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第十話 可愛らしい人
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とても可愛らしい人だった。
アストル様の想い人は、私とは正反対とでも言うべきな、可愛らしくて女性の魅力に溢れている人だった。
遠目からではあったけれど、私は視力には自信がある。その私の目から見た彼女は、ふわふわと柔らかそうなピンク色の髪と、とても魅力的な身体をしていて、尚且つ頼られたら女である私でさえもコロッといってしまいそうな可愛らしい顔をしていた。
「あの方が……アストル様の愛する人……」
勝てない。私では、どう頑張ってもあの女性に勝つことはできない。
そう思うたびに胸の痛みは強くなり、私は私室に飛び込むようにして入ると、ベッドに突っ伏して涙を流した。
「無理よ……無理。あんな可愛らしい人に、どうやったら勝てると言うの?」
アストル様に愛妾を迎えると言われた時点で、負けていることは分かっていた。
彼にストレスを与えることしかできない私と、彼の心を癒すことのできる彼女とでは、雲泥の差があると。
でも、それでも。
爵位なんて関係なく、私はただアストル様が好きだった。だから絶対に結婚を諦めたくなかった。それなのに、爵位目当ての平民なんかに負けるなんて。
そのことをアストル様に言ってやりたいと思うも、彼はきっと受け入れないだろうと思う。
『あの平民は、あなたが貴族だから近付いたのよ』なんて、彼から遠ざけたいがための嘘としか思われないだろう。
私がもっと可愛いければ。もっと魅力的な身体をしていたら、何かが違っていたのだろうか?
「それともせめて、もう少し可愛らしい性格だったら、アストル様は私だけを好きになってくれた……?」
言ったところでどうにもならない。考えても仕方ないと分かっていながら、つい声に出して呟いてしまう。
先程見てしまったアストル様と彼女の口付けする姿が頭から離れなくて、そのまま暫く泣き続けていると、不意に私の部屋へと足音が近付いてきて、控え目に私室の扉がノックされた。
「ただいまクロディーヌ。今帰ったんだけど、身体は大丈夫かい?」
「ア、アストル様っ!?」
予想外の人の声に、大慌てで涙を拭く。
私の了承もなしに扉を開けることはないと思うけれど、万が一にも涙でぐしゃぐしゃの汚い顔をアストル様に見られたくはない。
「クロディーヌ? 開けても良いかな?」
私が返事をしないことを訝しんだのか、アストル様が再び声を掛けてくる。
マズい! 何とかして取り繕わないと。
ハンカチで拭いたところで目も鼻も真っ赤だし、なんなら鼻はグスグスしている。こんな顔を見られようものなら、心配されるより先に嫌われてしまうかもしれない。
それに、お優しいアストル様のこと。私が泣いていたと知ったら、絶対に理由を知りたがるだろう。そうしてその元凶となったものを排除しようとする筈。
なんなら素直に『愛妾なんて迎えないで』と言ってみる?
ふと浮かんだ考えを、私は速攻で掻き消した。
そんなことを言えるぐらいなら、そもそもこんな風に泣く必要はない。
私が意地っ張りで素直になれないから、アストル様の気持ちが他へ行ってしまったのだし。簡単に自分自身を変えられるなら、とっくに可愛く変身している。
そんなことを考えていると、何の前触れもなく、ガチャリ、と扉の開く音がした。
アストル様の想い人は、私とは正反対とでも言うべきな、可愛らしくて女性の魅力に溢れている人だった。
遠目からではあったけれど、私は視力には自信がある。その私の目から見た彼女は、ふわふわと柔らかそうなピンク色の髪と、とても魅力的な身体をしていて、尚且つ頼られたら女である私でさえもコロッといってしまいそうな可愛らしい顔をしていた。
「あの方が……アストル様の愛する人……」
勝てない。私では、どう頑張ってもあの女性に勝つことはできない。
そう思うたびに胸の痛みは強くなり、私は私室に飛び込むようにして入ると、ベッドに突っ伏して涙を流した。
「無理よ……無理。あんな可愛らしい人に、どうやったら勝てると言うの?」
アストル様に愛妾を迎えると言われた時点で、負けていることは分かっていた。
彼にストレスを与えることしかできない私と、彼の心を癒すことのできる彼女とでは、雲泥の差があると。
でも、それでも。
爵位なんて関係なく、私はただアストル様が好きだった。だから絶対に結婚を諦めたくなかった。それなのに、爵位目当ての平民なんかに負けるなんて。
そのことをアストル様に言ってやりたいと思うも、彼はきっと受け入れないだろうと思う。
『あの平民は、あなたが貴族だから近付いたのよ』なんて、彼から遠ざけたいがための嘘としか思われないだろう。
私がもっと可愛いければ。もっと魅力的な身体をしていたら、何かが違っていたのだろうか?
「それともせめて、もう少し可愛らしい性格だったら、アストル様は私だけを好きになってくれた……?」
言ったところでどうにもならない。考えても仕方ないと分かっていながら、つい声に出して呟いてしまう。
先程見てしまったアストル様と彼女の口付けする姿が頭から離れなくて、そのまま暫く泣き続けていると、不意に私の部屋へと足音が近付いてきて、控え目に私室の扉がノックされた。
「ただいまクロディーヌ。今帰ったんだけど、身体は大丈夫かい?」
「ア、アストル様っ!?」
予想外の人の声に、大慌てで涙を拭く。
私の了承もなしに扉を開けることはないと思うけれど、万が一にも涙でぐしゃぐしゃの汚い顔をアストル様に見られたくはない。
「クロディーヌ? 開けても良いかな?」
私が返事をしないことを訝しんだのか、アストル様が再び声を掛けてくる。
マズい! 何とかして取り繕わないと。
ハンカチで拭いたところで目も鼻も真っ赤だし、なんなら鼻はグスグスしている。こんな顔を見られようものなら、心配されるより先に嫌われてしまうかもしれない。
それに、お優しいアストル様のこと。私が泣いていたと知ったら、絶対に理由を知りたがるだろう。そうしてその元凶となったものを排除しようとする筈。
なんなら素直に『愛妾なんて迎えないで』と言ってみる?
ふと浮かんだ考えを、私は速攻で掻き消した。
そんなことを言えるぐらいなら、そもそもこんな風に泣く必要はない。
私が意地っ張りで素直になれないから、アストル様の気持ちが他へ行ってしまったのだし。簡単に自分自身を変えられるなら、とっくに可愛く変身している。
そんなことを考えていると、何の前触れもなく、ガチャリ、と扉の開く音がした。
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