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第十九話 めでたい思考回路

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 第二王子殿下は恐らく、臣籍降下する先として我が侯爵家に目をつけたのだ。

 無論、子供であった時からそうだったのかは分からない。 

 けれど、私の婚約者を決める顔合わせの場に出席していた時点で、少なからずそういう意思は最初からあったのだと思う。

 そもそも嫡男がおらず娘が家を継ぐ貴族家は、侯爵家以上の家格でいえば我が家だけだったから。

 伯爵家までランクを下げればまだ数人いると思うけれど、王族が臣籍降下するにあたって伯爵家では家格が低すぎるため、王族として生きる以外の道を選ぶのならば、実質我が家に婿入りするしか選択肢がない。

 そして迎えた、私との見合い兼初顔合わせの日。

 小さい頃から自分の見た目に絶対の自信を持っていた殿下は、間違いなく自分が選ばれる、とさぞや自信があったことだろう。

 なのに蓋を開けてみれば、選ばれたのはアストル様で。

 その時の私は、自分の好みど真ん中のアストル様と出会えたこと、しかもその人と結婚できるという幸運に舞い上がっていて、他の人のことなんて全く目に入っていなかった。

 だから、私に選ばれなかった殿下がどういった表情をしていたのかとか、帰りがけに声を掛けられたような気もするけれど、気がするだけで本当に声を掛けられたかどうかすら覚えていなかったのだけれど、もしかしたらそのことが引き金となって、殿下はより一層我が家への婿入りに執着し出したのかもしれない。

 兄王子と違い、見目麗しく生まれついた第二王子殿下は、それこそ蝶よ花よと可愛がられ、我儘放題に育てられたと聞いている。

 彼の言うことには誰もが従ったし、国王や王妃はもちろんのこと、兄王子ですら弟可愛さに苦言を呈したことはないとか。

 そんな環境で育ち続けた第二王子殿下が、身内でもなんでもない、彼からしたら格下でしかない公爵家の、しかも三男に負けるだなんてあり得ないことだったんだろう。仮にも第二王子である殿下を差し置いて、他の人間をを選ぶだなんてあってはならない……そんな風にも考えたのではないだろうか。

 そして、まるでそれを証明するかのように顔合わせ後の殿下は、とにかくひたすらにしつこかった。

 私を王宮へと呼び出したり、殿下が我が家を訪問したり。

 かと思えば此方の迷惑も考えずに大量の贈り物を送りつけてきたり、頼んでもいないのに夜会のドレス──しかも殿下の瞳の色──を贈ってきたり……とにかくあの手この手で私を口説き落とそうとしていることが見え見えで、逆に私はドン引いていた。

 あまりのしつこさに嫌気がさして、「臣籍降下などやめ、第二王子として王太子殿下をお支えしてはどうですか?」と尋ねたことすらある。

 すると彼は「僕は人の下につくのは嫌いだ。どうせなら当主となって好き放題する方が良い」と悪びれることなく答えた。

 その答えに私は思わず「当主となるのは私なので、私と結婚したところで、あなたは当主にはなれませんよ?」と言ったけれど、殿下は「そんなの形だけのものだろう」と全く取り合ってはくれなかった。

 普通に考えて、そんなお家乗っ取りとも思えるような思考回路の人と結婚したいなんて先ず思うわけがないのに、殿下は明らかに普通じゃないから気が付かないのよね。

 誰もが傅き、美を讃える第二王子殿下の伴侶となれることが、私の何よりの幸せだと信じて疑ってもいないから。

 王宮とは違い、侯爵家では限られた予算内で限られた暮らしをしていかなければならないのに、湯水のように好き勝手お金を使うことに慣れきった殿下では、恐らくそれすら理解することは難しい。

 いや、理解はできても自由にお金を使えないことに対する我慢が続かないだろう。

 王宮への貴族家からの援助を、当然のこととして何も考えずに享受しているだけの殿下では。

 貴族家からの支持を集め、援助されるに足る功績を上げているのは国王陛下ならびに王太子殿下。

 その二人からの愛情に胡座をかいて傍若無人に振る舞うだけの第二王子殿下は、そのことにすら気付いていない可能性がある。

 そんな人と結婚して、どうしたら幸せになれるというの?

 見た目がどんなに美しくとも、それだけで生きていけるほど世の中は甘くないのよ?

 楽天的すぎる殿下を、そう言ってこき下ろしてやりたい。

 まぁ、言ったところで殿下のおめでたい頭では、理解できないんでしょうけど。






 
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