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第17話 底辺にあらず、モテ男なり
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その日、お台場にある緑色の看板のファミレスに、戦士たちは集った。
俺氏こと俺、しみけんこと清水、やまんばこと山下。
もとは同類ながら、パンチの効いた筋金入りのヲタクどもだ。俺がひそかにビッグ4と呼ぶ華やかな一軍女子たちと遊びに行くということで、こいつらはビビらなかったのだろうか。
ビビったに決まっている。
ビビりつつも、楽しみにしてきたに違いない。
俺のようにな。
いやいや、俺の場合はビビりとは違うな。
もう、肝試しで腰を抜かした頃の俺じゃない。男子三日会わねば刮目して見よという。この1ヶ月ほど、愛凛の督励のもと、自分磨きにいそしんだ。自信もついたし、ゲームで例えれば俺の能力パラメータも格段に上がっているはずだ。
ビビる必要などない。
女子はいつものメンバーで、全員が揃う前からすっかり盛り上がって、実にかしましくも、微笑ましい。それぞれにタイプの違う4人だが、本当に仲良しだ。
夏休み合宿で男子チームがシンクロの真似事を始めた、と水泳部の遠藤さんがその写真を回覧すると、4人はレストラン中に響くほどの声で笑った。
この最強カルテットが話しているのを近くで見ているだけで、俺は幸せだ。
ムードメーカーの遠藤さんがネタを提供し、愛凛が辛口にツッコんで、木内さんが優しさスタンスで会話の味つけを中庸に戻し、天然の最上さんがしばしば最後に流れをぶち壊して、1セットが終わる。
まるでバレーボールの絶妙な連係を見ているかのようだ。
なにより、木内さんが少なくとも表面的には肝試しの件を気にしていないように見えたのがうれしかった。
「みーちゃ、夏休みでイメチェンした? 髪型とか服のイメージとか、いつもと違うし、日焼けもして、あと体も少し大きくなったみたい」
そう言って、俺の変化に真っ先に気づいてくれたのも、木内さんだった。愛凛はさも関わりがないように、黙っている。
「うん、ジョギングとか筋トレとか少し。イメージもちょっと変えたかな」
「メガネもやめたの?」
「そう、コンタクトにした」
「肌もキレイだし、清潔感あるよね」
木内さんだけでなく、最上さんと遠藤さんも、次々に俺の外見の変化を指摘し、しかもどれも好意的な評価をしてくれているようだった。
外見を変えると、こうも人の目って変わるんだなぁ。
俺は少々、気持ちがウキウキとして、どうしても確認したくなった。
「もしかして、前よりよくなった……?」
「うんうん、イケてる男子って感じだよ」
「なんか、別人みたいだよね」
「大人っぽくなって、素敵だと思う」
一軍女子に限らず、俺はこうも口々に人から褒められた経験はない。
すごい。
俺は、それまでの人生で見えていた世界がまるで逆転したほどの衝撃と感激を覚えた。
生まれ変わったんだ。
もう、底辺とは呼ばせねぇ!
愛凛はなおも黙ったまま、それと分かる程度に微笑んでいる。俺の自分磨きは、愛凛の全面プロデュースというわけではない。基本は俺が考え、そこに愛凛が具体的なイメージを提供してくれたり、方向性を付加してくれたりしたものだ。
ただ、愛凛は俺のため、自分の手柄にするようなことは言わず、すべてが俺の自発的な変化であるように演出してくれている。
俺、分かったよ。こうやって女子から認められたら、自信がついて、さらに自分を磨きたいと思うようになる。女子にも、それがたとえクラスのアイドルであっても、臆することなく話ができそうだ。
なぜなら、俺はもう、底辺の三軍男子などではないから。
お前のおかげだよ。
しばらく待っていると、最後のメンバーとしてオカヤンが合流した。スポッ〇ャの件をオカヤンに話したとき、彼がボイスチャットの向こうで踊り上がり手足を舞わせているような、そういう光景がありありと思い浮かぶほどに歓喜していた。今回のこのイベントにかける思いは、半端じゃないだろう。
オカヤンは、席にやってきて早々、愛凛に少しでもインパクトを与えたいがためか、いきなり爆弾を放り込んだ。
「あ、どうも、3組の岡谷です。高杉君に仲間に入れてもらいました。オカヤンで呼んでください。今日は高岡さんと仲良くなりたいと思って来ました。よろしくお願いします」
お前さぁ。
そう、俺は心の中で頭を抱えながらつぶやいた。オカヤン、それこそ恋愛リアリティショーにでもまぎれ込んだ気になっとりゃせんか?
ヲタクという自分の性質を分かった上で、身の丈に合った行動をしないとな。
愛凛は、オカヤンの思惑が彼の自己紹介で充分によく分かったようで、
「えっ、このメンツで私狙いなの? 目のつけどころがいいね」
「そりゃもう。ラブリーさんのお噂は高杉君から色々聞いてるので」
「ほかのクラスまで噂が回っちゃったかぁ。みーちゃ、私のこと好きすぎるからね」
「いやいや、そんな誤解を生むようなことは……」
「あ、みーちゃごめんごめん。みーちゃはほかに狙ってる人がいるもんねぇ。誰か知らんけど」
愛凛のあまりにもきわどい発言に、全身の汗腺が過剰反応を示す。
まったく、こいつは俺を応援してくれているのか、邪魔したいのか、分からなくなってくる。
木内さんの反応が気になるが、俺はビビって確認することができなかった。
食事のあと、一行はスポッ〇ャのあるダイバー〇ティ東京へと向かう。
最初はボウリングからだ。4人ずつ2レーンに分かれてプレイする。俺とオカヤン、愛凛、それから木内さんだ。
「じゃあ私とオカヤンの合計点数と、あすあすとみーちゃの合計点数を比べて、高得点のチームの勝ちね」
俺と木内さんは、愛凛の提案に顔を見合わせ、同じタイミングで同じ種類の微笑を交わした。
気のせいだろうか、一瞬、木内さんと心が通じ合ったようにも思える。
俺はこの日に備えて、初心者向けのボウリング動画を見たり、イメージトレーニングを積んできた。
それが奏功したのか、俺は順調にスコアを重ねて、勝負は最終フレームまでもつれた。
この回、それまで好調だった愛凛はミスを連発し、そのあとに俺がストライクを出して、逆転に成功した。愛凛は大げさに残念がり、悔しがったが、俺には分かる。
(あいつ、わざと外したな)
俺に花を持たせた、ということだろう。
木内さんとハイタッチをして、この劇的な勝利を喜んだ。
2ゲームほど楽しんだあとは、スポッ〇ャだ。
「じゃあオカヤン、好きなとこ連れてってくれていいよ。しばらく、みんなで適当に自由行動しようねー」
愛凛はそう宣言して、オカヤンとどこかへ消えた。
相変わらず、勝手なやつだ。
ただ、これも俺に対するアシストでもある。
俺は少し緊張しつつも、かたわらの木内さんを誘った。
「木内さん、よかったら上で一緒にバドミントンやらない?」
「うん、いいよ。行こー!」
木内さんはにこにこ、と優しい笑顔を向けながら、応じてくれた。
なるほど、蓼科で愛凛が言っていた通り、積極的にいってみるものだ。
チャンスは、自分でつくるんだ。
俺は木内さんと並んで階段を上りながら、愛凛にささやかれた言葉を思い出した。
「あすあすとイイ感じになったら、そのまま二人で抜け出していいから」
(木内さんと抜け出して、二人でお台場デート……)
想像するだけで夢心地だ。
そういう世界線も、俺の人生にはあるのか。
ありなのか?
うーん、ありよりのありだ……!
俺氏こと俺、しみけんこと清水、やまんばこと山下。
もとは同類ながら、パンチの効いた筋金入りのヲタクどもだ。俺がひそかにビッグ4と呼ぶ華やかな一軍女子たちと遊びに行くということで、こいつらはビビらなかったのだろうか。
ビビったに決まっている。
ビビりつつも、楽しみにしてきたに違いない。
俺のようにな。
いやいや、俺の場合はビビりとは違うな。
もう、肝試しで腰を抜かした頃の俺じゃない。男子三日会わねば刮目して見よという。この1ヶ月ほど、愛凛の督励のもと、自分磨きにいそしんだ。自信もついたし、ゲームで例えれば俺の能力パラメータも格段に上がっているはずだ。
ビビる必要などない。
女子はいつものメンバーで、全員が揃う前からすっかり盛り上がって、実にかしましくも、微笑ましい。それぞれにタイプの違う4人だが、本当に仲良しだ。
夏休み合宿で男子チームがシンクロの真似事を始めた、と水泳部の遠藤さんがその写真を回覧すると、4人はレストラン中に響くほどの声で笑った。
この最強カルテットが話しているのを近くで見ているだけで、俺は幸せだ。
ムードメーカーの遠藤さんがネタを提供し、愛凛が辛口にツッコんで、木内さんが優しさスタンスで会話の味つけを中庸に戻し、天然の最上さんがしばしば最後に流れをぶち壊して、1セットが終わる。
まるでバレーボールの絶妙な連係を見ているかのようだ。
なにより、木内さんが少なくとも表面的には肝試しの件を気にしていないように見えたのがうれしかった。
「みーちゃ、夏休みでイメチェンした? 髪型とか服のイメージとか、いつもと違うし、日焼けもして、あと体も少し大きくなったみたい」
そう言って、俺の変化に真っ先に気づいてくれたのも、木内さんだった。愛凛はさも関わりがないように、黙っている。
「うん、ジョギングとか筋トレとか少し。イメージもちょっと変えたかな」
「メガネもやめたの?」
「そう、コンタクトにした」
「肌もキレイだし、清潔感あるよね」
木内さんだけでなく、最上さんと遠藤さんも、次々に俺の外見の変化を指摘し、しかもどれも好意的な評価をしてくれているようだった。
外見を変えると、こうも人の目って変わるんだなぁ。
俺は少々、気持ちがウキウキとして、どうしても確認したくなった。
「もしかして、前よりよくなった……?」
「うんうん、イケてる男子って感じだよ」
「なんか、別人みたいだよね」
「大人っぽくなって、素敵だと思う」
一軍女子に限らず、俺はこうも口々に人から褒められた経験はない。
すごい。
俺は、それまでの人生で見えていた世界がまるで逆転したほどの衝撃と感激を覚えた。
生まれ変わったんだ。
もう、底辺とは呼ばせねぇ!
愛凛はなおも黙ったまま、それと分かる程度に微笑んでいる。俺の自分磨きは、愛凛の全面プロデュースというわけではない。基本は俺が考え、そこに愛凛が具体的なイメージを提供してくれたり、方向性を付加してくれたりしたものだ。
ただ、愛凛は俺のため、自分の手柄にするようなことは言わず、すべてが俺の自発的な変化であるように演出してくれている。
俺、分かったよ。こうやって女子から認められたら、自信がついて、さらに自分を磨きたいと思うようになる。女子にも、それがたとえクラスのアイドルであっても、臆することなく話ができそうだ。
なぜなら、俺はもう、底辺の三軍男子などではないから。
お前のおかげだよ。
しばらく待っていると、最後のメンバーとしてオカヤンが合流した。スポッ〇ャの件をオカヤンに話したとき、彼がボイスチャットの向こうで踊り上がり手足を舞わせているような、そういう光景がありありと思い浮かぶほどに歓喜していた。今回のこのイベントにかける思いは、半端じゃないだろう。
オカヤンは、席にやってきて早々、愛凛に少しでもインパクトを与えたいがためか、いきなり爆弾を放り込んだ。
「あ、どうも、3組の岡谷です。高杉君に仲間に入れてもらいました。オカヤンで呼んでください。今日は高岡さんと仲良くなりたいと思って来ました。よろしくお願いします」
お前さぁ。
そう、俺は心の中で頭を抱えながらつぶやいた。オカヤン、それこそ恋愛リアリティショーにでもまぎれ込んだ気になっとりゃせんか?
ヲタクという自分の性質を分かった上で、身の丈に合った行動をしないとな。
愛凛は、オカヤンの思惑が彼の自己紹介で充分によく分かったようで、
「えっ、このメンツで私狙いなの? 目のつけどころがいいね」
「そりゃもう。ラブリーさんのお噂は高杉君から色々聞いてるので」
「ほかのクラスまで噂が回っちゃったかぁ。みーちゃ、私のこと好きすぎるからね」
「いやいや、そんな誤解を生むようなことは……」
「あ、みーちゃごめんごめん。みーちゃはほかに狙ってる人がいるもんねぇ。誰か知らんけど」
愛凛のあまりにもきわどい発言に、全身の汗腺が過剰反応を示す。
まったく、こいつは俺を応援してくれているのか、邪魔したいのか、分からなくなってくる。
木内さんの反応が気になるが、俺はビビって確認することができなかった。
食事のあと、一行はスポッ〇ャのあるダイバー〇ティ東京へと向かう。
最初はボウリングからだ。4人ずつ2レーンに分かれてプレイする。俺とオカヤン、愛凛、それから木内さんだ。
「じゃあ私とオカヤンの合計点数と、あすあすとみーちゃの合計点数を比べて、高得点のチームの勝ちね」
俺と木内さんは、愛凛の提案に顔を見合わせ、同じタイミングで同じ種類の微笑を交わした。
気のせいだろうか、一瞬、木内さんと心が通じ合ったようにも思える。
俺はこの日に備えて、初心者向けのボウリング動画を見たり、イメージトレーニングを積んできた。
それが奏功したのか、俺は順調にスコアを重ねて、勝負は最終フレームまでもつれた。
この回、それまで好調だった愛凛はミスを連発し、そのあとに俺がストライクを出して、逆転に成功した。愛凛は大げさに残念がり、悔しがったが、俺には分かる。
(あいつ、わざと外したな)
俺に花を持たせた、ということだろう。
木内さんとハイタッチをして、この劇的な勝利を喜んだ。
2ゲームほど楽しんだあとは、スポッ〇ャだ。
「じゃあオカヤン、好きなとこ連れてってくれていいよ。しばらく、みんなで適当に自由行動しようねー」
愛凛はそう宣言して、オカヤンとどこかへ消えた。
相変わらず、勝手なやつだ。
ただ、これも俺に対するアシストでもある。
俺は少し緊張しつつも、かたわらの木内さんを誘った。
「木内さん、よかったら上で一緒にバドミントンやらない?」
「うん、いいよ。行こー!」
木内さんはにこにこ、と優しい笑顔を向けながら、応じてくれた。
なるほど、蓼科で愛凛が言っていた通り、積極的にいってみるものだ。
チャンスは、自分でつくるんだ。
俺は木内さんと並んで階段を上りながら、愛凛にささやかれた言葉を思い出した。
「あすあすとイイ感じになったら、そのまま二人で抜け出していいから」
(木内さんと抜け出して、二人でお台場デート……)
想像するだけで夢心地だ。
そういう世界線も、俺の人生にはあるのか。
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