【完結】初夜寸前で「君を愛するつもりはない」と言われました。つもりってなんですか?

迦陵 れん

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第十五話 エイミーの計画

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 最初こそ苦労したものの、アストルを懐柔するのは思いの外簡単だった。

 仮にも公爵家の令息なのだから、もっとお堅い感じかと思っていたのに、三男ということもあってか、アストルは他の貴族の令息達より考え方が柔軟で、且つ、とても心が広かった。

 冗談混じりに名前を呼び捨てにしてみても怒らない。

 ここぞとばかりに追加で「これからはアストルって呼んでも良い?」と可愛らしく小首を傾げて聞いてみたら、あっさりと頷いた。

 他の貴族令息には、名前を呼び捨てにした途端、頬を引っ叩かれそうになったのに。

 私の王子様は、やっぱりアストルしかいないんだわ……。

 いつしかそんな風に考えるようになり、それと共に私はなんとかしてアストルを手に入れられないものかと画策するようになった。

 だけどアストルがクロディーヌさんのことを心の底から愛していることは疑いようのない事実だったから、私はまず外堀から埋めていくことにした。

 外堀を埋めてアストルが私から逃げられないようにしてから、気持ちを徐々に此方へ向ければ良いと。

 そう考えた私は、人目を気にしてわざと人のいない場所へとアストルが私を連れて行くのを利用し、公爵家の使用人達にさり気なく私達の逢瀬の情報を流した。

「この前アストル様と四阿の裏でお話しさせていただいたんですけど、裏側って面白いぐらいに人が来ないんですね」とか、「魚に餌をやりたいと行ったら、池の端に連れて行っていただいたのですが、餌はいつもあんな端からあげているんですか?」などなど。

 アストルがどうしてそこまで人目を気にするのかは分からなかったけど、私にとってそれはチャンスでしかなくて。だから有り難く、そのことを最大限に利用させてもらうことにしたのだ。

 自分の婚約者が、たかが平民と人目を忍んでこそこそ会っていたら、お貴族様のご令嬢としては許せないだろう。

 だからこそ、私とアストルのことが上手く婚約者の耳に入って、婚約破棄──若しくは喧嘩でもしてくれれば儲けもの。

 そんな期待をしながら、無邪気な平民の娘を装って使用人達に逢瀬の話をすれば、彼女らは皆一様に「まあ!」と驚いた顔をした後、値踏みするかのように私のことを上から下まで舐めるように見、「いかがわしいことなどは……されておりませんよね?」と確認するかのように聞いてきた。

 そこで嘘を吐くこともできたけど、平民が貴族に嘘を吐いたことがバレたら、どんな罰を与えられるか分からない。

 だからそこは「えっ! えぇと……はい……」と恥ずかしそうに言って、使用人達の猜疑心を煽っておいた。

 そもそもクロディーヌ命のアストルがそんなことする筈もないのに、使用人達に疑われるほど彼の気持ちは公爵家の人達に理解されていないのだと思うと楽しくて堪らず、私は密やかにほくそ笑んだ。

 これならきっと、彼らはアストルが私に懸想した……若しくは人気のない場所で不貞行為に勤しんでいる……と誤解してくれる。そしてそれが上手くクロディーヌさんの耳に入ったなら、婚約破棄だってあり得るかもしれない。

 そうなった時は私が傷心のアストルを慰めて、上手いこと彼と結婚を──と計画していたのに、流石の公爵家。使用人達は自分達が勤める家の醜聞を外には決して漏らさなかった。結果、私の頑張りも虚しく、アストルの不貞の噂はクロディーヌさんに知られることのないまま、二人は結婚してしまったのだ。

 いつもアストルから聞いていた話の内容から、もしかして私達のことはクロディーヌさんの耳に入っていないかも? と疑っていたら、まさか本当になんにも知らされていなかったなんて!

 その話を聞いた時、私は目の前が真っ暗になるほどの衝撃を受けた。

 結婚してしまえば離婚させるのは難しいから、なんとか婚約破棄させたかったのに!

 アストルに健気な良い子と思ってもらうために、したくもない二人の恋の応援をして、クロディーヌさんを褒めたりもしたのに全部台無し。また一から計画を練り直さなくちゃいけなくなった。

 その後に思いついた最善ともいえる一手が、アストルの愛妾にしてもらうことだったわけだけど。

 一度は頷いて、アストルはクロディーヌさんとの初夜でそのことを告げたらしいのに、その次の日の今日になって突然意見を翻してくるなんて、ほんと信じられない。

 まさか、昨日の初夜は拒否したものの、今日は受け入れる気じゃないでしょうね?

 そんなことになったら白い結婚を貫けなくなるし、万が一にでも子供を孕んだりしたら……それこそ離縁させられなくなってしまう。

 そんなのは絶対に嫌!

 私は勢いよく立ち上がると、ある場所へ向かって全速力で駆け出した──。

 




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