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第15章 疾風迅雷
第15章-③ 決死の虎将
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レガリア帝国のロンバルディア教国領近く、トリーゼンベルク地方のいくつかの町や村に、帝国軍の大部隊が分屯している。
紛争に巻き込まれる恐れがあるために、国境近くの地域というのは往々にして大都市は形成されにくい。ミネルヴァ大陸で国境線近くの大都市といえば、王国領近くの同盟の都市クリシュナと、帝国領近くの合衆国の都市オリスカニーくらいのものであろう。あとは国境線がそもそも緩衝地帯としての役割を果たしていることと、そうした地域が各国においては辺境として扱われるために、大都市はおろか中規模の都市すら育たない。
帝国軍が駐留するトリーゼンベルク地方もその例外ではなく、数百人から千人単位の小さな集落が点在しているに過ぎない。幾筋かの川は流れており、地形は平坦だが、取り立てて肥沃な土地柄でもないために、帝国の国土開発も優先順位としては下位にある。栄える要素がない。
ディーキルヒでの駆逐戦後、帝国軍の前線司令官であるシュトラウス上級大将は軍を二分し、一方をゴルトシュミット将軍に預けて東の同盟領攻略へと向かわせ、レーウ大将には事実上の更迭とも言える処置としてベルヴェデーレ要塞の守備を命じ、自らは第一軍、第四軍、第五軍を率いて教国カスティーリャ要塞の攻略を目指した。
その彼がこのような辺境地帯で軍を分散させ、無為に時を過ごしていたのは、ひとつには大部隊を継続的に動かせるだけの兵站が整備できていなかったためである。帝国軍は近年、急速に軍備を充実させてきたが、軍に供給するための糧食や物資の集積はまだ不完全で、軍の補給部門も人手が足りない。そのため本国では開戦以来、軍の補給活動を手伝うための人夫を積極的に雇い入れているが、実際の軍事行動には追いつけていないのが実情である。このあたりは、軍事の素人で補給の重要性を理解しないヘルムス総統が軍権を握っていることの弊害と見てよい。
いまひとつは、堅固な要塞を攻略するために必要な兵器の到着を待っていたのである。野戦と異なり、対防衛施設戦には特別な準備が必要になる。火矢に使う油や、城壁を登るための梯子、城壁を崩しあるいは伝染病患者を投げ込むためのカタパルト。そうした資源が充分でない。
そのため、帝都からの支援を得られるまで、要塞を目前にしながらも足踏みをしていたのである。
教国軍は女王と遠征軍が帰還して以後は国境線上のカスティーリャ要塞を固く守って容易には打って出てこないと予想していたが、意外にも教国軍動くの報を受けて、シュトラウス上級大将は即座に分散させていた各軍に集合を命じた。
しかし、教国軍の移動速度は彼の予測を上回る素早さであった。
カスティーリャ要塞からシュトラウスの本営及び第一軍の中核部隊が駐留するミューレホルツの町までは、44kmもの距離がある。しかし、教国軍が要塞を出た翌々日の早暁には、その軍は両翼を広げ、ミューレホルツを半包囲の態勢に置いていた。
シュトラウスは元来、寝覚めが爽やかな方ではない。そこへきて、敵の大部隊が至近まで迫っているという報を受けて跳ね起きたわけで、彼にとっては最悪の朝と言うべきであったろう。
無論、多くの帝国兵にとっても深刻な朝となった。
「移動から展開、布陣に至るまで、まさに疾風迅雷の用兵だ……」
シュトラウスからの集結命令を聞き、わずかな手勢とともに第一軍の右翼についていた第四軍のリヒテンシュタイン中将は、らしくもなく感嘆のため息を漏らした。
(シュトラウス閣下は優れた指揮官ではあるが、兵力にまさるロンバルディア女王の敵ではなかろうな)
まるで他人事のように、そう思った。
リヒテンシュタインは勇者だ。戦場で臆病や怯懦を見せたことなど一度もない。その彼をして、内心、単なる評価以上の恐怖に近い感情を、敵将に対して持っている。ロンバルディア教国の女王は神秘的なほどの名将であるという、それは認識以上の感情である。この感情それ自体が、リヒテンシュタイン中将のみならず、特にキティホークの会戦に参加した多くの帝国軍将兵が患っている病であり、心理戦における敗北であると言えるだろう。敵将の名を恐れたら、その時点で不利は拭えない。
布陣と各軍の兵力を俯瞰して整理すると、このようになる。
ミューレホルツは人口1,200人ほどの町で、ここにもともとシュトラウス上級大将の本営と第一軍の中核軍計8,000名ほどが駐屯している。町自体が小さいから、高級将校のみが民家を接収して寝泊まりし、残りは街の周囲に野営している。
この部隊に加え、急を聞きつけ集まってきた第一軍の別働部隊が左翼について4,000、第四軍リヒテンシュタイン中将の本営が右翼で2,000あまり。
当面の戦場であるミューレホルツ及びミューレホルツ南東から南西にかけての農場に展開した帝国軍の兵力は、なんと14,000名程度ということになる。教国軍33,000の、半数以下でしかない。
司令官シュトラウス上級大将は毎朝起き抜けの日課である大便を我慢して、自ら本部であるアンデルセン教会の鐘楼に上り、教国軍の布陣を観察した。
教国軍の主力はデュラン将軍率いる第一師団で、これがヌーナ街道をまっすぐ南からミューレホルツへと迫っている。数は1,5000ほど。
この第一師団を中央に、半円を描くようにして、左翼がグティエレス将軍率いる第四師団およそ1,0000、右翼がコクトー将軍の突撃旅団で約7,000。
教国軍の夜間行軍の巧みさについては、既に何度か実証されている。直近ではキティホークの会戦に先立って、ドン・ジョヴァンニ将軍の遊撃旅団が帝国軍の哨戒の目をくぐって大きく戦場を迂回し、帝国陣営の後背に出て本軍と挟撃体制を構築し、これが直接の敗因となり大打撃を被って敗退した経験がある。また3年前の教国の内戦においても、叛乱軍を初戦で撃破したボルドー街道の戦いは、夜明けとともに三方向より押し寄せてほぼ無傷で完勝したという。
(しかし、それにしても速すぎる)
度肝を抜かれたシュトラウスであったが、さすがに声には出さない。彼はキティホークの会戦で大敗を喫したレーウよりは、まだしも前線の機微というものを心得ていた。最高指揮官は敗北の予感を口にしてはならないのである。指揮官が負けると言えば、戦いは必ず負ける。その逆の場合と違って、この鉄則に例外はない。
とは言え、この状況で勝ち目があると思うほど無邪気な楽天家でもない。問題は負けるにしても、いかに味方の損害少なく、整然と後退できるかであった。負け方次第では、次の勝利への布石にもなりえる。
(とにかく素早く、脇目も振らず逃げることだ。走りに走って、エイクスュルニルの迷い付近ないしはベルヴェデーレ要塞で再集結し、かの地で踏みとどまるほかない)
だが、ただ逃げるだけでは後背から追いすがられて、甚大な被害を出す。味方を安全に逃がすため、犠牲の祭壇に捧げる生贄が必要であろう。つまり、殿軍である。絶望的な戦いになるが、3万以上の教国軍に対し、寡兵をもって防ぎ止め、味方が撤退する時間を創出する。そのような悲壮な役目を持った軍と指揮官を、彼は欲している。
(番犬ブルーノではだめだ)
第一軍のメッテルニヒ中将は壮烈な闘志にも、敵を翻弄する器用さもない。それに彼は部下や兵士からの信頼が薄いから、圧倒的大軍に囲まれればその軍はたちまち瓦解するであろう。
(となると、リヒテンシュタインに命じるしかないか……)
なおも迷いを抱いていると、絶妙のタイミングと言うべきか、リヒテンシュタイン中将からの早馬が飛んできて、自分が殿軍を務めるから本軍を後退させるようにと言って寄越した。
わずか2,000の手勢で、あの雲霞のごとき大軍を食い止めるというのか。
あまりにも無謀かつ雄壮な申し出に、シュトラウスは息を呑み、ただし内心では得たりとばかりに即答した。
「よかろう。さすがは我が軍第一の猛将だ。ではリヒテンシュタイン中将に、この場を委ねよう。直営部隊と第一軍は北上し、ベルヴェデーレ要塞で再集結を図る。直ちに動け!」
ミューレホルツ付近の帝国軍は、リヒテンシュタイン中将の率いる2,000の兵を残し、文字通り脱兎のごとく撤退を開始した。
リヒテンシュタインだけが、ミューレホルツに残っている。彼は住人たちを町から追い出し、手勢をすべての民家に分散させて、徹底抗戦の構えを見せた。市街地のような障害物の多い地形は、当然だが守る側に有利である。たとえ全滅しても、彼はこの町を動かぬ気組みである。
もっとも、彼は高級指揮官がしばしば陥るようなロマンチシズムに衝き動かされて、このような自己犠牲的行動に出たわけではない。彼の動機はむしろニヒリズムであった。心底には、彼の敬愛するメッサーシュミット将軍の死がある。リヒテンシュタインはメッサーシュミット将軍の子飼いの部下として育てられ、その勇猛さと愚直さを愛された。彼自身、帝国やヘルムス総統への忠誠よりも、メッサーシュミット将軍に対する個人的な敬慕や義理の方が大きい。だから、メッサーシュミットの非業の死を聞いてからというもの、彼は無意識に死に場所を求めていた。最後にふさわしい舞台をつくって、そこで大いに武名を轟かせ斬り死にするのであればそれもよいなどと考えていた。
味方は逃げ去り、わずかな兵とともに、ただ虚心に、前方と左右から津波のような不気味さと圧迫感でもって押し寄せる教国軍に対している。不思議なことに、逃げ出す部下は一人もいなかった。全員が、自らの命を擲ってでも、この指揮官とこの任務に対して忠実たらんとしているらしかった。
異常な心理には違いないが、それだけ士心を得られているという点が、リヒテンシュタインの有能であることの証左と言えるであろう。
しかし、15倍以上もの兵力差を埋めることはできない。
ミューレホルツの町は、黒い津波に取り囲まれた。
紛争に巻き込まれる恐れがあるために、国境近くの地域というのは往々にして大都市は形成されにくい。ミネルヴァ大陸で国境線近くの大都市といえば、王国領近くの同盟の都市クリシュナと、帝国領近くの合衆国の都市オリスカニーくらいのものであろう。あとは国境線がそもそも緩衝地帯としての役割を果たしていることと、そうした地域が各国においては辺境として扱われるために、大都市はおろか中規模の都市すら育たない。
帝国軍が駐留するトリーゼンベルク地方もその例外ではなく、数百人から千人単位の小さな集落が点在しているに過ぎない。幾筋かの川は流れており、地形は平坦だが、取り立てて肥沃な土地柄でもないために、帝国の国土開発も優先順位としては下位にある。栄える要素がない。
ディーキルヒでの駆逐戦後、帝国軍の前線司令官であるシュトラウス上級大将は軍を二分し、一方をゴルトシュミット将軍に預けて東の同盟領攻略へと向かわせ、レーウ大将には事実上の更迭とも言える処置としてベルヴェデーレ要塞の守備を命じ、自らは第一軍、第四軍、第五軍を率いて教国カスティーリャ要塞の攻略を目指した。
その彼がこのような辺境地帯で軍を分散させ、無為に時を過ごしていたのは、ひとつには大部隊を継続的に動かせるだけの兵站が整備できていなかったためである。帝国軍は近年、急速に軍備を充実させてきたが、軍に供給するための糧食や物資の集積はまだ不完全で、軍の補給部門も人手が足りない。そのため本国では開戦以来、軍の補給活動を手伝うための人夫を積極的に雇い入れているが、実際の軍事行動には追いつけていないのが実情である。このあたりは、軍事の素人で補給の重要性を理解しないヘルムス総統が軍権を握っていることの弊害と見てよい。
いまひとつは、堅固な要塞を攻略するために必要な兵器の到着を待っていたのである。野戦と異なり、対防衛施設戦には特別な準備が必要になる。火矢に使う油や、城壁を登るための梯子、城壁を崩しあるいは伝染病患者を投げ込むためのカタパルト。そうした資源が充分でない。
そのため、帝都からの支援を得られるまで、要塞を目前にしながらも足踏みをしていたのである。
教国軍は女王と遠征軍が帰還して以後は国境線上のカスティーリャ要塞を固く守って容易には打って出てこないと予想していたが、意外にも教国軍動くの報を受けて、シュトラウス上級大将は即座に分散させていた各軍に集合を命じた。
しかし、教国軍の移動速度は彼の予測を上回る素早さであった。
カスティーリャ要塞からシュトラウスの本営及び第一軍の中核部隊が駐留するミューレホルツの町までは、44kmもの距離がある。しかし、教国軍が要塞を出た翌々日の早暁には、その軍は両翼を広げ、ミューレホルツを半包囲の態勢に置いていた。
シュトラウスは元来、寝覚めが爽やかな方ではない。そこへきて、敵の大部隊が至近まで迫っているという報を受けて跳ね起きたわけで、彼にとっては最悪の朝と言うべきであったろう。
無論、多くの帝国兵にとっても深刻な朝となった。
「移動から展開、布陣に至るまで、まさに疾風迅雷の用兵だ……」
シュトラウスからの集結命令を聞き、わずかな手勢とともに第一軍の右翼についていた第四軍のリヒテンシュタイン中将は、らしくもなく感嘆のため息を漏らした。
(シュトラウス閣下は優れた指揮官ではあるが、兵力にまさるロンバルディア女王の敵ではなかろうな)
まるで他人事のように、そう思った。
リヒテンシュタインは勇者だ。戦場で臆病や怯懦を見せたことなど一度もない。その彼をして、内心、単なる評価以上の恐怖に近い感情を、敵将に対して持っている。ロンバルディア教国の女王は神秘的なほどの名将であるという、それは認識以上の感情である。この感情それ自体が、リヒテンシュタイン中将のみならず、特にキティホークの会戦に参加した多くの帝国軍将兵が患っている病であり、心理戦における敗北であると言えるだろう。敵将の名を恐れたら、その時点で不利は拭えない。
布陣と各軍の兵力を俯瞰して整理すると、このようになる。
ミューレホルツは人口1,200人ほどの町で、ここにもともとシュトラウス上級大将の本営と第一軍の中核軍計8,000名ほどが駐屯している。町自体が小さいから、高級将校のみが民家を接収して寝泊まりし、残りは街の周囲に野営している。
この部隊に加え、急を聞きつけ集まってきた第一軍の別働部隊が左翼について4,000、第四軍リヒテンシュタイン中将の本営が右翼で2,000あまり。
当面の戦場であるミューレホルツ及びミューレホルツ南東から南西にかけての農場に展開した帝国軍の兵力は、なんと14,000名程度ということになる。教国軍33,000の、半数以下でしかない。
司令官シュトラウス上級大将は毎朝起き抜けの日課である大便を我慢して、自ら本部であるアンデルセン教会の鐘楼に上り、教国軍の布陣を観察した。
教国軍の主力はデュラン将軍率いる第一師団で、これがヌーナ街道をまっすぐ南からミューレホルツへと迫っている。数は1,5000ほど。
この第一師団を中央に、半円を描くようにして、左翼がグティエレス将軍率いる第四師団およそ1,0000、右翼がコクトー将軍の突撃旅団で約7,000。
教国軍の夜間行軍の巧みさについては、既に何度か実証されている。直近ではキティホークの会戦に先立って、ドン・ジョヴァンニ将軍の遊撃旅団が帝国軍の哨戒の目をくぐって大きく戦場を迂回し、帝国陣営の後背に出て本軍と挟撃体制を構築し、これが直接の敗因となり大打撃を被って敗退した経験がある。また3年前の教国の内戦においても、叛乱軍を初戦で撃破したボルドー街道の戦いは、夜明けとともに三方向より押し寄せてほぼ無傷で完勝したという。
(しかし、それにしても速すぎる)
度肝を抜かれたシュトラウスであったが、さすがに声には出さない。彼はキティホークの会戦で大敗を喫したレーウよりは、まだしも前線の機微というものを心得ていた。最高指揮官は敗北の予感を口にしてはならないのである。指揮官が負けると言えば、戦いは必ず負ける。その逆の場合と違って、この鉄則に例外はない。
とは言え、この状況で勝ち目があると思うほど無邪気な楽天家でもない。問題は負けるにしても、いかに味方の損害少なく、整然と後退できるかであった。負け方次第では、次の勝利への布石にもなりえる。
(とにかく素早く、脇目も振らず逃げることだ。走りに走って、エイクスュルニルの迷い付近ないしはベルヴェデーレ要塞で再集結し、かの地で踏みとどまるほかない)
だが、ただ逃げるだけでは後背から追いすがられて、甚大な被害を出す。味方を安全に逃がすため、犠牲の祭壇に捧げる生贄が必要であろう。つまり、殿軍である。絶望的な戦いになるが、3万以上の教国軍に対し、寡兵をもって防ぎ止め、味方が撤退する時間を創出する。そのような悲壮な役目を持った軍と指揮官を、彼は欲している。
(番犬ブルーノではだめだ)
第一軍のメッテルニヒ中将は壮烈な闘志にも、敵を翻弄する器用さもない。それに彼は部下や兵士からの信頼が薄いから、圧倒的大軍に囲まれればその軍はたちまち瓦解するであろう。
(となると、リヒテンシュタインに命じるしかないか……)
なおも迷いを抱いていると、絶妙のタイミングと言うべきか、リヒテンシュタイン中将からの早馬が飛んできて、自分が殿軍を務めるから本軍を後退させるようにと言って寄越した。
わずか2,000の手勢で、あの雲霞のごとき大軍を食い止めるというのか。
あまりにも無謀かつ雄壮な申し出に、シュトラウスは息を呑み、ただし内心では得たりとばかりに即答した。
「よかろう。さすがは我が軍第一の猛将だ。ではリヒテンシュタイン中将に、この場を委ねよう。直営部隊と第一軍は北上し、ベルヴェデーレ要塞で再集結を図る。直ちに動け!」
ミューレホルツ付近の帝国軍は、リヒテンシュタイン中将の率いる2,000の兵を残し、文字通り脱兎のごとく撤退を開始した。
リヒテンシュタインだけが、ミューレホルツに残っている。彼は住人たちを町から追い出し、手勢をすべての民家に分散させて、徹底抗戦の構えを見せた。市街地のような障害物の多い地形は、当然だが守る側に有利である。たとえ全滅しても、彼はこの町を動かぬ気組みである。
もっとも、彼は高級指揮官がしばしば陥るようなロマンチシズムに衝き動かされて、このような自己犠牲的行動に出たわけではない。彼の動機はむしろニヒリズムであった。心底には、彼の敬愛するメッサーシュミット将軍の死がある。リヒテンシュタインはメッサーシュミット将軍の子飼いの部下として育てられ、その勇猛さと愚直さを愛された。彼自身、帝国やヘルムス総統への忠誠よりも、メッサーシュミット将軍に対する個人的な敬慕や義理の方が大きい。だから、メッサーシュミットの非業の死を聞いてからというもの、彼は無意識に死に場所を求めていた。最後にふさわしい舞台をつくって、そこで大いに武名を轟かせ斬り死にするのであればそれもよいなどと考えていた。
味方は逃げ去り、わずかな兵とともに、ただ虚心に、前方と左右から津波のような不気味さと圧迫感でもって押し寄せる教国軍に対している。不思議なことに、逃げ出す部下は一人もいなかった。全員が、自らの命を擲ってでも、この指揮官とこの任務に対して忠実たらんとしているらしかった。
異常な心理には違いないが、それだけ士心を得られているという点が、リヒテンシュタインの有能であることの証左と言えるであろう。
しかし、15倍以上もの兵力差を埋めることはできない。
ミューレホルツの町は、黒い津波に取り囲まれた。
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