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プロローグ

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 ロンバルディア教国第65代女王マリエッタは、この年34歳になる。 
 即位から3年を経過するが、特に際立った治績などはなく、実務能力に優れた大臣たちの差配によって、国内の平穏と発展が維持されている。民衆からの人気、支持といった点においても、歴代女王と比べれば中庸といったところであろう。失政はないが、大衆に格別の恩恵や仁愛を施した実績もない。それ以上に、人から慕われたり、あるいは人から嫌われるだけの個性がなかった。 
 容貌は、シナモン色の髪にセピア色の瞳。ごくごく平均的な容姿で、不美人というほどではないものの、目立つほどの外見的魅力はない。やや太り気味の体格と、肉付きの豊かな頬、いわゆるおちょぼ口は、いかにもこの国の宮廷貴族という姿である。 
 感性、資性といった点も、特筆すべきところがない。平均を上回ることも、下回ることもない。観劇とカード賭博が趣味だが、さほど造詣ぞうけいが深いというわけでもなく、のめり込むほどでもない。 
 かくのごとく、何もかもが中庸で、無難に国を保ち、平凡な王としての生涯を終えて、歴史年表上の取るに足らぬ時代を築くだけの人物であるが、一点、ある分野においてのみ奇跡のような功を遂げたことは、後世によく知られている。確かに、それは奇跡としか言いようもない。 
 その奇跡の様子を描いてゆくのが、この物語の趣旨ということになろう。 
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