、お話聞こえちゃうんですよね。大将のが地獄耳ですよ。調理しながら聞いてるんだから。
そういう時に注文して欲しいのが、この解明料理。うちの大将って実は、厳つい顔して名探偵なんですよ。おっと、厳ついは余計でしたね。ナイショですよ。
あと、探偵でもないか。
間違っても探偵にはなれないんです、大将は。探偵には助手が付き物と言いますけど、普通の探偵は、助手がいなくても事件解決できますよね。
大将はダメなんです。絶望的に口ベタなんです。それはもう悲しいくらいに……。謎は解明できても、うまく相手に伝えられない。もう話す事を、あきらめているくらいです。頑張って!大将!
探偵になる為には、誰をも納得させる話術が必要だったんですね。探偵の条件は、お喋りである事。知ってました?
そこで、助手である私と、解明料理の出番です。大将が謎を解き、ヒントとなる料理を作り、助手である私が読み取る。
遠回しですよねー。
でも私、結構楽しんでいます。物語を想像するのは、作家活動の足しにもなる気がするんです。
それにね。良いんですよ、遠回しでも。だってここは、酒の席なんですから。
みんなも酒の肴に。あーでもない、こーでもない。悩むのも楽しいものです。皆さん楽しい時間を過ごしに来ているのだから。
おっと、もうこんな時間。
大将、準備はいいですか?暖簾出してきちゃいますね。
──あら。いらっしゃい。
どうぞお好きな席へ。
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