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70 行くかやめるか
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レスターから目を逸らし、私は唇を噛んで下を向く。
これ以上、彼と話をしても意味がないと分かったからだ。無意味であるなら、今日はもう帰った方が良いのかもしれない。
けれど、なんと言って帰れば良いんだろう? このまま誤魔化して帰ったのでは、あまりにも無責任すぎる。
私が今日レスターと話をしたことによって、治療に対する彼の気持ちを後ろ向きにしてしまった。そんなつもりは全くなかったものの、私のせいでそうなってしまった以上、責任を取らなければいけないだろう。
でも、どうやって?
ミーティアの代わりに私が他国へついて行くとか?
それならフェルもミーティアと離れなくて良くなるし、レスターも赴くだろうから、一石二鳥なのでは? という気がする。けれど治療へはパルマーク様もついて行くことになっているとフェルが言っていたから、そうするとややこしくなるかもしれない。
どちらにしろ、毎回何かしらを考えて動いているフェルのことを考えると、私が勝手な判断をして動くのは、得策ではないだろう。かといって、このままレスターと話していても埒は明かないし、今日のところは一旦お暇して、また後日仕切り直した方が良いのだろうか?
そんな風に考えていると──。
「ユリア! 僕とやり直してくれないか? 今度こそ僕は君を大切にすると約束するよ。二度と君から離れないし、悲しい思いもさせないと誓う。僕は君がいないと生きていけないんだ。だから──」
堰を切ったかのように一気に喋り出し、再びレスターが距離を詰めてくる。けれど。
「だったらまずは足の治療を受けるべきなんじゃねぇか?」
どこからか、声が聞こえた。
驚いて声のした方を見ると、芝生を踏みしめながら、ゆっくりと此方へ歩いて来るフェルの姿があって。
「え……なんで? どうしてここに……?」
レスターに同情する素振りを見せつつも、フェルがコーラル侯爵家を訪ねることは、今まで一度としてなかった。私がレスターのお見舞いに毎日通っていた時でさえ、彼は頑なに、ここへ来ようとはしなかったのに。
一体どういう心境の変化があって、今日はここへやって来たのだろうか。
私がじっとフェルを見つめていると、彼は私の両腕を未だ掴んだままだったレスターの手を徐に外させ、上から見下ろすようにしてレスターへと視線を向けた。
「な、なんだ……?」
冷たいフェルの瞳に怯んだかのように、レスターが車椅子を後退させ、距離を取る。
それを追うようにフェルは足を一歩前に踏み出すと、お辞儀をするような体勢でレスターへと顔を近付けた。
「お前さぁ……足が動かなくなったせいでユリアに婚約解消されたと思ってるんだったら、なんでそれ治そうとしないわけ? なんか言ってることおかしくないか?」
至近距離から見つめてくるフェルの瞳から逃げるかのように、レスターはあからさまに視線を逸らす。
「だ、だから……僕が離れている間に、ユリアに別の婚約者ができると嫌だから……」
「へえ。……でもさ、あんたが傍にいたら、ユリアには他の婚約者ができないわけ? 俺はそんなことないと思うけど?」
言うなりフェルはレスターの腕を引き、車椅子から芝生の上へと彼の身体を引き倒した。
「レスター!」
咄嗟に私と使用人達が駆け寄ろうとするも、フェルの鋭い視線を前に、足を止めるしかない。
どうしてフェルはあんな酷いことを?
そう思いつつも邪魔してはいけないような気がして、私は固唾をのんで二人の様子を見守る。
フェルは使用人達にも近付かないよう、再び目で威嚇すると、私の腕を掴み、レスターへと声をかけた。
「ほら、起きてみろよ。ユリアが婚約できないよう邪魔するんだろ? できるならやってみろよ、その身体で」
フェルはレスターに見せつけるかのように、わざと私の肩に手をまわし、レスターの正面へと移動する。
「ずっと傍にいるんだろ? その足じゃ目の前でこんなことされても邪魔なんてできそうにないけど、それでもお前は治療を拒んでユリアの傍にいるんだよな? ほら、邪魔してみろよ」
「くっ……う……」
両手で芝生を掴みながら、レスターが這うようにしてフェルへと近付き、手を伸ばす。
それを二、三歩退がることで簡単に躱すと、フェルは──いつもの──意地の悪い笑みを浮かべた。
「……で? 他国行きはやめるのか? やめたいなら別にやめたって俺は構わねぇけど、どうする?」
まぁ、やめたらあんたの足は一生そのままだろうけど。
と付け足し、レスターの神経を逆撫でするかのように、フェルは私の頬を撫でた。
ここまでされて「やめる」だなんて言い出さないことは分かっているだろうに、それでもレスターの口からきちんとした答えを引き出したいのだろう。
「…………」
芝生の上に這いつくばったまま、レスターが憎々し気にフェルを睨み付ける。
フェルの身元は分かっているはずなのに、今のレスターはそれどころじゃないらしい。対するフェルも、特段それを気にする様子はなく、いつも通りの笑みを浮かべて受け止めている。
そうして──暫く経過した後。
レスターはがっくりと項垂れると、小さな声でこう言った。
「よろしく……お願いします……」
瞬間、フェルの表情が「してやったり」と言うような、心底楽し気なものに変わる。
こんなにも簡単にレスターの気持ちを変えられるのなら、最初から一緒に来てもらえば良かったと、私は思わずにはいられなかった。
これ以上、彼と話をしても意味がないと分かったからだ。無意味であるなら、今日はもう帰った方が良いのかもしれない。
けれど、なんと言って帰れば良いんだろう? このまま誤魔化して帰ったのでは、あまりにも無責任すぎる。
私が今日レスターと話をしたことによって、治療に対する彼の気持ちを後ろ向きにしてしまった。そんなつもりは全くなかったものの、私のせいでそうなってしまった以上、責任を取らなければいけないだろう。
でも、どうやって?
ミーティアの代わりに私が他国へついて行くとか?
それならフェルもミーティアと離れなくて良くなるし、レスターも赴くだろうから、一石二鳥なのでは? という気がする。けれど治療へはパルマーク様もついて行くことになっているとフェルが言っていたから、そうするとややこしくなるかもしれない。
どちらにしろ、毎回何かしらを考えて動いているフェルのことを考えると、私が勝手な判断をして動くのは、得策ではないだろう。かといって、このままレスターと話していても埒は明かないし、今日のところは一旦お暇して、また後日仕切り直した方が良いのだろうか?
そんな風に考えていると──。
「ユリア! 僕とやり直してくれないか? 今度こそ僕は君を大切にすると約束するよ。二度と君から離れないし、悲しい思いもさせないと誓う。僕は君がいないと生きていけないんだ。だから──」
堰を切ったかのように一気に喋り出し、再びレスターが距離を詰めてくる。けれど。
「だったらまずは足の治療を受けるべきなんじゃねぇか?」
どこからか、声が聞こえた。
驚いて声のした方を見ると、芝生を踏みしめながら、ゆっくりと此方へ歩いて来るフェルの姿があって。
「え……なんで? どうしてここに……?」
レスターに同情する素振りを見せつつも、フェルがコーラル侯爵家を訪ねることは、今まで一度としてなかった。私がレスターのお見舞いに毎日通っていた時でさえ、彼は頑なに、ここへ来ようとはしなかったのに。
一体どういう心境の変化があって、今日はここへやって来たのだろうか。
私がじっとフェルを見つめていると、彼は私の両腕を未だ掴んだままだったレスターの手を徐に外させ、上から見下ろすようにしてレスターへと視線を向けた。
「な、なんだ……?」
冷たいフェルの瞳に怯んだかのように、レスターが車椅子を後退させ、距離を取る。
それを追うようにフェルは足を一歩前に踏み出すと、お辞儀をするような体勢でレスターへと顔を近付けた。
「お前さぁ……足が動かなくなったせいでユリアに婚約解消されたと思ってるんだったら、なんでそれ治そうとしないわけ? なんか言ってることおかしくないか?」
至近距離から見つめてくるフェルの瞳から逃げるかのように、レスターはあからさまに視線を逸らす。
「だ、だから……僕が離れている間に、ユリアに別の婚約者ができると嫌だから……」
「へえ。……でもさ、あんたが傍にいたら、ユリアには他の婚約者ができないわけ? 俺はそんなことないと思うけど?」
言うなりフェルはレスターの腕を引き、車椅子から芝生の上へと彼の身体を引き倒した。
「レスター!」
咄嗟に私と使用人達が駆け寄ろうとするも、フェルの鋭い視線を前に、足を止めるしかない。
どうしてフェルはあんな酷いことを?
そう思いつつも邪魔してはいけないような気がして、私は固唾をのんで二人の様子を見守る。
フェルは使用人達にも近付かないよう、再び目で威嚇すると、私の腕を掴み、レスターへと声をかけた。
「ほら、起きてみろよ。ユリアが婚約できないよう邪魔するんだろ? できるならやってみろよ、その身体で」
フェルはレスターに見せつけるかのように、わざと私の肩に手をまわし、レスターの正面へと移動する。
「ずっと傍にいるんだろ? その足じゃ目の前でこんなことされても邪魔なんてできそうにないけど、それでもお前は治療を拒んでユリアの傍にいるんだよな? ほら、邪魔してみろよ」
「くっ……う……」
両手で芝生を掴みながら、レスターが這うようにしてフェルへと近付き、手を伸ばす。
それを二、三歩退がることで簡単に躱すと、フェルは──いつもの──意地の悪い笑みを浮かべた。
「……で? 他国行きはやめるのか? やめたいなら別にやめたって俺は構わねぇけど、どうする?」
まぁ、やめたらあんたの足は一生そのままだろうけど。
と付け足し、レスターの神経を逆撫でするかのように、フェルは私の頬を撫でた。
ここまでされて「やめる」だなんて言い出さないことは分かっているだろうに、それでもレスターの口からきちんとした答えを引き出したいのだろう。
「…………」
芝生の上に這いつくばったまま、レスターが憎々し気にフェルを睨み付ける。
フェルの身元は分かっているはずなのに、今のレスターはそれどころじゃないらしい。対するフェルも、特段それを気にする様子はなく、いつも通りの笑みを浮かべて受け止めている。
そうして──暫く経過した後。
レスターはがっくりと項垂れると、小さな声でこう言った。
「よろしく……お願いします……」
瞬間、フェルの表情が「してやったり」と言うような、心底楽し気なものに変わる。
こんなにも簡単にレスターの気持ちを変えられるのなら、最初から一緒に来てもらえば良かったと、私は思わずにはいられなかった。
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