76 / 90
76 予想外
しおりを挟む
なんなのこいつ。自分勝手に一人でカフェを出て行って、一体何をやってるの?
街中を探し回って漸くフェルディナントを見つけた時、ミーティアがまず最初に思ったのは、それだった。
ユリアに腕を引っ張られる形でカフェを飛び出したミーティアは、その後ユリアの思い付くまま色々な場所へと連れ回され、服を着替えさせられたり、髪型を変えさせられたり、とにかく全身を弄られた。
その後はフェルディナントを探すため、慣れない靴で街中を走らされ──ぶっちゃけどうして自分がそんなことをしなければいけないのか、彼に会うのにわざわざ服を着替えさせられた理由はなんなのか、分からないままであったけれど──そうして息を切らせながらも、やっとこさ見つけた彼は、見知らぬ令嬢に抱きつかれていて。
自分がこんなにも苦労したというのに、この男は何をしているのかと殺意を持って近付こうとしたところで、ユリアによって止められた。
「待ってミーティア。ここは令嬢らしく……ね?」
令嬢らしくってなんだろう?
反射的にそう思ってしまったものの、いつもの調子で話しかけてはいけないのだということぐらいは理解できたから、ミーティアなりに精一杯令嬢っぽく声をかけた。
「まあ! 貴方達、公衆の面前で何をしていらっしゃいますの?」
それがつまり、この一言だったわけなのだが。
正直これが正しかったどうかは分からない。けれど、それを耳にしたフェルディナントの動きは明らかに止まったから、少なからず効果はあったんだと思う。
それからゆっくりと時間をかけて、彼の顔が徐々に自分へと向けられるさまを見つめていたら──目が合った瞬間、彼の漆黒の瞳は顔から溢れ落ちそうなほどに大きく見開かれた。
「は……?」
続いて発せられた、間抜けな一言。
「え……ちょ、ま……は?」
いつも落ち着いているフェルディナントとは思えない、動揺した表情と声だった。
それを観察できただけでもユリアに弄られた意味はあったのかも? などと、ミーティアが暢気なことを考えてしまったほどに。
動揺しきっている姿を見るに、分厚いレンズの眼鏡を外し、お洒落をした自分を見ても、フェルディナントは疑うことなく自分がミーティアであることを把握しているようだ。ただ、ここまでの美少女──だってヒロインだし──だとは思っていなかったようで、面白いぐらいに取り乱している。
けれど取り敢えず、今は見知らぬ令嬢から彼を取り戻すのが先決だ。
ミーティアはずい、と一歩足を前に踏み出すと、令嬢の腕を掴んで無理矢理フェルディナントから引き剥がした。
「痛っ……ちょっと貴女、突然出て来て失礼なんじゃなくって?」
令嬢が憎々し気に睨み付けてくるが、そんなことはどうでも良い。令嬢に睨まれたところで、怖くもなんともないのだから。
それよりも許せないのは、フェルディナントだ。
ミーティアは彼の襟の辺りをガッチリ掴むと、勝手にいなくなった挙げ句、見知らぬ令嬢を引っ掛けてたことに文句を言おうと、掴んだ襟を力任せに引き寄せて──。
チュッ。
勢い余ってキスをしてしまった。
「…………っ‼︎」
これには、少し離れた場所で二人を見守っていたユリアも驚いてしまい。
ミーティア……意外と大胆だったのね。
などと、心の中で感心──無論ミーティアは、そのことに気付きもしていないが──された。
しかし、それが面白くなかったのは、友人に突き飛ばされてでもフェルディナントとお近付きになろうとした令嬢であり。
彼女は、人の多い街中で予想外にキスしてしまい、真っ赤になって固まる二人へと近付くと、大声を張り上げた。
「ちょっと貴女! こんな街中で破廉恥よ!」
勢い良く両手を突き出し、力いっぱいミーティアを突き飛ばす。
「わっ」
完全に油断していたミーティアは、そのまま車道に倒れ込みそうになり──。
「ミーティア‼︎」
彼女を助けようとして、伸ばしたユリアの手が空を掴んだ瞬間。
誰かが、ミーティアを身体ごと引き寄せ、抱きとめた。
「……危なかったな」
それは、この場にいないはずの人の声であり、いてはいけない人でもあって。
「……嘘でしょ」
自分を助けた人物の顔を見て、ミーティアは思わず身を強張らせた。
街中を探し回って漸くフェルディナントを見つけた時、ミーティアがまず最初に思ったのは、それだった。
ユリアに腕を引っ張られる形でカフェを飛び出したミーティアは、その後ユリアの思い付くまま色々な場所へと連れ回され、服を着替えさせられたり、髪型を変えさせられたり、とにかく全身を弄られた。
その後はフェルディナントを探すため、慣れない靴で街中を走らされ──ぶっちゃけどうして自分がそんなことをしなければいけないのか、彼に会うのにわざわざ服を着替えさせられた理由はなんなのか、分からないままであったけれど──そうして息を切らせながらも、やっとこさ見つけた彼は、見知らぬ令嬢に抱きつかれていて。
自分がこんなにも苦労したというのに、この男は何をしているのかと殺意を持って近付こうとしたところで、ユリアによって止められた。
「待ってミーティア。ここは令嬢らしく……ね?」
令嬢らしくってなんだろう?
反射的にそう思ってしまったものの、いつもの調子で話しかけてはいけないのだということぐらいは理解できたから、ミーティアなりに精一杯令嬢っぽく声をかけた。
「まあ! 貴方達、公衆の面前で何をしていらっしゃいますの?」
それがつまり、この一言だったわけなのだが。
正直これが正しかったどうかは分からない。けれど、それを耳にしたフェルディナントの動きは明らかに止まったから、少なからず効果はあったんだと思う。
それからゆっくりと時間をかけて、彼の顔が徐々に自分へと向けられるさまを見つめていたら──目が合った瞬間、彼の漆黒の瞳は顔から溢れ落ちそうなほどに大きく見開かれた。
「は……?」
続いて発せられた、間抜けな一言。
「え……ちょ、ま……は?」
いつも落ち着いているフェルディナントとは思えない、動揺した表情と声だった。
それを観察できただけでもユリアに弄られた意味はあったのかも? などと、ミーティアが暢気なことを考えてしまったほどに。
動揺しきっている姿を見るに、分厚いレンズの眼鏡を外し、お洒落をした自分を見ても、フェルディナントは疑うことなく自分がミーティアであることを把握しているようだ。ただ、ここまでの美少女──だってヒロインだし──だとは思っていなかったようで、面白いぐらいに取り乱している。
けれど取り敢えず、今は見知らぬ令嬢から彼を取り戻すのが先決だ。
ミーティアはずい、と一歩足を前に踏み出すと、令嬢の腕を掴んで無理矢理フェルディナントから引き剥がした。
「痛っ……ちょっと貴女、突然出て来て失礼なんじゃなくって?」
令嬢が憎々し気に睨み付けてくるが、そんなことはどうでも良い。令嬢に睨まれたところで、怖くもなんともないのだから。
それよりも許せないのは、フェルディナントだ。
ミーティアは彼の襟の辺りをガッチリ掴むと、勝手にいなくなった挙げ句、見知らぬ令嬢を引っ掛けてたことに文句を言おうと、掴んだ襟を力任せに引き寄せて──。
チュッ。
勢い余ってキスをしてしまった。
「…………っ‼︎」
これには、少し離れた場所で二人を見守っていたユリアも驚いてしまい。
ミーティア……意外と大胆だったのね。
などと、心の中で感心──無論ミーティアは、そのことに気付きもしていないが──された。
しかし、それが面白くなかったのは、友人に突き飛ばされてでもフェルディナントとお近付きになろうとした令嬢であり。
彼女は、人の多い街中で予想外にキスしてしまい、真っ赤になって固まる二人へと近付くと、大声を張り上げた。
「ちょっと貴女! こんな街中で破廉恥よ!」
勢い良く両手を突き出し、力いっぱいミーティアを突き飛ばす。
「わっ」
完全に油断していたミーティアは、そのまま車道に倒れ込みそうになり──。
「ミーティア‼︎」
彼女を助けようとして、伸ばしたユリアの手が空を掴んだ瞬間。
誰かが、ミーティアを身体ごと引き寄せ、抱きとめた。
「……危なかったな」
それは、この場にいないはずの人の声であり、いてはいけない人でもあって。
「……嘘でしょ」
自分を助けた人物の顔を見て、ミーティアは思わず身を強張らせた。
1,019
あなたにおすすめの小説
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【完結】本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる