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第十七話 襲来
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朝食を食べた後、刺繍を刺しながらゆったりとした時間を過ごしていると、突然邸の中が俄かに騒がしくなった。
どうしたのかしら?
気になって腰を上げ、私は扉へと向かう。
そのまま私室の扉を開けようとすると、焦ったように二度、ノックの音が響いた。
「奥様、よろしいですか?」
その声に答えるように扉を開け、入り口にいたメイサへと目を向ける。
「何かあったの?」
取り乱しているのが如実に分かるメイサを部屋へと招き入れようとしたけれど、彼女はそれに首を横に振った。
おかしい。
いつもだったら素直に部屋へ入ってくれるのに。
不審に思って尋ねようとすると、それより早く、メイサが口を開く。
「実は……第二王子殿下が先触れもなくお越しになりまして……」
「えっ!? 殿下が!?」
一体何をしに私達の新居までやって来たのだろう?
あまりの事態に、私も驚きを隠せない。
しかも、先触れもなくやって来るだなんて、いくら王族といえども失礼じゃないかしら?
貴族というものは、他人を邸へと迎え入れる際、体裁を繕うために色々と準備をするのが普通だ。
化粧や服装は然り。お茶やお菓子だって、家を馬鹿にされないよう、先に訪問相手の調査などして好みを把握し、その人に一番喜んでもらえる完璧なものを用意するのが常だ。
故に先触れのない訪問など、門前払いされるのが普通であり、断ったところで無礼なのは訪問した方で、断った家の主人とはならない。けれど、この場合──。
「王族となると、話は別よね……」
ポツリと呟いた言葉に、メイサが気まずげに頷く。
「門番も最初は断ろうとしたようですが、『王族の訪問を断るなど不敬だぞ。貴様は首を刎ねられたいのか?』と脅され、止めることができなかったそうです。家令や執事達も止めようとしたのですが、その全てに『王族の行動を妨害するとは不敬な! 処刑してやる!』と仰られまして、どうにもできず……」
メイサの報告を聞き、私は軽い眩暈を感じた。
「本当にあの方は……王族の権威をなんだと思っているのかしら。ちょっとでも気に入らないことがあると、二言目には「処刑する」。大切な民を動物か何かと勘違いしているのではないかしら? 殿下の言うように不敬を働いた者達を全員処刑していたら、この国の民はあっという間に全員いなくなってしまうのに。そこのところ分かっているのかしら?」
「分かっていないから、あの発言なのでは?」
控えめに返された言葉に、私は「そうよね……」とため息混じりに頷く。
王太子殿下はとてもしっかりされた立派な方だけれど、甘やかされて育った第二王子殿下は、見事な屑人間に育ってしまった。
頑健な国王様にそっくりな王太子殿下は、顔付きや体つき全てにおいて逞しく、男の中の男というか、一見すると熊にしか見えないというか、そんな方だ。
性格的にもその見た目通りの王太子殿下は、幼少の頃からの婚約者の方を大層大事にされており、二人はとても仲睦まじいと聞く。
その一方、第二王子殿下はというと……此方は王太子殿下とは違い、何から何まで儚げでお美しい王妃様そっくりで、男にしておくには勿体無いほどの麗しき美貌、ほっそりとした長い手足、まさに絵本から抜け出して来た王子様を体現したかのようなお方。
ただし残念なことに、それは見た目だけ。
中身はやりたい放題、我が儘放題、口癖は「処刑する」なんじゃないかと思ってしまうぐらい、何かにつけて王族の権力を振り翳し、他者を屈服させては愉快そうに笑う最低なお方。
子供の頃の顔合わせで、第二王子殿下を婚約者に選ばなくて、本当に良かった。
王子様のような見た目──実際に王子様なのだけれど──に騙されなかったあの時の自分を、褒めてあげたい。
どうしたのかしら?
気になって腰を上げ、私は扉へと向かう。
そのまま私室の扉を開けようとすると、焦ったように二度、ノックの音が響いた。
「奥様、よろしいですか?」
その声に答えるように扉を開け、入り口にいたメイサへと目を向ける。
「何かあったの?」
取り乱しているのが如実に分かるメイサを部屋へと招き入れようとしたけれど、彼女はそれに首を横に振った。
おかしい。
いつもだったら素直に部屋へ入ってくれるのに。
不審に思って尋ねようとすると、それより早く、メイサが口を開く。
「実は……第二王子殿下が先触れもなくお越しになりまして……」
「えっ!? 殿下が!?」
一体何をしに私達の新居までやって来たのだろう?
あまりの事態に、私も驚きを隠せない。
しかも、先触れもなくやって来るだなんて、いくら王族といえども失礼じゃないかしら?
貴族というものは、他人を邸へと迎え入れる際、体裁を繕うために色々と準備をするのが普通だ。
化粧や服装は然り。お茶やお菓子だって、家を馬鹿にされないよう、先に訪問相手の調査などして好みを把握し、その人に一番喜んでもらえる完璧なものを用意するのが常だ。
故に先触れのない訪問など、門前払いされるのが普通であり、断ったところで無礼なのは訪問した方で、断った家の主人とはならない。けれど、この場合──。
「王族となると、話は別よね……」
ポツリと呟いた言葉に、メイサが気まずげに頷く。
「門番も最初は断ろうとしたようですが、『王族の訪問を断るなど不敬だぞ。貴様は首を刎ねられたいのか?』と脅され、止めることができなかったそうです。家令や執事達も止めようとしたのですが、その全てに『王族の行動を妨害するとは不敬な! 処刑してやる!』と仰られまして、どうにもできず……」
メイサの報告を聞き、私は軽い眩暈を感じた。
「本当にあの方は……王族の権威をなんだと思っているのかしら。ちょっとでも気に入らないことがあると、二言目には「処刑する」。大切な民を動物か何かと勘違いしているのではないかしら? 殿下の言うように不敬を働いた者達を全員処刑していたら、この国の民はあっという間に全員いなくなってしまうのに。そこのところ分かっているのかしら?」
「分かっていないから、あの発言なのでは?」
控えめに返された言葉に、私は「そうよね……」とため息混じりに頷く。
王太子殿下はとてもしっかりされた立派な方だけれど、甘やかされて育った第二王子殿下は、見事な屑人間に育ってしまった。
頑健な国王様にそっくりな王太子殿下は、顔付きや体つき全てにおいて逞しく、男の中の男というか、一見すると熊にしか見えないというか、そんな方だ。
性格的にもその見た目通りの王太子殿下は、幼少の頃からの婚約者の方を大層大事にされており、二人はとても仲睦まじいと聞く。
その一方、第二王子殿下はというと……此方は王太子殿下とは違い、何から何まで儚げでお美しい王妃様そっくりで、男にしておくには勿体無いほどの麗しき美貌、ほっそりとした長い手足、まさに絵本から抜け出して来た王子様を体現したかのようなお方。
ただし残念なことに、それは見た目だけ。
中身はやりたい放題、我が儘放題、口癖は「処刑する」なんじゃないかと思ってしまうぐらい、何かにつけて王族の権力を振り翳し、他者を屈服させては愉快そうに笑う最低なお方。
子供の頃の顔合わせで、第二王子殿下を婚約者に選ばなくて、本当に良かった。
王子様のような見た目──実際に王子様なのだけれど──に騙されなかったあの時の自分を、褒めてあげたい。
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