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第二十四話 第二王子の拒まれた口付け
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ストライナ公爵家の三男と結婚してしまう前にクロディーヌを奪い取ろうと決意した僕は、何度も彼女を王宮へと呼び出した。
ある時は優しく笑いかけ、またある時は美味しいお茶やお菓子をご馳走し、大量のプレゼントを侯爵家に贈ったり、夜会の際には僕色のドレスとアクセサリーを一色揃えてプレゼントしたりもした。尤も、彼女はそれを一度として身につけてはくれなかったが。
そこは照れているのだと推測して、僕は次に肉体的な距離を詰めることに勤しんだ。
初めて手に触れた時は、偶然を装って。
それを何度か繰り返し、普通に手を握れるようになった頃、つまずいた彼女を抱きしめ、その後は仲の良い恋人同士のように追いかけっこをしたりもした。
追いついて強く抱きしめると、嬉しさのあまり震えていたから、調子にのって口付けしようとしたら何故だか拒まれた。
何故だ? まだ早かったのか?
それからも何度か口付けを迫ったのだが、結局一度もさせてもらえないまま、彼女は公爵家の三男と結婚式で口付けを交わした。
恋人である僕の前で、政略結婚の相手でしかないやつと、僕とはしたこともない口付けを交わしたのだ。
無論それが結婚式でよくやる『誓いのキス』だということは知っている。
しかし、キスをする場所は別に頬でも額でも問題はなかった筈だ。
なのに何故あの二人は、というより公爵家の三男は、わざわざ唇にしたんだ!?
本来ならそこは、王子たる僕に遠慮して避けるべき場所だろう!?
視線だけで人を殺すことができたなら、僕はあの時確実にあの男を殺していた。
それ程までにあの口付けは、僕にとって許し難いものだったのだ。
再三に渡る僕の妨害により、僕とクロディーヌの仲を誤解した公爵家の三男が、いつ結婚を取りやめるのかと僕はずっと待っていた。
何度も何度も僕と彼女の仲の良さを見せつけて、お前は邪魔なんだと、お前さえ身を引けば全て上手くいくのだと思い知らせた筈だった。
だから今日こそ……今日こそは!──と思い続けて半年と少し。
結局婚約解消は為されず、そのまま何事もなかったかのように二人が結婚したのには驚いた。
なんて図々しいやつだ。僕とクロディーヌが仲良くする様を散々見せつけてやったのに、それでも彼女と結婚するなんて。
そこまでして侯爵家の婿の座をあいつが手に入れたかったのだとはさすがに思っておらず、予想外の結末に僕はその時人生初の地団駄を踏んだ。
そんな風だったから、あの二人の結婚式など参列したくはなかったが、侯爵家の結婚式に王族が欠席するなどあり得ない。
故に仕方なく出席してやったというのに、まさか僕の見ている前で、堂々と口付けを交わすとは予想だにしていなかった。
クロディーヌも何故避けなかったんだ!?
その場の光景が激しい怒りによって真っ赤に染まり、それから後のことは殆ど何も覚えていない。
ただ、披露宴の席で挨拶に来た二人を無視したら、やんわりと兄上に咎められたことだけが薄らと記憶に残っている。
あの二人が結婚などしなければ、僕が兄上に咎められることもなかったのに。
「本当に腹が立つ……」
そして、今日またあの男は、僕に無礼を働いた。
僕が今日クロディーヌの邸へ行ったのは、クロディーヌとアストルの結婚の内情について知っているという平民から、面白い話を聞いたからだ。
彼女の話はとても信憑性があり、真実味を帯びていたから、僕はその真相を確かめるべく、話を聞いてすぐその足でクロディーヌの邸へ向かった。
そうして、その話を聞いた瞬間のクロディーヌの表情と、新婚二日目にして夫が邸に不在という事実。
その二つの観点から、僕は平民女の話は本当だったのだと確信した。
これならば、クロディーヌ達を別れさせるのは案外簡単そうだ。兄上にはつい先日「クロディーヌ嬢は人妻となったのだから、そろそろ他へ目を向けてはどうだ?」と言われたが、二人の関係が最初から破綻しているのであれば、そんな言葉聞く必要もないだろう。
僕は今まで通り、クロディーヌと結婚するべく彼女を口説き続けるだけだ。
クロディーヌと結婚さえできれば、僕は僕の望んだ未来をほぼ完璧な状態で手に入れることができるのだから。
「それにしても、あの女……」
ふと、クロディーヌ達の内情を王宮へ話しに来た、公爵家三男の愛妾だとかいう女の姿が脳裏に浮かんだ。
見た目的には、クロディーヌより断然僕の好みだった。
特に身体付きが……貧しい暮らしをしている平民とは思えぬほどに豊満で、あれを自分のものにできれば毎日が楽しくなりそうな。
僕と話をしていた時に平民女の身体の動きに合わせて揺れた、たわわな果実を思い出すと、つい口元が緩んでしまう。
「あんな良い女を二人も囲うなど……野暮ったい男のくせに、許せないな」
何の取り柄もないあんな男が、何故あのような好待遇を手にしているのか。
彼のいるあの場所は、全国民に愛してやまれぬ自分にこそ相応しい。
「身の程を弁えぬ愚か者には、罰を与えてやらなければな……」
さて、どうしてやろう?
王宮へ向かう馬車の中で、僕は黒い笑みを浮かべた。
ある時は優しく笑いかけ、またある時は美味しいお茶やお菓子をご馳走し、大量のプレゼントを侯爵家に贈ったり、夜会の際には僕色のドレスとアクセサリーを一色揃えてプレゼントしたりもした。尤も、彼女はそれを一度として身につけてはくれなかったが。
そこは照れているのだと推測して、僕は次に肉体的な距離を詰めることに勤しんだ。
初めて手に触れた時は、偶然を装って。
それを何度か繰り返し、普通に手を握れるようになった頃、つまずいた彼女を抱きしめ、その後は仲の良い恋人同士のように追いかけっこをしたりもした。
追いついて強く抱きしめると、嬉しさのあまり震えていたから、調子にのって口付けしようとしたら何故だか拒まれた。
何故だ? まだ早かったのか?
それからも何度か口付けを迫ったのだが、結局一度もさせてもらえないまま、彼女は公爵家の三男と結婚式で口付けを交わした。
恋人である僕の前で、政略結婚の相手でしかないやつと、僕とはしたこともない口付けを交わしたのだ。
無論それが結婚式でよくやる『誓いのキス』だということは知っている。
しかし、キスをする場所は別に頬でも額でも問題はなかった筈だ。
なのに何故あの二人は、というより公爵家の三男は、わざわざ唇にしたんだ!?
本来ならそこは、王子たる僕に遠慮して避けるべき場所だろう!?
視線だけで人を殺すことができたなら、僕はあの時確実にあの男を殺していた。
それ程までにあの口付けは、僕にとって許し難いものだったのだ。
再三に渡る僕の妨害により、僕とクロディーヌの仲を誤解した公爵家の三男が、いつ結婚を取りやめるのかと僕はずっと待っていた。
何度も何度も僕と彼女の仲の良さを見せつけて、お前は邪魔なんだと、お前さえ身を引けば全て上手くいくのだと思い知らせた筈だった。
だから今日こそ……今日こそは!──と思い続けて半年と少し。
結局婚約解消は為されず、そのまま何事もなかったかのように二人が結婚したのには驚いた。
なんて図々しいやつだ。僕とクロディーヌが仲良くする様を散々見せつけてやったのに、それでも彼女と結婚するなんて。
そこまでして侯爵家の婿の座をあいつが手に入れたかったのだとはさすがに思っておらず、予想外の結末に僕はその時人生初の地団駄を踏んだ。
そんな風だったから、あの二人の結婚式など参列したくはなかったが、侯爵家の結婚式に王族が欠席するなどあり得ない。
故に仕方なく出席してやったというのに、まさか僕の見ている前で、堂々と口付けを交わすとは予想だにしていなかった。
クロディーヌも何故避けなかったんだ!?
その場の光景が激しい怒りによって真っ赤に染まり、それから後のことは殆ど何も覚えていない。
ただ、披露宴の席で挨拶に来た二人を無視したら、やんわりと兄上に咎められたことだけが薄らと記憶に残っている。
あの二人が結婚などしなければ、僕が兄上に咎められることもなかったのに。
「本当に腹が立つ……」
そして、今日またあの男は、僕に無礼を働いた。
僕が今日クロディーヌの邸へ行ったのは、クロディーヌとアストルの結婚の内情について知っているという平民から、面白い話を聞いたからだ。
彼女の話はとても信憑性があり、真実味を帯びていたから、僕はその真相を確かめるべく、話を聞いてすぐその足でクロディーヌの邸へ向かった。
そうして、その話を聞いた瞬間のクロディーヌの表情と、新婚二日目にして夫が邸に不在という事実。
その二つの観点から、僕は平民女の話は本当だったのだと確信した。
これならば、クロディーヌ達を別れさせるのは案外簡単そうだ。兄上にはつい先日「クロディーヌ嬢は人妻となったのだから、そろそろ他へ目を向けてはどうだ?」と言われたが、二人の関係が最初から破綻しているのであれば、そんな言葉聞く必要もないだろう。
僕は今まで通り、クロディーヌと結婚するべく彼女を口説き続けるだけだ。
クロディーヌと結婚さえできれば、僕は僕の望んだ未来をほぼ完璧な状態で手に入れることができるのだから。
「それにしても、あの女……」
ふと、クロディーヌ達の内情を王宮へ話しに来た、公爵家三男の愛妾だとかいう女の姿が脳裏に浮かんだ。
見た目的には、クロディーヌより断然僕の好みだった。
特に身体付きが……貧しい暮らしをしている平民とは思えぬほどに豊満で、あれを自分のものにできれば毎日が楽しくなりそうな。
僕と話をしていた時に平民女の身体の動きに合わせて揺れた、たわわな果実を思い出すと、つい口元が緩んでしまう。
「あんな良い女を二人も囲うなど……野暮ったい男のくせに、許せないな」
何の取り柄もないあんな男が、何故あのような好待遇を手にしているのか。
彼のいるあの場所は、全国民に愛してやまれぬ自分にこそ相応しい。
「身の程を弁えぬ愚か者には、罰を与えてやらなければな……」
さて、どうしてやろう?
王宮へ向かう馬車の中で、僕は黒い笑みを浮かべた。
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